悪役令嬢は第○回会議に臨む
「ふむ。ヒロインの魅惑が効きやすいのは思春期を拗らせた男ということだな?まあよく考えればメインキャラは皆そうだしな、……俺も含めて。
じゃあたとえ俺たちに強制力が働くとしても、ゲームの中の俺たちとかけ離れた性格になれば少しは強制力も弱まるんじゃないか?」
「えーっと、ゲームの中の私たちと違う言動をすればいいってことですよね?たしかに…、そうすれば少しは弱まる可能性はあると私も思います」
ゲームの中の自分の言動を思い出したのか渋柿を頬張ったような表情をしつつもそう言ったアルベルトに私は大きく頷いた。たしかにそうかも!!
うーん、でもちょっと混乱してきたな。一旦ここまでの内容を整理してみよう。まあまだあくまで推測の段階だけど、仮定しちゃってもいいよね?この前アルベルトもいいって言ってたし。いいよね??よし!
私は1人頷くと新しい紙を手に取った。え?なに?いや、今までの事をちょろっとまとめてみようと……、あら、一緒にやってくださる?それはありがたいです。
私は有難く皇太子殿下の申し出を受けた。インクをつける前の羽根ペンを指で挟んで左右に振りながら話し始める。メイドに見られたら目を剥いて叱られそうな行儀の悪さだけど、誰も見てないからいいよね!!
ちなみにアルベルトはあまりそういうことは気にしない。公的な空間ならともかく私的な空間では好きにすればいい、みたいなスタンスだ。
「えーっと、まずヒロインの能力?ですけれど、主人公補正を持っているということですよね?そして今わかる限りで言うと、ヒロインの主人公補正は“ 魅了 ”。絶世の美少女かなにかに見える能力……」
「そうだな」
いやまあ、美少女に見えるっていうか実際めちゃくちゃカワイイのかもしれないけどさ。まあそれはなんかムカつくから考えない方向でいこう……。めちゃくちゃカワイイヒロインとかなんだか腹が立つ。なんでだ?ヒロインが好きじゃないからかな??
うーん、白雪姫の継母もこんな気持ちだったのだろうか。まあ今の私も悪役令嬢という役どころを持った世の悪役の中の1人だし、かの有名な悪役に倣って毒林檎でも作ろうかな…。
ふん、まあ私があの白雪の継母だったら、密かに猟師を雇って殺すなんてことはしないけどね。もっと穏便に済ませるよ。そう、つまり高カロリーの食事を与え続けてブクブクに太らせるのだ。殺すよりは穏便だしリスクも低い。長期戦である。密かにじわじわと1番の美女の座から蹴落としてやるのだ。脂肪の恐ろしさを思い知るが良い、くっくっくっ……。
「……ハッ!」
うわ、やばいやばい。心の闇が出てしまった……。最近打倒ヒロインを考えすぎて性格が悪くなりつつあるような気がする。大変だ。気をつけないと!このままいったらゲームの悪役令嬢が爆誕してしまう!
私はブルブルと身震いをした。本当、気をつけねば…。
「どうした?寒いのか?」
「え!?い、いえ、寒くはないです。お気遣い頂きありがとうございます」
じゃあどうしたのかって?えー、長いけど……聞く?あ、そう。うんうん。白雪姫って話が前世にはあってねぇ。そうそう。え?俺なら事故を装って顔に傷を?それか魔法が使えるなら脱毛薬とか作って頭に塗る?
おおぉ……、まあ、あの世界の諸事情は分からないが、もし状況的にも技術的にもそれができるなら有効そうな手だ。
感心した私は負けじとアルベルトに脂肪作戦を伝えた。そして、ハゲさせるのもいいけど、めちゃくちゃ剛毛にする薬とかもいいですよね!と付け加えておく。するとアルベルトは、確かに有効そうだ。と深く頷いた…………………
「……ま、まあ、何はともあれ、ヒロインはとても可愛いと。こういうことですよね?」
「そうだな。まず容姿でマウントをとると。そういうことだろう」
無言で顔を見合せた私たちは、お互い暗黙の了解で何かを察してさっと話題を変えた。
ゴホン。よし。まあともかくそういうことだ。ヒロインはカワイイ!と。よし。本題に戻ろう!!!
顔に傷とか肥えさせるとかハゲさせるだとか、お互いからでてきた性格の悪すぎる提案は忘れよう。というか低レベルすぎて泣けてくる。何を言ってるんだ私達は。いや、そもそもの発端は私か?私なのか?……何も言うまい。
と、いうわけで、一般人の思春期拗らせ男も、かわいいヒロインに特定の言葉をかけられると主人公補正のせいでヒロイン狂信者になる。つまりヒロインの補正はゲームの登場人物以外にも効くということであり、ヒロイン側は味方を増やしやすいということである。
よし。ここまでがまとめね?さあ、その先の話をしよう。
アルベルトが思案顔で話を切り出した。
「一般人に補正が働いていると思われる事実を考えると、俺たちメインキャラには、恐らくより強力な力が働いてくることだろう。そう仮定しよう」
「はい」
「と、なるとだ。メインキャラに強制力が強く働く理由は3つ、現時点では予測ができる」
「はい!」
その言葉を聞くと同時に私は挙手をして発言を求めた。アルベルト教授は学生セリーナを指名した。はい、セリーナさん。
「理由の1つは、メインキャラが全員思春期大爆発していることだと思います」
「よく出来ました」
ぱちぱちぱち。
うん。マイヤーなんか問題じゃないよ。
何を血迷ったのか研究者や学者をスルーして高等科の学生に革新的な理論を披露し、この世の誰もこの理論を理解できないんだ、と世の中に絶望している科学教師。
どうせ俺は魔族の子で、本当の自分にも笑顔が偽りなことにも誰も気付いてくれない孤独な皇子なのさ……、と世を儚む皇太子。
幼い頃自分の軽率な行動で家族に怪我をさせてしまって、それ以来なぜか伊達メガネをかけ続けることを決意し、
「世界を1枚のガラス越しに見ることで私は自分を隔離しているんです。軽率さを抑え慎重になって、もうこれ以上誰かを傷付けないためにね……」
と謎のポエムを高らかに唄う中二病大爆発な伯爵令息。
あ、最後の奴に関しては最近詳細を思い出したメインキャラの1人である。私の記憶をほじくり返すためにアルベルトが四苦八苦した成果だ。
彼は私の記憶を刺激しようと、私がまとめてきた前世にあった悪役令嬢ものの話の資料を読み込んで、登場人物にはパターンがあることを発見し、次々と私に質問を繰り出して見事、私の失われていた記憶を釣り針に引っ掛けたのである。
ワンコ系、俺様系、無口系、チャラい系、冷静系、敬語系、メガネ系、この中のどれがメインキャラにいた?ぼんやりとでもいいから、これかな、というのがあったら教えてくれ。
というような質問から始まって、アルベルトに誘導されながら私は必死に記憶をさぐったのだ。
結果、冷静系と敬語系とメガネ系が融合したような奴がなんかいたなと思い出し、そこから、ん?メガネは伊達だったような〜、と連想ゲームのようにズルズルと思い出すことが出来た。
どうでもいいけどアルベルトの口からワンコ系とか聞きたくなかったんだけど、まあそれはおいておこう……。
ちなみに伊達メガネ野郎の詳細を思い出して会議で披露した時に、2人で様々なツッコミをしたのだが長くなるので割愛し、ここではMVPだけを紹介したいと思う。
MVPは〜、こちらっ!
「その行動そのものが軽率だということに早く気が付け愚か者」
byアルベルト・ヴァン・ミューゼル
遅くなりました……。次回からはどんどん話を先に進めていく予定です。




