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悪役令嬢は婚約者に全てを丸投げする  作者: 上杉凛(地中海のマグロ)
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悪役令嬢は若さに負けそうになる

約1週間ほど前の話だ。


その日、私はお城の皇族の居住区の廊下の一つで、侍女や侍従をゾロゾロと引き連れた第二皇子様御一行と怖すぎる出会いを果たした。

角を曲がった瞬間、第二皇子の満面の笑みが目の前に現れた時ときたらもう!!驚きすぎて心臓どころか全ての内臓が口から飛び出る所だったよ…。何とか取り繕って、息を呑む程度で押さえられたのは奇跡だ。あまりの驚きに口の中に謎の酸味を感じたほどである。勘弁してくれ…ホラーは苦手なんだよ。


しかし、この出会いはあたかも偶然かのように演出されてはいたが、本当のところはどうだったのか私には分からない。というか第二皇子は突然出てきた私を見ても不自然なくらいに驚いていなかったし、今考えると十中八九、偶然を装って政敵の婚約者の偵察に来ただけなような気がするのだけれども、もし私のことを先回りして廊下の陰で待ち構え、わざと驚くタイミングを狙って飛び出してきたのなら絶対に許さない。冗談じゃなく心臓が止まるかと思ったほど驚いたし、驚いた後に顔とか声とか息とか色んなものを取り繕って悲鳴を飲み込み心臓の鼓動を押えるのが本当に大変だったのだから。ハイレインめ、2日に1度の頻度でこむら返りに苦しむ呪いをかけてやる。私の内臓に謝れ。



ばったり廊下で遭遇した2歳年下の彼、第二皇子ハイレインはピンクの髪に青い瞳の可愛い顔をした少年で、アルベルトとは顔から性格から全てが正反対だった。


彼はにこにこと愛くるしい笑顔とくるくるよく変わる表情にあざとい仕草や上目遣いを駆使してするりと相手の懐に潜り込み気に入られるのがデフォルトの少年だったが、私の見る限りだとそれは素ではなく、狡猾に全てを計算している腹黒である。


あ、なんで分かるのかって?まあもし違ってたらごめんだけれども、一応理由はある。前世だ。

そう。前世の私はよく近所の子供たちと遊んであげたりと面倒を見ていたため、けっこう子供に詳しかったりするのである。

そしてその彼女が私に徐々に同化しつつあり、前世の記憶を自由に取り出したりできる今、なんとなく今の私にも子供についてはよく理解出来るのだ。……私も子供だからこんなことを言うのは恥ずかしいんだけどさ。


ともかくそういう観点からよく観察すると、ハイレインの演技は結構バレバレだった。まあまだ小さいからね。これが大きくなるともっと磨きがかかるんだろうけど。


それはいいとして、不思議なことが1つある。こうしてみると第二皇子ハイレインは腹黒ニコニコ子犬系男子であり、いかにも乙女ゲームにいそうなキャラであるのだが、しかし彼は攻略対象ではないのだ。普通にメインキャラっぽいんだけどなんでだろう。


うーんひょっとして隠しキャラなのかもしれないなぁ。そう考えた私は心の中でハイレインのおでこにベーンと警戒のマークを貼り付けた。後でアルベルトに言おう。隠しキャラの可能性大だと報告しておこう。


……まあそれにしても。




「わぁ!兄上の婚約者のセリーナさんだ!こんにちは!」


「フォークナイト公爵家のセリーナと申します。殿下におかれましてはご機嫌麗しく、」


「まあまあ。そんな畏まらなくてもいいよ。未来のお義姉様だし、気楽に接して欲しいなぁ」


う゛っ。バチンと放たれたウィンクが私の精神を消耗させた。キラキラしてやがる……。



口元に笑みを浮かべて挨拶し丁寧に礼をとった私を遮って、キランと白い歯を光らせたハイレインがそう言いながら笑顔で飛び跳ね、その瞬間、正体不明のキラキラパワーが私に圧しかかってきた。うぐっ。なぜこんなに重苦しい気分に…。


「こんな素敵な義姉上ができるなんて僕、本当に嬉しいんだ!だからセリーナさんとは仲良くしたいなって思ってるんだけど…」


きゅるんとした笑顔で小首を傾げ、もじもじと両手をぎゅっと握りしめながら、明るく、だが少し不安げな大きな瞳の上目遣いでこちらを見上げるハイレイン皇子は、なんなら私よりよほど女子力が高い。きゃぴきゃぴしている。


…まぶしい。


なんだろうこの謎の敗北感。私はキラキラした圧力に必死に抗った。負けるなセリーナ!重苦しい気分なんて吹き飛ばしてしまえ!と、密かに気合を入れるがあまり効果がない。くそお。私をこんな気分にさせるのは一体なんなんだ!キラキラ笑顔か?溢れ出る女子力か?9歳児のくせしてやけに様になるウィンクか!?



「………………」


いや、そのどれでもないな。なんというか……、そういうの以前の問題な気がする。だってほら、見てよ、この活力に溢れて弾けるようなこの躍動感とか、元気いっぱいな動作とか…。もう存在そのものがさ、、


「もちろんですわ!私の方こそぜひ仲良くさせて頂きたいと前から思っておりましたの。殿下の方からもそう仰っていただけるなんて光栄です」


などと型通りの挨拶をしながら、若いなぁと自分の年齢を棚に上げて私は遠い目をし、そこでふと閃いた。


原因がわかった。若さだ。




「本当!?よかったぁ~。嬉しいなぁ!」



原因が若さとはどういうことかというとね、うん。いや、だってさ、改めて考えてみたら私とアルベルトってヤバくない?


そばに控えていた侍女からぬいぐるみを受け取って抱きしめながら溌剌と笑うハイレインをみて、私は危機感をおぼえた。


私の返事に嬉しそうな声を上げてぴょこぴょこと飛び跳ねるハイレイン。午後は友人達とハイキングして裏の森でお花をつむんだ!と楽しそうに子供らしい予定をいきいきと話すハイレイン。……ん?お花?まさかとは思いますがそれは植物の話ですよね?

……やめろ私、深読みするな。そうに決まってるでしょうが。皇子様がそんなそんな……。ゴホン。まあいい。


対して、のんびりとお茶をすすりながら話し合い、紙に対策についてまとめる私とアルベルト。午後は授業を終えて共に復習をしたあと、雑談をしたり会議をしたり、時間があればそれぞれの趣味に打ち込んだりするのが予定の私とアルベルト。ちなみに私の趣味は絵を描くことと本を読むことで、アルベルトの趣味は読書と模型作りである。


静かな室内で、黙々と模型を組み立てるアルベルトとお菓子を食べながら無言で本を読む私…。

模型を完成させ、満足気にお茶とお茶請けを食べるアルベルトと、その模型のスケッチにいそしむ私……。


ここ一週間ほどの私たちの嘘偽りのない姿を思い起こすとなぜか涙が出そうになった。やばい。枯れている。枯れているよ!若さの欠けらもない。少なくとも婚約を結んだ皇太子と公爵令嬢が2人揃ってすることとは到底思えない。


婚約中の皇太子と公爵令嬢。なんて素敵な字面!夢が広がるフレーズ!



……だというのに。



うわーん!!別にいいじゃん!!よく考えてもみろよ!いくら皇太子だからってそんな毎日ダンスパーティー開いてるわけないでしょ!現実は地味なんだよ!ていうか別に気まずい沈黙とかじゃないんだし!おたがい趣味に没頭する時間は幸せで楽しいんだよ!インドア派で何が悪いんだこんちくしょう!



「セリーナ」


と、そこで、正体不明の焦燥感に襲われた私が心の中で誰かに向かって言い訳を叫んでいると、静かな足音がしてアルベルトが現れた。


あらすごいタイミング。まあたしかに噂をすれば影とはいうけれど。






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