悪役令嬢は生ける屍になる
お久しぶりです!
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「お嬢様。…お嬢様、お加減はどうですか?回復なさいましたか?」
「…………」
自分の女子力の低さに涙した次の日の夕方、私は自室のベッドの上で打ち上げられたアザラシの如くピクリともせずに転がっていた。
「お嬢様……もうすぐ夕食のお時間なのですが…。起き上がれそうですか…?」
「ん゛ん゛」
サラがそっと声をかけてくるのに私は唸り声で返す。無理。ドレスに着替えて優雅に食事なんて無理。ヒールなんて履けない。無理。
赤ん坊の頃から私の面倒をみてくれている第ニの母は唸り声から私の真意を見事に読み取り、では今夜は軽めのものをお部屋に運ばせましょう。殿下にはお伝えしておきますね。と言って、薄暗くなってきた部屋に小さな火の魔石をいくつか置いてぽわんとした灯りをともすと、静かに退室した。
ううぅ、ありがとう。そして普通にお腹はすいているから軽めじゃなくてもいいんだよ…。ああ、でも今は指一本動かす気力がないからまあいいか。
そんなことを思いながら私は酷く苦労して寝返りをうった。ゆらゆら、ゆらゆら、火の魔石の中で炎の魔力が渦巻くのが目に映る。綺麗だなあ。
「あーー…疲れた」
大きく息を吸って、吐いて。息を吐くと同時にそんな独り言をボヤく。もう眠いな。寝ちゃおうかな。あーもう何もしたくない。まさに生きる屍だ。私のHPはゼロである。ゲージは赤い。
ちなみに私の気力をここまで吸い取った犯人は護身術の授業だ。日頃の運動不足がたたって、初心者向けの優しいメニューしかこなしていないのにも関わらず、30分間の慣れない運動は私から全ての気力を奪っていった。
まあ、さすがにここまで疲れているのは皇城までの長旅や日頃の疲れが出てきているからだと診断されたけど。
あー、もうごはんいらないや。寝よう。でも寝るには寝る支度をしなければならない。歯磨きしないと。顔洗わないと。お風呂…はさっき入ったから大丈夫。ううーー。面倒くさいー!!だがいくら面倒だからといって歯磨きもせずに寝る訳にはいかない。くそぉ…。
私は枕元の鈴の形をした魔道具を手に取って魔力を流し込んだ。そしてそれがぽわんと薄く光ったのを確認して軽く振るとそのまま枕元に放り投げる。
この魔道具は分かりやすくいえばナースコールのようなものだ。私が持っている鈴型のものに魔力を流し込むと、サラが持っているブローチ型の魔道具が光って鈴の音が鳴る。こうして私がサラを呼んでいるのがわかるというわけ。
無属性の魔法を応用してなんやかやで作られたとっても便利な魔道具である。私に仕組みは理解できないがとりあえず技術って素晴らしい。さて。観念してそろそろ起きるか…。
「よいしょっとぉ……あぎゃっ!」
サラが来る前に起き上がろうと思い、重たい体を何とか起こしてベッドからおりて立とうとした私は、いつのまにか襲ってきていたらしい筋肉痛に悲鳴をあげてベチャッと床に崩れ落ちた。さっきマッサージしてもらったのにぃ!効果ないじゃん!!
そのままやってきたサラに慌てて助け起こされ、数人のメイドに寝支度の手伝いや足のマッサージなどをしてもらった私は、筋肉痛に呻きながら就寝し、筋肉痛に呻きながら朝日を迎えた。
◆❖◇◇❖◆
皇城に来てから1ヶ月ほど経った。全てが順調に進んでいて、毎日がとても充実しているのを感じる。
最初の2週間は地獄の筋肉痛に苦しんだが若いだけあってすぐに慣れ、今では基本的なメニューはそれなりにこなせるようになってきたし、そのほかの授業の方もアルベルトの協力で効率の良い勉強のリズムを掴むことが出来て順調だ。
日々のの対策会議も雑談を交えながらもいいペースで進んでいるし、アルベルトとも更に仲良くなれたと思う。良いことずくめだ!
ああでも一つだけ、残念なこともあったな。ハイレイン第2皇子、アルベルトの弟のことだ。この前ばったり会ったんだけどね。うん。私はその時、どうやら私の希望はかないそうにないと確信した。
なんというか、まあ分かってはいたことだけれど、この世界は乙女ゲームの世界なのかもしれないけどやはり現実であって、そう都合よくはいかないんだなって。ああ無情。
おかげさまで無事合格致しました。応援してくださった皆様、本当にありがとうございます!
更新再開します!
活動報告の方も更新します。




