悪役令嬢はピンとくる
「噂になっているらしいが大したことはないさ。偶然中庭で会ったから声をかけてみただけだ。まあ向こうは俺を嫌っているからそんなに友好的な会話をした訳でもないけどな」
つまらなさそうな表情でそういったアルベルトをみて、ほうほうと私は頷く。おお、ハイレインはアルベルトのことを嫌いなのか。ということはやはり仲が悪いのかな?いやでも今の感じだとアルベルトはそんなに嫌っているわけでは無さそうだけどなー…弟のことをどう思ってるんだろ。
気になるけどこういうのは繊細な問題だし、他人が首を突っ込むのもなぁ……、なんて少し迷ったが、将来の家族という単語が頭に浮かんで私は迷いを捨てた。まあこれでも婚約者だし、聞くだけならいいんじゃないかな。うん。聞くだけ聞いてみよう。ええそうですとも、私は野次馬根性旺盛ですよ。覚悟を決めた私は単刀直入に聞くことにした。
「なるほど、……あの、すみません、答えたくありませんでしたらそう言っていただいて全然構わないのですが、その、アルベルト様はハイレイン殿下のことをお嫌いではない…?」
「気を遣わなくてもいい。ハイレインのことは、そうだな。別に嫌いじゃないが好きでもない…といったところか。兄弟とはいえ腹違いだし行事の時くらいしか顔を合わせないからあまり接点がないんだ。だから、別に特別どうとも思わない」
「そうなんですね…」
「まあ向こうはあからさまに俺を嫌ってるが、おおかた母親に色々吹き込まれているんだろう。この間話した時も感じたが、本心から俺を嫌っていると言うよりは刷り込みに近いな。なんというか、言わされている感じがしたし…。それでも俺の話を一応納得して聞いてくれたから本当は素直で良い奴なんじゃないかと思うんだが、やはり俺にはなかなか心を開いてはくれないな」
淡々とした口調でそんなことを言いつつもどこか面白くなさそうな顔をしているアルベルトに、私はピンときた。あら?もしかしてこれは……。なんだよ、可愛いとこもあるじゃないか!
「なるほど!アルベルト様は弟君を気にかけてらっしゃるんですね!」
「は?何故そうなるんだ」
「え?」
え、自覚無し?いや、だって明らかに……。なんだよ、ツンデレか?ツンデレなのか?特に興味もないといいつつも気にかけている感じがビシバシ伝わってくるんですけど…。
私の感想に不本意そうな顔をしているアルベルトにそのことを伝えるべきか迷う私に、言いたいことがあるなら遠慮なく言え、と声がかけられた。あら、そうですか?それじゃあ遠慮なく。
「だってそんな感じが伝わってきますし…。それに感覚的な話を抜きにしても、今のお話からしてアルベルト様は弟君のことを結構分析してるじゃないですか。関心がなかったらそこまで考えないんじゃないのかなとも思いますし、それになんというか、弟君に心を開いて欲しそうに聞こえましたが……」
「気のせいじゃないか?」
「いいえ。気のせいではありません」
きっぱり。私は断言した。絶対に気のせいじゃない。本当に関心がない奴はそんなちょっと拗ねたみたいな可愛い顔はしない。うーん、大人びてるけどやっぱりアルベルトはまだ11歳だしなぁ。本当は弟と仲良くしたかったりするのかな?
この兄弟が仲良くしてくれたら私としても嬉しいな。
いや、本当よ?本当に純粋にそう思う。まあそれだけじゃないけどね。うん、普通に純粋にそんな思いもあるんだけど、それを抜きにしても兄弟仲を改善することにはメリットがある。ハイレインと仲良くなれば第2皇妃への抑えにもなるから宮中におけるアルベルトへの風当たりもマシになるだろうし、そうなればゲーム開始時点で描かれていた“ 孤独のアルベルト(笑) ” とはかなりに違った環境になり、その結果強制力も弱まったりするのではないだろうか。
弱まるかどうかはさっぱり分からないが、やれることはやっておいた方がいいと思う。まあ本当にこの兄弟がお互いを嫌いあっている状況だったら無理にとは言わないけど、今のアルベルトの反応を見る限りではそうでも無さそうだ。
うふふ、これは私の出番かもしれない!私は納得いかなそうな顔で考え込んでいるアルベルトに身を乗り出した。さあ、少年よ、胸を貸してあげようじゃないか!セリーナお姉さんになんでも言ってごらんなさいな!
「ときにアルベルト様。ハイレイン殿下とはどんなお話をなされたのですか?」
「…………」
突然自信満々な顔でにこにこ笑いながら問いかけた私にアルベルトはあやしむような目をしながらも、そうだな、と口を開き、私はそれに真剣に聞き入った。




