悪役令嬢はお悩み相談をする
お久しぶりです……。しばらく書いていなかったのでちゃんと書けてるか不安なのですが、よろしくお願いします。なにかおかしな点がありましたらぜひご指摘くださいませ。
翌朝支度を終えて、部屋まで迎えに来たアルベルトと共に朝食を摂ったあと、お茶を飲みながらこれからの大まかな予定というか時間割というかまあそんな感じのものを決めた。
我々の優秀な付き人たちはテキパキと私たちの要望を的確に反映させた予定表を作成し、あれよあれよという間に新たな予定表が出来上がって、私はその有能さに感動しつつもスケジュールの過密さに心の中で涙する。
あー貴族になりたいなー貴族になって楽してーとか思ってた前世の自分をぶん殴りたい。うふあは笑ってお茶会するだけでいい暮らしが出来ると思ったか?とんでもない。特権を享受するにはそれなりの代償があるのである…。少なくとも私の場合は。まあ貴族の中にも、前世の私が思い描いてた通りの自堕落な生活を送っている貴族の坊ちゃん嬢ちゃんは普通にいるんだけどね、ナタリアみたいな。
ナタリアといえば、この前の晩餐会で彼女と会った時のことを思い出して苛立ちがよみがえった私は大きく深呼吸した。え?なにがあったのかって?詳細は省くが簡単に言うと、勉強ばっかりしてつまらない女とバカにされたことを私は忘れない。
いや、さすがにこれを面と向かって言われたわけじゃないよ?ナタリアが自分の取り巻きに向かってそう悪口を言っているところを偶然耳にしただけである。だが許さん後で後悔するがいい。私は頭の中でナタリアの肌をニキビだらけにして溜飲を下げる。
ふん、奴はきっと将来苦労することだろう、キリギリスめ!いいか、私はアリだ。夏の間にせっせと食べ物を蓄えて冬に凍えるキリギリスを見て嘲笑う働きアリだ。ふん、せいぜい将来凍死するといいさ。今に見ていろ、私は頑張って死亡フラグを回避し立派な皇妃に……!ゴホン。まあそれはいいとして。
軽く頭を振ってキリギリスをバカにするアリの図を思考から追い出した私は、侍女から完成した予定表を受け取りざっと目を通して確認した。上に大まかな時間が書かれていて、下に細かな予定が載った表が書かれている。おお、わかりやすい!
うむ、よし。それでは今から皆さんに公爵令嬢セリーナと皇太子殿下アルベルトの一日の予定をご紹介致しましょうか。
まず、ストイックに生きると改めて決意した私たち(主に私)の朝は6時に起床することから始まる。7時から朝食、8時から授業を開始。そして当然の事ながら皇帝と皇妃では習得すべきものが違うため、私たちが受けるべき授業は同じのもあるが別のものもある。なので、午前中は教科が被る授業を共に受けることにして、午後はそれぞれ違う授業を受けることにした。
って、ん?あれ?アルベルトと私の終わる時間が少し違うな。
「終わる時間が少しズレるみたいだな」
「そうですね」
私は、私とアルベルトの予定が並んで書かれた紙を見てふーむと首をかたむけた。これを見ると私よりやることが多いアルベルトの方が30分だけ遅いようだ。この30分はどうしたものか。私が受けても問題ない授業だったら一緒に受けようかな。
「えーっとアルベルト様の最後の授業は…」
「戦闘訓練だな」
私が探し出すより先にアルベルトが見つけ出して答えてくれた。え?どこどこ?
ほら、と向かい側から少し身を乗り出したアルベルトが、私が持っている紙に書かれた表のある部分を人差し指でとんと叩く。あ、本当だ。ありがとうございます。
「戦闘訓練?剣術ですか?」
「いや、まあ剣も習うがそれ以外にも体術だったりと、どんな状況でも戦えるようになるための総合的な戦闘の訓練だ。もう少ししたら魔法と組み合わせた戦い方も習う」
「へぇ、そうなんですか」
うーん戦闘訓練かぁ。どうしよう。その時間はその日の復習でもして待ってようかな。さすがに私はそんな授業は必要ないしなぁ。まあそりゃそうだ。皇帝は有事の際には軍の最高指揮官となるし、追い詰められれば自ら指揮を執って戦うこともあるから総合的に強くなる必要もあるだろうが、皇妃は余程のことがなければ戦いには参加しないから別に魔法以外で戦えなくても問題は無い。というか皇妃が肉弾戦をする状況になったらもはやその国は終わり……
「この時間、空いてるならお前も一緒にやらないか?」
「ええっ!私が戦闘訓練!?国の終わりを想定してるんですか!?」
「…国の終わり?」
戦闘訓練…だと?公爵領の騎士たちの朝の訓練を思い出してさぁっと青ざめた私にきょとんとアルベルトが首を傾げる。そして私のひきつった顔を見て察したのかふっと笑って違う違うと訂正した。
「なにも俺や騎士がやってるようなやつをやれと言ってる訳じゃない。令嬢だって護身術を習う人もいるだろう?お前だって最低限自分の身を守れた方が安心だろ」
「ああ、そういうことですか…。いえ確かにそうですけれど…私は運動はそれほど得意では無いですし、護身術は何年か前に基礎だけ習いましたがもう忘れてますし、まるっきりの初心者なのですが……」
「問題ない。専用の教師をつける」
前世からのインドア派な私は遠回しに嫌だという意思を伝えたが、アルベルトはあっさり一刀両断した。くっ…!どうやらあまりにも遠回しすぎて伝わらなかったようだ。心の中でほろりと涙を零しながらも頷くと、ささっと私の予定表が優秀な付き人によって修正されて護身術の3文字が新たに加わった。ちくしょうっ!
「予定を立てるので午前中がもう終わりそうだな。今日は教師陣の手配などもあるし、この予定通りに動くのは明日からがいいだろうな」
「そうですね、私もそう思います」
ある程度これからの予定を立ておわり一区切りついたところで、ご苦労、とアルベルトが朝から協力してくれた皆をいたわると、場を解散させて人払いをした。
◆❖◇◇❖◆
「さて、昨日の話の続きをする前に、会わなかった間の話を聞かせてくれないか。昨日は聞く暇がなかったからな」
「ええ、喜んで」
人が居なくなった部屋で、こぽこぽと自分でティーカップにお茶を注ぎながら、私たちは会っていなかったこの半年間の話を始めた。なにもやらかしてないか?と聞かれて、彼の中の私の印象が大いに気になったが、確かにこの半年はやらかしまくったのでそれを話すと、アルベルトは笑いながらそれを聞いてくれた。話し終わった今も彼の肩は震えていて、よほどうけているようだ。どうやら私の失敗談がお気に召したらしい。
お前、そんなに抜けたやつだったか?と聞かれたので、いいえ、違いますと断言しておいた。私は抜けていない。ただちょっと、この半年は不慣れなことが続いたため言動がおかしくなっただけだ。私はそう信じている……っ!!
「不慣れなこと?」
「いえ、授業がですね、属性の儀を境に一気に難しくなりまして、ついて行くのが大変で余裕が全くなかったんです。まあ少しは慣れてきましたが」
おまけに食事制限までされていたので多分ストレスが溜まりまくっていた。まあそのおかげで痩せたからいいけど。食事制限というか間食とお代わりを禁止されただけだったけど。私の堪え性がなかっただけなのかもしれないけど!
私の皇妃教育は、私が小さい頃から既に始まっていた。もちろん、正式に婚約を結んだのは私が10歳くらいの時だが、その前から既に親同士の間で内々に決まっていたらしいので。フォークナイト公爵家は建国時からこの帝国に貢献してきた由緒ある名家だし、同じ年に王家とフォークナイト家に男の子と女の子が生まれた時点で、では婚約を、となっていたと聞く。
皇妃教育は、皇妃に必要な作法、心構えを学ぶことから始まり、貴族社会のルールについても細かく学ぶ。私の属性の儀までの皇妃教育の主な内容はこれだった。もちろんそれだけを学ぶ訳では無い。それに加えてほかの教科の初歩的なことも習得しなければならないのだ。
そして属性の儀を終えて半人前になり、これまで学んできたことを習得出来ていると見なされてから次の段階が始まる。
ここからは、政治、経済、歴史などの分野のより高レベルな次元での修得を目標とした授業が展開される。更には世界情勢についての知識、自国はもちろん他国の貴族や地位のある人の名前と各国の力関係や言語、特性なども覚えなければいけない。この段階からが皇妃教育の本当の始まりと言ってもいいだろう。
今までとは比べ物にならないほど難しくなった授業になかなか自分のリズムを掴むことが出来ず、私はかなりのストレスを抱えこんだ。日々の授業の分からないところを復習するのに加えて食事制限とアルベルトからの宿題を抱え込み、この半年間、実は私は死ぬほど忙しかったのだ。
ちなみに水ソファーに座って庭巡りをしながら読んでいた本は物語などではなく、歴史や経済や政治の本だ。授業で使った教材を復習をしていたのだ。まあたまには普通の本も読んでいたのだけれど。ソファーが禁止されたあたりからは、集中力が切れた日は息抜きで歩いて庭に行き、まだ大丈夫な日はこもって本を読んだ。
新しく展開された授業に慣れてくればそれなりに余裕も生まれるのだろうけど、余裕が全くなかったここ半年間、私の精神はやられていた。そう、かなりの勢いでやられていた。その結果がこの半年間の私の奇行の数々である。マナー関係に関しては若干反抗心が芽生えたのもあり、もうしるかっ!という気持ちで、身内の前ではやりたいことをやった結果、はしたないと言われまくったのだけど。普段の私はあそこまでやらかしまくったりはしない……はず。そう、たぶん、きっと。
授業云々のせいにもしきれない心当たりが次々と浮かんできたせいで最終的に若干目を逸らしながらもそんなことを話した私に、ふむふむとアルベルトが思案顔で頷く。そして、まあお前要領悪そうだしな。と何気に失礼なことをサラッと言われた。ぐっ、否定できない…!否定要素が見つからずに微妙な顔になる私をよそにアルベルトは、まあこれから俺と一緒にリズムを掴んでいけば問題ないだろう、とこともなげに言い放つと、こぽこぽとカップにお茶を注ぐ。
「…っ、よ、よろしくお願いいたします!」
「ああ、任せておけ」
なんという安心感…!私は優雅にカップを傾けるアルベルトに心からのお礼を述べた。さすがはアルベルト。たった一言で私の悩みに解決策を提示した皇太子殿下は感動に打ち震える私を他所に、立ち上がって空いていた窓を閉める。少し強まった風に乱された紙類を整えながら、お悩み解決を終えた私はアルベルトに問いかけた。
「私の半年間はそんなところですね。やらかしまくった半年でした……。アルベルト様はいかがでしたか?第2皇子のハイレイン殿下と交流なされたとお聞きしましたが…」
「ああ、ハイレインか」
そう。そういえば、アルベルトを次期皇帝の座から引きずり下ろし自分の息子をその座につけようと虎視眈々と狙っている第2皇妃を母親に持つ弟とアルベルトがこの半年の間で、久しぶりに話していたという情報が入ってきていたが、どうだったのだろうか。魔族の子供だと噂を流しているのも第2皇妃派だしこの2人の兄弟仲は悪いとの専らの噂だし、少し心配である。ゲームのアルベルトも弟とは仲が悪かったしなぁ。実際のところどうだったのだろう。
大遅刻してしまって申し訳ありません…!
そして更新についてのご報告がありますので活動報告をご覧いただければと思います。よろしくお願いします!




