悪役令嬢は授業を受ける
教師アルベルトの講義を私は真剣に受講した。
「平民の高い魔力の持ち主たちが全員功を立てれたわけじゃない。むしろあの大戦では功を立てるどころか、生半可な魔力じゃ生き延びることも難しかっただろう。それに魔力が強いのと戦いに強いのとはまた別問題だ。
だが当時は魔力がある程度高いやつは強制的に戦場に送られていたらしいから、死亡した例の方が多い。
あと、魔力が高い奴で戦場に出なかったのはいないらしいぞ。そこら辺は詳しいことは残されていないから俺達には知る由もないが、戦に出たくない魔力持ちが逃げ切れることは出来なかった、というような記述は残されているから何らかの方法で見つけ出していたんだろうな。
まあともかく、上位貴族ですら死亡者がある程度出たらしいし、その辺りの理由で貴族の数が増えすぎることは無かったといわれている。
付け加えるなら……そうだな、大戦が終わったあと、落ちた家の力を取り戻すために貴族たちが平民から魔力が強い者を娶ったり婿に入れたりして取り込んでいったらしい。その辺が決定打となって今の魔力量の関係が出来上がったらしいぞ」
「なるほど。そういう事だったんですね。でも平民はほぼ魔力が低いといってもたまに下位貴族ほどの方が出てくるんですよね?そういった時の対策はどうなっているんですか?というか全員上位貴族と同じ強度の魔封じをかけておけば万が一ということもないのではないでしょうか」
「魔封じは確かに強さの段階が別れているが完全にその階級の人の魔力に合わせてかけられているわけじゃない。例えば平民に掛けられている魔封じの強さはだいたい下位貴族あたりの魔力を抑えられるものだし、下位貴族には中位貴族の魔力を、中位貴族には上位貴族の魔力量を抑えられる強度でかけられる。そして上位貴族と王族には、現在かけられる1番の強さの魔封じをという訳だ。その階級よりもワンランク上のものをかけて万全を期している。
それに魔封じは強さが強ければ強いほど、かける方にも相当負担がかかる魔法だ。平民の方が貴族より圧倒的に数が多い。魔封じの強度を変える理由はそこを考慮してのものだろうな」
「へぇ、そうだったんですか。……ああ、なるほど、たしかに、魔封じは解くのは簡単だけど、かけるのは大変で、かつ、魔道具を使って負担を減らすことが何故か不可能な魔法だと聞いたことがあります。たしか原因はまだ究明されていなかったですね」
私はノートにメモしながら頷いた。なるほど。初めて聞くことばかりだ。面白い。今日はそこら辺の話だけで終わりそうだけど、まあゲーム関連の話の続きは明日またすればいいだろう。
私はさらに質問を重ねる。
「上位貴族は魔力の格が違うとおっしゃいましたね。では私はどうなんでしょう。魔力量はそこそこでとくに強力ではないのですが」
「そうなのか?だったらお前はそういう体質なんだろうよ。たまにいるらしいんだ、魔封じの影響を必要以上に受けてしまう体質の持ち主が。多分お前はそれだろうな、だが安心しろ。何年か経てば魔封じの影響も消えて徐々に本来の魔力が戻ってくるはずだ」
「ええっ!!そうなんですか!?なんで魔法学の先生は教えてくれなかったんでしょう!」
新たな事実に私は目を剥いた。私魔力もっとあったの!?先に言えよ!変な道具とか作っちゃったじゃん!!アルベルトは考え込むような顔をした。 あー、どうだったかな、となにかを思い出そうとしていて、数秒くらい首を傾げていたが、閃いたのかパチンと指を鳴らす。
「ああそうだ。そういえば前に聞いたことがある。魔力が低いと思い込んでいる方が下手に上位魔法に手を出さないで基礎魔法などの基本にしっかり取り組むから、そういう体質の人にはそれについて知る時が来るまであまり伝えないんだとか………あ。しまった」
思わず口を滑らせて、そういう体質の私に伝えてしまったアルベルトはしまった、という顔をして、私は知った事実ににやりとほくそ笑んだ。ふふっ、それでは私もいずれ攻撃魔法が普通に使えるということですね?それはようございました。あ、でもたしか考えてみればゲームで悪役令嬢はヒロインと同じクラスだったな。1番上のクラスに入れたってことはつまり魔力量もそれなりだったということなのか。
「…………基本は大事だからな。きちんと取り組めよ」
「大丈夫ですよ、わかっています」
ふふっと笑う私を疑わしげに見るアルベルト。まあ、多少浮かれたのは否定しないけど、基礎が大事だということはわかっているから安心してね。ちゃんとやりますよ。
「ああ、もうこんな時間か。今日はもう終わりにしよう。続きは明日だ」
「あ……はい、そうですね」
ヒロインの魔封じについてまだ聞きたいことがあったのだが、ノートにメモするだけで留めておく。明日聞こう。
「それと、明日から授業は一緒に受けないか?」
「え?ですが私よりアルベルト様のほうが進んでいるのでは?」
「進んでいるといっても少しだろう?復習にもなるし、何よりお前の質問は鋭いところをついてくる。聞かれることに俺が答えることでお互いの勉強にもなるだろう。もし間違っていたら教師に訂正してもらえばいいし、補足もしてもらえばいい。どうだ?」
「確かにアルベルト様のお話は分かりやすかったですし、勉強になりました。アルベルト様がよろしいのでしたらぜひ、お願いします。1人より2人の方がやる気も出ますし」
「じゃあ決まりだな。後で教師陣に伝えておく。授業は一日の前半になるべく入れて、夕方や夜はまたこの話をしよう」
「はい。分かりました」
話がまとまり、私はアルベルトにエスコートされて自分の部屋まで戻る時にお礼を言った。
「本日はありがとうございました。かなり勉強になりましたし、楽しかったです。これから2ヶ月よろしくお願い致します」
「ああ、こちらこそよろしく頼む。やはり難しい話をしても通じるのはいいな。久しぶりに有意義な時間が過ごせて楽しかった、礼を言う」
おやすみなさい、と挨拶をして寝る支度をしてベッドに入った私は直前のアルベルトとの会話をぼんやりと思い返した。
アルベルトは私には話が通じるからいいと、顔にかすかに喜色を浮かべていた。
皇城に謁見しにくる親についてきた子供たちは、たいていアルベルトにも挨拶しに来る。彼の時間が空いている時は、そのままその子達の相手をしなければいけないそうなのだが、全く話が合わない、と彼が言っていたのを思い出す。まあ全員が通じない訳では無いらしいけど、通じる数はとても少ないそうだ。
まあそれはそうだろう。私の受けている皇妃教育はとてもレベルが高いのだから。アルベルトの受けている皇帝になるための教育と同じくらい。まあ私よりアルベルトの方が大変だろうけどね。
そんなスパルタ教育を小さい頃からビシバシ受けている私たちの話が他の子に通じるかといわれたら、どうだろう。
まあ皇妃教育が具体的にどんなのなのかとか、他の貴族の子達の教育はどうなっているのかなど、そこら辺の話はまた後ほど。私は小さく寝返りをうった。
でも、そっかぁ。アルベルトと一緒にこれから授業を受けるなら、勉強方法とかやりくりの仕方とか聞いてみようかなぁ。参考にしたい。それはとてもいい考えのように思えて、私は小さく笑って目を閉じる。あー、疲れたぁ。眠い。おやすみなさい。
いつも拙作をお読み頂きありがとうございます。
諸事情により、次話の投稿は3ヶ月後となります。
続きを楽しみにしてくださっている読者の皆様には誠に申し訳ないのですが、どうぞご了承下さい。
これからもよろしくお願いします。




