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悪役令嬢は婚約者に全てを丸投げする  作者: 上杉凛(地中海のマグロ)
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悪役令嬢は教えを乞う


「というかですねぇ、ゲームの中の皇太子殿下も大概ですよ。なんの確認もせずに浮気相手の言うことに盲目的に従って公然の場で侮辱をした挙句鶴の一声で処刑ですからね!」


「……絶対俺はそんな愚か者以下の存在には成長しない…したくない…」



他のキャラをこき下ろしまくったあと、最後に私がそう言うと、アルベルトはひどく顔を歪めて自分に言い聞かせるかのように何度も呟いた。どうやら将来の自分像が心に大ダメージを与えたようだ。ごめん。顔色が悪くなった彼は、だがしかし少しして気を取り直したように私に確認してくる。



「ゲームの中の俺は心の隙につけこまれるんだったか?」



「ええ、そうです。ゲームの中の殿下は、魔族の子だという噂やそういった嫌味や当てこすりを言われ心を痛めていて、ご両親ともすれ違い冷めた関係になったことにも密かに傷ついていて、でもそんな心情を決して表には出さず表向きはにこやかな完璧王子を演じています。ですが自分の悩みに気づいて欲しい、誰も自分のことなんてわかってくれないんだ、俺は孤独だ、みたいな鬱屈した感情を抱えているところをヒロインに実にあっさりコロッといきます」



「…ああ、確か笑顔がどうの……」



アルベルトが未来の自分にものすごく失望した顔をした。大丈夫だ。そうはならないように一緒に頑張ろう。


ちなみになぜ私がアルベルトルートに詳しいかというと、前世の幼なじみがアルベルト激推しでそのことばっかり喋っていたからである。イベントの発生時とか詳細はよく分からないが、オチるまでの大まかなストーリーは覚えている。



「ええ。これは印象に残りすぎて鮮明に覚えているのですが、たしかゲームの殿下は、初対面の時にヒロインに、


『そんな笑顔ずっと作ってて疲れちゃわないですか?はっきり言ってその作り笑顔気持ち悪いからやめてください。というか人に対して作り笑顔で接するとか失礼ですよ。笑わない方がマシです』といわれて、『ふーん、なんでわかったの?君、面白いね』と、興味を抱いて心を開き、最終的には『私の前では本物の笑顔でいてよ!』という言葉にコロッとやられます」



「……………………………」



私の言葉を聞いたアルベルトが今にも舌を噛み切りそうな顔をしている。そんなことになるくらいなら死んだ方がマシだとその顔が言葉よりも雄弁に語っていた。

まあでしょうね。もはやこき下ろす言葉すら出てこなくなったらしいアルベルトが深いため息をつく。



「どこからつっこめばいいのかサッパリだ」



そして目をくるりと回して匙を投げた。確かにこの展開はツッコミどころが多すぎて言葉を失う。うん。気持ちはよくわかる。だってさあ、ねぇ?


幼なじみからこの話を聞いた時、ヒロインは絶対営業部に入れないタイプの人間だと私は確信した。世の中の人は笑いたくない時も笑顔を作って生きているのである…。気持ち悪いとかの次元じゃなくてさぁ、ねえ?なんて言えばいいの?

アルベルト聞いてみると、一言、子供でも知ってる社交術、と返ってきた。なるほど。

あと初対面の人にぶすくれた表情をするよりは作った笑顔の方が失礼じゃないと思うぞ、ヒロインよ…。


そんなチョロすぎる男になりさがると改めて聞かされたアルベルトはだいぶ精神力を削られたようだが、しばらくして回復すると冷静に考察を述べた。



「まあ、たしかに出生に関する噂は気にしてないといえば嘘になるが……、そこまで過度に気にしたことは無い。両親も俺にその事で態度を変えたりしたことは1度もないし、なによりその噂には証拠はひとつもない。お前に俺が正真正銘、父上の子だと言われてからは少しも気にならないが、そうだな、それを知らないままだったらもしかしたら拗れて…いた、かも……しれない」


まあ可能性がないとは言いきれない、とアルベルトはとても不本意そうに言った。まあね、ないとはね。言いきれないけど。



「だが、初対面でそんな訳の分からない自論を展開してくる人間に興味を持つのはありえない。むしろかなり引くぞ。それは関わってはいけない人種だろう。惚れるなんて論外だ」



「まあ、普通の感覚ならそうなんでしょうけれど…。ここはゲームの世界ですからね。それを言われた瞬間、骨抜きになる可能性はありますよ」



「そう、まさにそこが問題なんだ」




はぁ、と、私達は同時にため息をつく。なんだろう、この疲労感。ゲームシナリオを話しているだけで感じるこの疲れは一体……



「ともかくヒロインと1度会ってみないことにはわからないな。今ヒロインを密かに探させているが、ピンクの髪はこの国では珍しくないから居場所がわかるには少し時間がかかるだろう。なにせ皇都は広いし大っぴらな捜索はできないから」



「そうですね。それまでにできることをやっておきましょう」



そうなのだ!この国ではピンクの髪は普通にいるのである!ビックリだよね、てっきり髪がピンクの理由はヒロインを目立たせるためのものだと前世では思ってたんだけど違うみたい。なんなんだろう。もしかしてあれかな、平凡なヒロインが良い男をゲット!みたいなコンセプトだったりするのかな。いやでも髪の色は平凡(この世界基準)でもそれ以外は個性が爆発したような奴だしなあ。私は首をひねった。まあそこはいいか。それよりも。



「ああそうです、そのヒロインに関してなんですけど、聞きたいことがありました」



私はノートに目を落として言う。なんだ?と聞かれたので、顔を上げて答えた。



「ヒロインが昔、アルベルト様の傷を癒しましたよね?魔封じがかけられていたはずなのに、どうして魔法が使えたのでしょうか?」


「ああ、なんだその事か」



私はかなり深刻に問いかけたはずなのに、なんだそんなことかと言わんばかりの反応が返ってきて首を傾げた。え?そんな大した話じゃない?




「あまり知られていないことだが、魔封じは身分によってかけられる強さが違うんだ。現在、魔力を暴走させるほどたくさん持った子供は貴族階級にしか生まれないからな。貴族でも上位貴族になればなるほどかけられる魔封じは強くなる。平民は無属性を使うのがやっと、というような、自分の属性が表れないレベルの魔力の持ち主が多いし、数は少ないがたまに魔力が高いのが生まれてもせいぜい下位貴族の魔力量程度だ。だからかけられる魔封じも弱い。ヒロインは例外中も例外な存在で平民にも関わらず魔力が強いんだろう?だからたぶん魔封じが完全じゃないんだ」




「へえ、そうだったんですね、知りませんでした。なぜ平民には魔力が強い人が生まれないんですか?それとヒロインの魔封じが完璧じゃないって周りの人とか気が付かなかったのかしら」



「あー、そうだな。帝国の歴史は長い。もともと建国時に活躍した人が上位貴族となったわけだから王族と上位貴族の魔力の強さは格別だったが、大昔は平民でも中位貴族と同じくらい魔力の高い奴は普通にいたそうだ。まあ、中には建国に特に貢献しなかった魔力が高い奴もいただろうから、少数だが上位貴族と同じ程度の魔力の持ち主もいただろうが。


そしてそういう奴らは大戦で功を立て、爵位を貰ったりして身分を上げたそうだ。そういった歴史が繰り返された結果、平民に強い魔力持ちがいなくなったらしい。魔力の強さは遺伝が強く関係するからな。


あとヒロインについてはあれじゃないか、わざわざ国に報告して面倒なことになるのを避けたとか。ほら、魔封じとは別のことだが、俺たちが生まれる少し前に重大な手続きに不備があったことを報告した家族が、官吏の不手際を隠蔽するために不当に拘束されるという事件があっただろう。

あれは当時だいぶ話題になって、冤罪を防ぐための制度が新たに導入されたが、それでもその事件の家族の二の舞になるかもしれないと恐れたんじゃないか?まああくまで俺の予想だが」



「なるほど、あの事件ですか。あれを気にしたのなら確かにありえますね。あれは監察の腐敗や事情聴取の不透明性などについてかなり物議を醸しましたし、司法関係の制度が刷新されたことで話題を呼びましたから、まだ記憶に新しいんでしょう」




ふむふむと私は頷く。それは政治の授業で習ったぞ。ほぉ。なるほどね。ヒロイン事情については納得したが、魔封じについては知らなかった。そんな背景があったのか。初めて聞く歴史の話に私は興味を引かれてアルベルトに更に教えを乞うた。すると、「お前、いま歴史はどこまで習ってる?」と聞かれたので答えると、「ああ、じゃあ俺の方が少し進んでいるんだな。もう少しすると魔封じ関連の歴史や、この話も習うだろう」と返された。そうなんだ。



「質問していいですか?」



「ああ。俺に答えられる範囲の質問なら答えよう」



「ありがとうございます。先程平民の魔力が高い方は貴族になっていったとおっしゃいましたが、そんなことをしたら貴族が増えすぎてしまうのでは?また、大戦に参加しなかった方はどうしたのでしょう」



私が早速疑問に思ったことを聞くとアルベルトはわかりやすく説明してくれた。

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