表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢は婚約者に全てを丸投げする  作者: 上杉凛(地中海のマグロ)
17/71

メイドは全てを知っている


授業がわからなくて涙目になったり、マナーの教師と戦ったり、アルベルトからの宿題を必死にこなしたりしているうちにあっという間に2週間がすぎた。あと1週間ほどで私は皇城に出発する。使用人さんたちの尽力により、着々と準備は進められていて順調である。

つい先日、ウォルドから完成品も届いた。ありがとう。でもなぁ。魔法に対する興奮が少し落ち着いた私は、神妙な心持ちでその品を見つめた。興奮して、道具を用いて戦闘力をあげるぞ!とかいって考えた装置だったけど、いざ冷静に考えてみると全然大したものじゃなかった。これじゃまるで……、いや、言うまい。こんな物でも無いよりマシなはずだ。いつか絶対使える時が来る。私はそう信じている。ということでウォルドに注文した3品のうちふたつを使って私は自主的に訓練を始めた。まぁ、調子は悪くは無い。


そして残りの1品。これについては完全に趣味に走って作らせた代物だ。ゆえに数も少ない。5個しかない。まぁ、趣味というか、なんというか。

そう。この片手で握りつぶせるくらいの強度のボールのことだ。このボールはただのボールじゃない。中に液体が入っているのである。


ふっふふふふ。夜、寝る一時間前。就寝時間になるまで誰も入ってこないように!とメイドにきつく念押しした私は、ついにその野望を叶えんと動きだしたのである。

取り出したるは1個のコップ。これで事足りる。いや、正直慣れればコップも必要ないだろう。ふふふーん。


私は黄色のボールを選んで右手に握った。そしてその握った拳を取り込むような形で水の玉を作り出す。おーっほほほ。準備は万端!それいっけー!!私はボールを握りつぶした。パァンと潰れたボールから液体が飛び出す。その液体は私が作りだした水の玉の中に散らばった。よっしゃ成功!グルグル水をかき混ぜ、程よく混ざったと判断したあと、私は水をコップに注ぐ。あっ、溢れた!ちょっと多かったか……。まあいい。私は手に残ったボールの残骸をキレイに洗ってゴミ箱に投げ捨てた。うわっ、手がベトベト。手も洗おっと。


ボールの中に入ってた液体は何かって?それはズバリ果汁である。砂糖入りの果汁である。これは水で割るだけで美味しいジュースが出来上がる、原液だと死ぬほど甘い汁なのだ。お家でもカンタン!楽々ジュース!というキャッチフレーズだった。はっはっはっ。見たかサラめ!

アルベルトとの再会が決まってから、私の食事制限は厳しさを増した。具体的に言うと、今まで1日1杯だけ許されていたジュースが許されなくなったのだ。泣いて懇願しても無駄だった。くっそぉ!おかげで今はお腹もほっそりだよありがとう!でも足りないっ!糖分がっ!糖分がたりなァいっ!私には甘いものが必要なのっっ!


というわけで私は自分でジュースを作ることにした。果汁をお父様に買わせるくらいだったら普通にジュース買ってもらえよって?甘いな。サラの力は父にまで及んでいるのだ。ジュース禁止令が出ているので父も買ってくれない。当然のことながらお菓子なんてもっと買ってくれない。まあ、この果汁に目をつぶってくれたのは、父の優しさだろう。はんっ、見てろよ!今から私は寝る前に甘〜いジュースを飲むという凶行に及ぶぞ!それでは。私はコップに手を合わせた。いただきまーす。


あー幸せっ!






翌朝、目を覚ました私は、不自然な程に満面の笑みをうかべたサラと目が合った。ドクリと心臓が嫌な音を立てる。な、なんだ、この嫌な感じは……。もしやバレたか?昨夜の私の凶行がバレたのか!?いや、そんなはずは無い。ちゃんと私は証拠を隠滅したはずだ。大丈夫だ、大丈夫……。

戦々恐々としていたら、ニコニコと笑いながら私の朝の支度を手伝ったサラが、部屋を出ていく間際にやっと口を開いた。


「お嬢様……」


「な、なにかしら」


「私になにか、言うべきことはございませんか……?」


そう言うサラの目が、一切笑っていないことに私は気がついた。


……………ば、バレている。



私は全てを白状した。




◆❖◇◇❖◆



予想に反してサラは怒らなかった。ただ小さくため息をついて、少し厳しくしすぎたのかもしれませんね。申し訳ございません。と、逆に謝られてしまい、むしろ私が慌てた。いやいやそんな。


「ですが、そんな訳の分からないものを作り出して飲むのはおやめ下さい。衛生面も心配でございます」


ボールを握りつぶして中から液体を出す、という野蛮極まる手法はサラを大いに呆れさせた。お願い、マナーの教師には言わないでっ!


「そもそもどうしてそんな変なボールを作ったんですか?普通に小瓶に入れて置いてもいいでしょう」


「だって……それじゃ絶対バレるじゃない。瓶に入った液体は何かなんて言い訳も思いつかないし。その点ボールだったら、ただのボールだって言い張れるし、中身も見られる心配もないし、落ちたくらいじゃ割れないし……」


「瓶に入ってても香水だと言い張るとか、色々抜け道はあると思うのですが……」



なんと!その手があったか!私の貧相な発想力では思いつかなかった。むしろ斜め上に飛んでいってボールを作り出してしまった。バカだ。



「お嬢様。交渉術の基本すら身についていないようですね。教師によく言っておきましょう」


「ええっ!」




それから、政治学の教師が鬼と化した。私が習っている政治学の中には多少は交渉の仕方なども含まれているのだ。まあ将来私が直接交渉することなんてないと思うけど、知っておいて損は無い。

マナーの教師に続いて鬼化したのは2人目だ。このままいくと全ての教師が鬼化しそうな気がする。豆をまいておこうかな……。


私は解禁されたジュースを飲みながらバカなことを考えた。

ところであの日、なぜサラにジュースを飲んだことがバレたんだろうか。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 元のテンションに戻ったようでホッとしました (^^;。 他の方への返信を読むと作者様ご自身には自覚がなかったようですが、ウォルド(イカ狂い男)が出てくる2話を読んだときは、正直言って、この…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ