悪役令嬢は地雷の上でタップダンスを踊る
私は椅子から身を乗り出してウォルドと話し合いを始めた。
「まった面倒くさいのを考えてきたなお前。これ作るの大変だぞ。まあ難しくはないが地味にめんどくさい」
「しょうがないじゃない!水魔法は汎用性が低いんだもの!私は火属性がよかった!」
「いや、別に水属性でも汎用性は高いぞ。要は使い方だろ?もっと頭使えよ」
「えー?だって攻撃魔法使ったらすごい魔力くうじゃない。私には無理なのよ。そんなに魔力高くないから」
「別に攻撃魔法使えとは言ってないだろバーカ」
イラッ!ウォルドがものすごくムカつく顔をした。
小馬鹿にする感情がありありと見えるその顔に殺意を覚えた私は、僅かに残っていたスルメイカをウォルドの目の前でこれみよがしに口に放り込んだ。ハッ!ざまあみろ!その瞬間、ベキィッとウォルドが握っていたペンが四つに折れる。
「…………………………」
私はガタガタ身を震わせながら手持ちの残り全てのスルメイカをウォルドに献上した。ごめんなさい、これで見逃してください。どうやら私は特大の地雷を踏み抜くどころか、地雷の上でタップダンスを踊ってしまったらしい。私を睨みつける目に込められた殺意が尋常じゃなかった。堪忍してください二度としません。
私から愛しの恋人スルメちゃんを奪取したウォルドが幸せそうな顔になり、殺気が消えたのを見計らって話を恐る恐る再開する。
「それで?攻撃魔法なしでどう攻撃をすれば?」
「はんっ、言うわけねぇだろお嬢ちゃん。言ったらお前はこの変なもん注文すんのを止めるだろ?そしたら俺に金が入らなくなる。すなわち俺がスルメを買えなくなる。俺は金づるは手放さないんだ。残念だったな」
「ドケチっ!あんだけイカ食べといて!賄賂の意味は一体どこへっ!」
「ありゃ差し入れだ。賄賂なんてなぁ、もっと大人になってから出直すんだな」
けっけっけっと笑うウォルドはあっけらかんとクズい発言をした。そして金づる認定されたお子様セリーナはプルプルと怒りに体を震わせた。この野郎……っ!!
「別にいいわよ!私には優秀なアドバイザーがいるんですからねっ!その方に聞くわ」
「へぇ、じゃあこれ作るの止めるのか?」
ふんっ、そんなのアルベルトに聞けば1発でわかるはずだ。
今に見ていろイカ男め。まあお父様や教師に聞けばわかるかもしれないけど、多分教えてもらえない。淑女がそんなことを知ってどうするんだ!とかいって。いや、どうだろう。教えてもらえるかも。まあでもいいか。疑問は全てアルベルトへぶつけよう。来月会った時にすぐさまこの疑問をぶつけてアルベルトが私の醜態を思い出すのを阻止してやる。よし。話題は多いほどいい。今は誰にも聞かないことにしよう。
「うーん、そうねぇ。せっかく考えたのに惜しい気もするけど…必要ないことにお金を使うのも良くないわね」
うーん、ちょっとだけ惜しいなぁ。まあでもやめとくか。うん。私のお金なんて元を辿れば血税だ。無駄使いはやめよう。
1人で結論を出してそれを伝えようとすると、そんな私を見ていたウォルドがはぁっと大きなため息をついた。え、なに?
「…………まあ、イカ食べさせてもらったしな。特別にタダで作ってやるよ」
「ええっ!」
ウォルドがデレた!ってちがう、そうじゃない。タダで!?いやそれはさすがに悪いと……
「どうせお前が欲しがってるもんなんてそんなに手間かかんねぇし高価なもんでもねぇしな。既製品にちょいと手を加えるだけだからよォ。それに公爵にはいつも世話になってっから。そんくらいやってやるよ」
「え、本当にいいの?じゃあお願いしようかしら…。ありがとうウォルド!」
ところでタダだったらさっきの疑問に答えてくれてもいいんじゃない?え?ダメ?なんでだよ。は?これが代金?意味がわからん。分からなくてイライラする私の顔を見て楽しむのはやめろ。このドS野郎め。
私がウォルドに注文したのは3つだ。その中のふたつを作るのに必要なものを私はウォルドに差し出す。これで全ての戦利品を使い終わった。ありがとうお父様。
「……ていうかお前ほんとにこれで戦う気なの?」
「……別にいいでしょ。お試しで作ってみようと思っただけなんだから。使ってみなきゃ分からないし、意外と役に立つかもしれないでしょ!」
え?具体的に何を注文したかって?それは使う時のお楽しみだ。
交渉を成立させた私はホクホク顔でウォルドの屋敷をあとにした。はぁっ、疲れた!お腹空いたー!
家に帰ると、お昼ご飯の準備が整っていたので早速頂くことにする。うーん、おいしいっ!最高っ!はぁ…ほっぺたが落ちるぅ。え?これで終わり?今日は疲れたからおかわ………ダメ?ちくしょうっ。おかわりをねだる私の声は、最後まで言い切る前に拒否された。悲しい。せめて最後まで言わせてよ。




