悪役令嬢は前世の記憶を思い出す
皆さんこんにちは。どうも、悪役令嬢でございます。
心の中で誰かに挨拶して、私はふんっと鼻を鳴らした。まったく。笑えないにも程がある。
つい先日、頭を打った拍子に前世の記憶を思い出したのだ。突然流れ込んできた膨大な記憶に10歳児の体は耐えきれなかったようで、三日三晩熱に苦しんだあと私はようやく現実を認識した。
前世の記憶が蘇って私はとんでもないことに気づいてしまったのだ。それは、この世界は前世で大人気だった乙女ゲーム、光の乙女、の世界だったということ。
光の乙女は、魔法ありの中世ファンタジー系の乙女ゲームで、ヒロインが貴族のみが通える魔法学園に平民の身ながら入学してくるところから始まる。
なぜ平民のヒロインが入れるかって?それは彼女がとんでもない魔力と光属性の持ち主だということが発覚したからだ。
まあそこは乙女ゲーム。なんやかやで、貴族の女にない新鮮(笑)な言動をするヒロインに皇太子を始めとする上位貴族の息子どもが彼女に惚れ込んでいく、というわけである。
そして転生した私の立ち位置はというとまさかの悪役令嬢。ヒロインの前にことごとく立ちはだかってくるライバルキャラだ。
最悪だ!この悪役令嬢、処刑END、国外追放END、没落ENDなど色々なENDがあるが、どれも最悪の末路だと言っておこう。いや、まてよ。別に没落ならいいかもしれない。と、思ったのだが、よく思い出してみるとただの没落ではなかった。
賠償金として、もってる財産以上をふんだくられて借金地獄に落とされるENDだった。怖い怖すぎる。
ていうかさぁ、やめろよ。婚約破棄くらいならわかるよ?別に。でもなんで処刑されたり追放されたりしなきゃいけないわけ?
だってよく考えてみなよ!この悪役令嬢がやった事ってただのイジメだよ?いや、いじめはよくないけどさ。だめ、絶対。でもいじめだけで死刑になるか?普通。おかしいだろ!せめて牢屋に入れてくれよ。段階すっ飛ばしすぎ!裁判のやり直しを要求する!!
いや、裁判すらないからね。皇太子の鶴の一声でゲームの中の私の首がスパーンと吹っ飛んだのを前世の私はよく覚えている。いいか、そんなことしてみろ!末代まで祟ってやる!!
鏡に映った自分の顔をよく見てみる。真っ白な肌に長い金色の髪。緑の瞳。ちょっとつり目がちだけど、整っているその顔は、見れば見るほど光の乙女にでてきた公爵令嬢、セリーナ・フォークナイトにそっくりだ。うわぁ……
前世のことを思い出した日から、どうしたら未来に起こるであろう悲惨な結末を乗り切ることができるだろうかと私は必死に考えた。知恵熱が出るまで考え込んだ。
前世の小説での悪役令嬢達はどうしていただろうか。乙女ゲームのシナリオを書き出すとかしていた気がするな。
ところがどっこい。残念ながら私はシナリオをそんな細部まで覚えてなんかない。だって私がプレイしたのって幼馴染みから借りてちょこっとやっただけだし、あとは幼馴染みが好きな場面を語るのを話半分に聞いていただけだからだ。
悪役令嬢に関しては、そのENDがどれも悲惨すぎて記憶に残っているだけだという顛末。せっかく思い出したのにもう詰んでいる。人生が詰んでいるぞぉっ!!
どうしようもない。私は知力もそんなに高くないから小説での悪役令嬢達のように華麗に破滅フラグを乗り越えていくなんて芸当は無理に違いないし。ふむ。どうしたものか……。
さらに1週間ほど考え込んだ私は、この問題を別の当事者にぶん投げることに決めた。