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ミトスター・ユベリーン (リメイク)  作者: カズナダ
日本国の章 タンタルス編
8/24

第8話

 バーレナー草原・・・。

 壊滅した第17野戦軍の前にボルドアスの戦時合同軍が督戦隊として立ち塞がった。配備された武器は野戦軍に配備されているライフルマスケットに加え、見慣れない大砲のような武器が6つ並んでいた。


「ガムラン大督(大将)!?何のマネですか!?」


 ボルドアス帝国の10年以上の渡るタンタルス大陸統一戦争は占領地の莫大は額の税金と外債で戦費を稼いでいる。問題となっているのはこの重税で、これから来る不満で帝国の支配力が弱いアストラン島を中心にボルドアスの高官が殺害されると言う事件まで発生している。

 ガムランはいずれ起きるであろう大規模な反乱を想定し、少数の兵で多くの反徒を射殺できる兵器を開発した。それが今、第17野戦軍に向けられている『見慣れない大砲のような武器』である。


「なぁに。少しばかり試射に付き合ってもらいたいだけだ。新兵器『ドズダン砲』のな。」


 新兵器の名前は『ドズダン砲』。10本のボルト付き銃身を環状に備える、日本人の感覚で言えば『ガトリング砲』である。重量は70kg以上もあり運搬には馬を使う。発射速度は野戦軍が使っているライフルマスケット銃が30秒で1発なのに対し、ドズダン砲は1分間で200発撃てる、と言われている。それは、発射機構がマスケット銃に見られる『引き金』ではなく、『クランク』である為射手の体力に依存する。またドズダン砲の射手には一定速度でクランクを回す技術が必要である。そうしなければ弾詰まりや銃身破損を引き起こすからだ。

 今回ガムランがドズダン砲を前線に持ち込んだのは、どれほどのペースでクランクを回せば良いか、どれほどの命中精度があるか、補給兵はどのタイミングで弾倉を交換すればよいかと言った実戦的なデータを持ち帰るためであった。


「しっ試射?」


 ガウラークの自らの人生の結末に目を逸らす素朴な疑問の答えとして、ガムランは各補給兵に弾倉をドズダン砲の給弾口に差し込ませた。


「撃て。」


 ガムランの静かに、冷徹に命令を下す。

 射手はそれぞれのペースでクランクを回す。環状に配置した銃身はそれに合わせて回転し決められた位置に達したとき、ボルトが押し出され薬莢の雷管を刺激する。そして弾丸が発射される。

 射手はクランクを回し続ければ装弾と排莢を同時に行える。

 そして発射された弾丸はライフリングが掘られてない銃身を通り、第17野戦軍目掛け飛翔する。その弾丸に第17野戦軍の残兵5万は弾切れになるまでにガウラークを含む1万が射殺さ、砲兵隊の砲弾に木っ端微塵に吹き飛ばされ、騎兵隊に嬲り殺しにされ、生き残ったのはたった2000人程度。その生き残りも『裏切り者』として、首と手首を縄で縛られボルドロイゼンまで徒歩で移動させられることになる。


 その帰路、ガムランは戦時合同軍を3個野戦軍の後方に配置し退路を塞いだ。


「いいか?逃げようと考えるなよ。引き下がるような裏切り者には容赦しない。生き残りたくば目の前の敵を粉砕しろ。」


 これにより3個野戦軍は、全軍を上げてジュッシュ公国の防衛線を突破しに掛かることになる。


 方都ゼフェット・・・。

 戦闘終了から3時間後、疲れ顔のリオネンが帰ってきたことで、陸自が設営したテントに指揮官級の人員が全員揃った。

 先に到着していたルフトやクローディアはこんな顔も出来るのかと興味を掻き立てられたが、そのほかの幹部は徒歩でも片道1時間半で来れるのに3時間も時間が掛かったことに疑問を持った。


「何故3時間も掛かった?移動用の馬も用意してあったのであろう?」


 真相を聞くためリオネンに問いかける。


「馬は脅えきっていたから徒歩での移動を余儀なくされた。その道中、カバーナル盆地に立ち寄ったんだ。」


 リオネンはカバーナル盆地で見た光景を語る。

 突如盆地に居たボルドアス兵を全滅させた爆発はリオネン含め全兵士は『噴火』と連想した。しかし経過を見るにつれ噴火とはかけ離れていった。

 まず、噴出する火柱は小さくまた連続しておきたこと。噴火なら一つの火口から巨大な火柱が立ち、後に大量の黒煙を空に向かって吐き出す。しかし火柱は小さく、また『炎』と呼べるほどの光量も熱の感じられず、火薬が爆ぜるときに生じる閃光ほどの光量しかなく熱もプルトネッス高地には届かなかった。

 次に、噴火の最中であるのも関わらず空中に幾つもの黒煙が発生したことだ。火口からの噴煙なら、極端な話地面から煙が上がるものであるが、通常の噴火では絶対にありえない何も無い空中に発生する黒煙。リオネンはこれを見た瞬間、この爆発を『砲撃』と仮定した。空中に黒煙を発生させた榴散弾はジュッシュ軍でも重砲兵隊が使用していたからだ。それを知っていたリオネンは、プルトネッス高地で戦っていた全将兵の中でいち早く戦闘を再開することができた。最もそこに辿り着くのに20分掛かったが。

 最後に、火口から溶岩は湧き上がらなかったこと。カバーナル盆地のような低地帯で噴火が発生する確立は極めて低いが、仮に噴火があった場合、火口とマグマ溜りの距離は短くなり溶岩も勢い良く吹き出るものであるが、盆地を見回った際、火口と思われる穴は『火口』と呼ぶには非常に浅く岩盤まで到達していなかった。

 これらのことからボルドアス兵を全滅させた爆発は『砲撃』によるものであすと結論付けた。同時にたった20分で7万5千もの大軍を葬ったものの存在にも辿り着いた。

 ジュッシュ公国にはそれだけの大火力を持った大砲と砲弾は存在しない。おそらくボルドアスにも7大列強のギル王国にもだ。だがラブングルの戦いには上記3カ国の何処でもない国の軍勢が参加していた。


「あの攻撃は、貴方方がやったのですね?神埼2佐。」


 そう、自衛隊だ。

 神埼はボルドアス軍が攻撃を仕掛ける3日間で仕上げた防衛計画は以下の通りである。

1、カバーナル盆地をあえて明け渡し敵全兵力を誘引する。

2、挟撃または正面攻撃に関わらず、ワイガネール高地の反斜面に置いた99式自走155mm榴弾砲の特科小隊で盆地全体への効力射を行う。

3、挟撃を採った場合、特科小隊は効力射を継続。正面攻撃の場合、麓に待機させた半個歩兵連隊で迎撃。必要とあれば2個迫撃砲小隊と1個戦車中隊が支援する。

 神崎はこれをほぼ事後承諾という形でジュッシュ側に教えた。


「カバーナル盆地を明け渡すことが計画通りだと?」


 ルフトの顔が険しくなる。当然だ。異国の軍勢の勝手な作戦でプルトネッスとラカヌデン両部隊の側面を危機にさらされただけでなく、本国に野営地を築かれることになるからだ。


「少しでも多くの敵兵を討つためにもこれは必要なことだ。仮に特科隊で殲滅しきれなかったとしても、74式戦車を中核とした装甲部隊で奪還できる。」


「・・・。よかろう、自衛隊の作戦を認める。

 そして要請する。貴軍の火力をもってして、対岸に布陣するボルドアス軍を打ち破ってほしい。」


 砲撃で殲滅しきれなければ鉄亀、つまり戦車を突入させる。99式自走155mm榴弾砲の外観と火力を見た後で74式戦車を見れば、かの車両も同等の火力を有しているのではと思い、大砲を持たない盆地のボルドアス軍に突入すれば、全滅に近い損害を与えられることは理解できた。

 そして自衛隊の援護があればトロバー国に進出できると確信し、あわよくばボルドアス帝国本国に攻め込める。


「短期決戦を望む我々もそうしたい。だが・・・。」


 神崎は返答を渋らせた。

 それは自衛隊、ひいては日本国全体が抱える問題があった。


「油田さえあれば・・・。」


 燃料問題であった。食料に関してはジュッシュ公国が提供してくれた物を輸送艦隊が復路で持ち帰っているためある程度誤魔化せている。しかし燃料に関しては消費する一方である。石炭に関してはボルドアス帝国が蒸気船を使用していた為この大陸から産出される可能性が非常に高い。だが油田があるという話は(公国に来てから日は浅いが)聞いた事はない。

 油がなければ工場は稼働しないし戦車も護衛艦も動かない。まるで大東亜戦争開戦前の大日本帝国の様な立場に置かれていたが、事態はもっと深刻であった。東南アジアのパレンバンやパリクパパンの油田を奪取して燃料問題の解決を図った帝国であったが、転移した日本国はこの世界の情報に乏しく、何処に油田が在るのか全く分からない。


「神埼2佐。敵軍に動きあり。全軍を挙げて攻撃に出るものと思われます。」


 だが神埼らがやらなければならない事はジュッシュ公国に攻め込もうとする敵軍を打ち破ることであった。


「総攻撃に出る?特科の火力を目の当たりにしたと言うのにか?」


「はい。既にランスニ川の北、およそ2kmに先遣隊が布陣し本隊の到着を待って攻勢に出るものと。」


 普通なら考えられない。1個軍団の半数を一気に粉砕する特科隊の砲撃を見たとなれば、撤退を考えてもいいはずである。しかし敵軍はそうしないどころか総攻撃に出ようとしている。


「本国軍の連中が来たのかも知れんな。」


「本国軍?」


「督戦権を持つボルドアスの軍の一つだ。トロバーに配置されているとなれば、ルフィエルの第6本国軍だな。」


 ルフトの予想はトロバー配属の第6本国軍であったが、実際はガムランの戦時合同軍である。

 援軍を得たことによる攻勢かに思われたが、まさかの督戦隊が前線に現れた。神埼ら自衛隊員はこれを願っても無いチャンスと捉えた。


「督戦は何処まで働く?例えば、敵方の防御が硬く独断による撤退を余儀なくされた時、とか?」


「それは確実に射殺される。野戦軍にとって本国軍が来るということは『死』を意味する。生き残るには前に進むしかない。」


 戦場に送られた時点で逃げ道など存在しない。

 まるで何処かの都市で起きた戦闘をモデルとした映画のような光景が具現化される。敵兵への同情が沸くが、その敵兵は死に物狂いで向かってくるため防御の手を緩めようものなら一気に突破される可能性も大いにありえる。だからこそ、同情を押し殺して戦いに挑まなければならない。

 神埼は、ジュッシュ公国領内のみに限られた作戦行動範囲で、敵兵約50万を殲滅すべく思考をめぐらせる。


 敵軍は20万規模にわけた軍勢をラカヌデン、カバーナル、プルトネッスに対面に配置して、一斉攻勢に出るものと思われ、それまでに掛かる時間はおよそ3日、攻勢開始はその翌日と予想した。もしそうなら神埼にとって好都合であった。ボルドアス軍の攻勢と前後し、本土から派遣される援軍が到着するからだ。神埼はこの援軍を切り札に使うことにした。


 そして、主戦場を写した地図に兵儀を並べ、作戦の説明を始めた。


「作戦の第1段階はプルトネッス高地とカバーナル盆地を明け渡し敵軍を誘引する。

 第2段階はこの2箇所に敵軍が集中したのを見計らい、森林と盆地の境界線から装甲部隊、海岸線から自衛隊の援軍第2陣を突入させ、後方のランスニ川南岸まで浸透し包囲する。

 第3段階は包囲した敵軍を殲滅する。カバーナル盆地には機甲科、プルトネッス高地には特科が攻撃の主体となる。」


「また明け渡すのか?しかも今度はプルトネッス高地まで・・・!」


「お気持ちは察します。ですが理解していただきたい。上手くいけば敵総兵力の3分の2を粉砕できます。」


「それは分かってる!だが貴軍らの力を持ってすれば、トロバーを越えボルドアス本国に攻め込めるのではないのか?」


 神埼は執拗に迫ってくるルフトに声での返答ではなく、首を立てに振るという仕草で返した。


「なぜそうしない!?なぜそうまでして公国内での戦闘にこだわる!?」


「・・・政府がそう言ったから。・・・今はそうとしか答えることは出来ない。」


 自衛隊の行動に関しては様々な意見が出た。与党は『ボルドアス帝国との講和まで』を条件に自衛隊の無制限行動を主張したが、野党の一部は『最低限の実力』に反するし撤回を要求。国民にいたってはとある情報番組の街角調査で『ボルドアス帝国にどの様に対処する?』との問い掛けに回答者100人の内21%ずつが『徹底報復』と『外交的解決』に真っ二つに割れいる始末であった。

 与党と野党もお互いの意見を譲る気は無く、妥協案として『無制限行動はジュッシュ公国領内に限定し、それから外で戦闘を行う場合、議会で審議の後国民投票で決定する』と言うものが提示さえれ、賛成多数で可決した。

 結果、自衛隊はジュッシュ公国領内のみでの戦闘を余儀なくされたが、防衛省は敵の大軍を極短期間に殲滅させれば、戦意を失い忽ち講和を申し込むと踏んでいた。梅津も神埼もそのことを良く理解し、海上においても陸上においても密集陣形を組むボルドアス軍に陸・海の両自衛隊の持つ火力で一方的に撃滅した。


 そして今回も、神埼は防衛省の戦略に基く作戦を実行に移そうとしている。


「・・・少し考えさせて貰う。」


 ルフトは複雑な心境を抱え、またそれに結論を出す為テントから出て行った。その後を追ってクローディアもテントを後にした。


 陽はまだ高く、夏ということもあり非常にムシムシとしており、歩いているだけで汗ばむが、ルフトの背筋は凍りつくような寒気に襲われていた。


「神埼・・・。」


 ルフトの口からこぼれたこの言葉に、クローディアはまるで親の敵かのような感情を読み取った。

 一瞬の恐怖に身を仰け反らせるクローディアであったが、振り返ったルフトの顔にはいつもと同じ、最愛の妹に向ける優しい笑顔であった。しかしどことなく沈んでいるようにも見えた。


「クローディア。私は自分に自信が持てん。」


「何をいきなり。姉さんは今まで-」


「今までは、な。自衛隊が来てから自分の非力さを実感している。」


 ルフトが今まで採ってきた戦術は、ボルドアス帝国の進撃地点、すなわちラカヌデン森林、ラバーナル盆地、プルトネッス高地に部隊を置いてそれぞれに退却を許さぬ徹底抗戦を命じていただけであった。それも公王シュヴァーベンから「びた一文の領地も奪わせるな」という命令を愚直に守っていた為のものであった。

 だが自衛隊の戦術は、『部外者の考え』と言ってしまえばそれまでであるが、『壺』の様な防衛線を形成し、あえて敵をその中に引き込む、包囲殲滅を前提としたものであり、ルフトが採っていた『面』の、撃退を前提をした防衛線よりよっぽど合理的であった。


「自衛隊に全権を委ねればラブングルの防衛は鉄壁だ。ボルドアスが例え100、いや1000万の大軍を差し向けたとしても、跳ね返すどころか本当に殲滅しかねない。」


「だったらそうしたら良いのではないでしょうか?私から見た今の姉さんは、『近衛兵団団長』と言う地位に縋り付きたいだけに思えて仕方ありません。」


 自衛隊の合理的な防衛計画を素直に採用すれば良かった。しかし一時的にしろ領土を明け渡すということは、公王の命令に反することであり、更にルフトがそうしなかったのは自分、ひいては公王に対し「敵に情をかけていた」と言う認識をもたれてしまう可能性があったからだ。ルフトは、自分個人に向けられるものならまだ良いと思っている。しかしシュヴァーベンにまでそのようは認識を持たれたら、きっと責任を最前線で指揮を採っていた自分に転換するであろう。そうなれば近衛兵団団長の座から下ろされるのは明白。だからこそ、ルフトは神埼に対し「近衛兵団団長の地位から引き摺り下ろそうとしている盗人」という先入観から遂に殺気まで放つようになった。


「縋り付きたい・・・!?

 ・・・いや、確かにそうかもな。」


 そう思い返せば、クローディアの言った「団長の地位に縋りつきたい」という辛辣な言葉も理解できる。


「姉さん?」


「ラブングル地方の防衛は全て自衛隊に任せる。もう私に地位など知らん。そんなの欲しい奴にくれてやるだけだ。」


 ルフトは開き直ったが、そのことで自分がすべき事を見直すことが出来た。それは祖国を守ること。至極単純な目的であるが、団長の地位に縋る余り忘れていた。

 冷静に考えれば今誰が一番、公国を守れる力を有しているか。皮肉にもそれは公国軍ではなく自衛隊だ。そして自衛隊はジュッシュ公国防衛のため無理を押して戦ってくれている。そんな彼らの負担を少しでも軽くすることが出来れば、するしかない。


「戻るぞ!」


「はいっ!」


 ルフトはテントへと舞い戻り、クローディアもその後に続いた。


 テントに戻ってみると神埼とリオネンとの間で既にある程度の擦り合わせが出来ていたみたいで、後は前線指揮官のルフトの許可次第と言うところまできていたみたいだ。


「考えはまとまりましたか?」


「えぇ。自衛隊の作戦を採用する。部隊の配置は任せる。」


 ジュッシュ軍の幹部は皆驚愕する。作戦を採用するのはジュッシュ側が譲歩できる最大限の行為であるが、ルフトは部隊の配置まで自衛隊に委ねた。これはラブングル地方全域の防衛権限を自衛隊に明け渡したことになる。


「こんな盛大な手の平返しを喰らうとは、何かありましたか?」


「公国を守るに最も賢明な判断をした。それだけです。」


「それなら私も、日本国民1億3千万人に誓い、ジュッシュ公国を必ず守ります。」


 ルフトから軍の統制権を譲り受けた神崎は、作戦の第1段階として夜間の間に部隊を動かした。

 プルトネッス高地のハーゼ騎士団以下3万人と近衛兵団は遊撃部隊としてそれぞれワイガネール高地の東西に置き、クレー騎士団以下1万8千は引き続きラカヌデン森林に、陸上自衛隊の普通科連隊はワイガネール高地の正面、迫撃砲中隊は頂上、特科隊は反斜面、装甲部隊はトロバー国との国境から方都ゼフェットに繋がる1等街道『ラブングル街道』の脇に配置した。


 8月29日・・・。

 日本・ジュッシュ連合軍が配置を完了するとほぼ同時にボルドアス軍の第29・38・44野戦軍も配置を完了しており、奇しくも両軍の決戦は8月30日の早朝となった。


 フォーネラシア大陸 ギル=キピャーチペンデ王国・・・。 

 7大列強の一国、その心臓部である王都ソーンヘルム。そこにはフォーネラシア大陸や衛星大陸の情勢が噂として広まっている。当然『噂』であるのでギル王国の国営報道機関『王国報通』が発表する内容より信憑性は大きく劣る。


「最近偉いさんはタンタルス大陸に注目しているらしいぜ。」


 そんな噂が広がる根源の一つが王都一の酒場『ギルキッラ』だ。王国民だけでなく衛星大陸や他の列強からの商人が多く集まる。


「タンタルス?たしかあそこってボルドアスがジュッシュ攻略にてこずってるってだけで変わったことなんかないだろ?」


「そのてこずってるって話なんだが、どうもジュッシュに味方するって名乗り出た国が出て来たらしいぜ。そいで、その国が途轍もなく強くてだなぁ。ボルドアスの大艦隊を損害無しで全て撃沈したらしいぜ。」


「ん?蒸気船程度、王国の戦艦を使えば・・・、あぁっ!!」


 ギル王国の海軍部に小さいながらパイプがあるこの男。彼が驚いたのはボルドアス艦隊が謎の敵によって全滅させられたことではない。それを実現できるのがギル王国が保有する『ドルート級戦艦』であるということだ。つまりドルート級並みの戦艦を保有する国が第5海洋界でギル王国を除いて存在するということだ。


「気付いたか?そう。ジュッシュに味方したって言う国はドルートに匹敵する戦艦を持っているってこと。多分だか他の列強から買ったんだろうぜ?」


「だ、だがどうやって!?衛星大陸の一小国の船が第5海洋界の外にどうやって出て行けるというのだ!?」


 海洋界を跨いで航行できる船舶を有しているのは7大列強と第1海洋界の数カ国。その中に含まれないタンタルス大陸の国がどのような方法を使って他の列強と接触したのか。たとえ列強と接触したとしても、戦艦など老朽艦であっても簡単に売り払うことはしない。

 タンタルス大陸の事については軍需省の統合情報局が調査を進めているとは思うが、一般人の彼らに出来るのは戦地に赴いて自らの目で真相を確かめるか、本国で続報を待つかのどちらか。そしてよっぽどの物好きでない限り危険を冒してまで真相を確かめようとはしない。


「さぁな。けどよ、持ってたからってたった1、2隻だ。28隻の戦艦を持つ王国に勝てるわけねぇよ。」


「そっそうだな・・・。」


 どちらにしろ第5海洋界に於いて如何なる国も、盟主ギル=キピャーチペンデ王国に勝るものなし。その自信のもと、ギルキッラの賑わいは衰えるどころか栄える一方であった。

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