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ミトスター・ユベリーン (リメイク)  作者: カズナダ
日本国の章 タンタルス編
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第23話

 A軍団はB軍団の99式自走155㎜りゅう弾砲とD支隊のMLRSを増援として編入し敵の反撃に備え、B軍団も空挺レンジャーの仕掛けたC-4の爆発と共に総攻撃に出る算段となった。一方のC軍団はトロバー国首都バンベルクを包囲したは良いものの、兵糧攻めは都市内に2年分の食料が蓄えられているため効果薄。強襲も未だ立てこもる敵兵の多くは無傷で、戦意も失っていないので反撃で被害を被るのは避けたかった。

 しかし、それは連合軍の強者の特権である弱者の生殺与奪による考えであった。なので弱者になり果ててしまったボルドアス軍によっては相手の気まぐれで生死が決まるとの考えが充満し、士気が極限まで落ち込んでおり、都市内では民間人への搾取、暴行、そして強姦。秩序は完全に崩壊していた。


「ガムラン様!ガムラン様ッ!!」


 ガムラン最高司令官の側近、デファイア参謀がガムランの寝室となっている一室を訪ねる。

 彼は市内の実状を憂い、ガムラン直々の声明により兵士達を宥めると共に、本国から更なる援軍が来ると伝えてもらうことで、この絶望的な籠城戦をどうにか切り抜けようとしていた。

 だが肝心のガムランは、さっきからドアを何度も何度も叩いるにも関わらず、ウンともスンとも反応が返ってこない。


「ガムラン様!扉を開けますよ!」


 遂に業を煮やしたデファイアは、ドアノブを回すと同時に肩に力を入れ思いっきりドアを開けた。


「なんと・・・。」


 部屋の中を見てデファイアは絶句した。

 部屋は手を付けたのかというぐらい片付いていた。窓から差し込む青白い月明かりがそれを教えてくれた。そして、その窓の両端にかけられたカーテンが部屋に吹き込む夜風によってユラユラと揺れ、ガムランが逃亡したことを物語ってくれていた。

 この前代未聞の出来事を前に、デファイアは立ち尽くすことしかできなかった。そして僅かに残った思考で対応策を考える。

 ガムランは逃げた。それは目に見えて明らかだ。だとしたら次の指揮権を持っているのは誰か。参謀としての地位がある自分がその可能性が一番高い。そうであったならどうするか。士気がなくなり各地で暴動が起きている状態で、圧倒的な力を持った連合軍に徹底抗戦すべきか。だがそれは全員に死ねと言っているもの。到底できたものではない。では正門を開けて降伏するか。ここまでくればこれが一番妥当な判断であろう。しかし祖国を蹂躙された者しかいないと言っても過言ではない連合軍が助けてくれるのかは疑問である。なにしろ自分がその立場なら皆殺しにしている。例え妥当な判断でも命は惜しい。逃亡したガムランの居場所でも分かればそれを連合軍に売ったらどうか・・・。


「これは良い・・・。」


 逃げたとはいえガムランはボルドアス軍の総司令官。すべての責任を負う義務は当然である。ならガムランに全て擦り付ければわずかながらの保身材料にはなるだろう。


「アイツ・・・!ドコ行きやがった!?」


 敵前逃亡したガムランの末路は決まっている。斬首台だ。どうせ死ぬことが確定しているのだから、せめて自分の身代わりぐらいにはなってもらわないと自分が死ぬ。敵に包囲されている以上、このバンベルクから脱出することは不可能。デファイアはこの時からガムランを延命器具の様な物としか捉えなくなり、参謀という立場も忘却の彼方に捨て去り、血眼でガムランを探し始める。


 バンベルク某所

 月明かりから怯えるように身を縮める人影が一つあった。


「確かこの辺に・・・。―ッ!あった。」


 バンベルクには3万人の将兵が2年間籠れる食糧が地下倉庫に保管されている。だが、何も食糧だけが地下にあるわけではない。兵士たちに前線で戦っている間に要人を逃がす必要もある。つまり、脱出のための秘密地下通路が存在する。

 そしてそれを知って一番得をするのは誰か。トロバーの要人は言うまでもないが、地下通路なるものが存在するなら逃げ場のないボルドアス兵も知っておきたいものである。その中で一番その情報に最も手が届きやすい者は、と問われた際、真っ先に思い浮かぶのは、ガムランを置いてほかにないだろう。


「こんなところで死んでたまるか!俺はこんなところで死んでいい人間ではない!!」


 ガムランは2万人の将兵を見捨て、やっとの思いで見つけた地下通路を使い、一人闇夜に紛れ、バンベルクから姿を消した。


 敵前逃亡によりバンベルクから居なくなったガムラン。そうとは知らずに参謀であるにもかかわらず兵士達にガムランはドコだと聞いて回るデファイア。そんな状態だから現場の兵士達にはガムランが居なくなったと察するまでに至り、厭戦機運が急速に蔓延し始める。


 退路がないと悟り、背水の陣でA軍団との相打ちを狙うルフィエル率いる第6本国軍。

 圧倒的戦力差を見せつけられながらも、なお抵抗の意思を崩さない第4師団。

 最高司令官の逃亡の噂が広がり戦う前から敗北が決まっていると言っても過言ではない合同軍主力部隊。


 正午から日没までに同じ軍内でここまでの差が生じたのは何故か。それは偏に各部隊の指揮官の経験から生まれている。

 ルフィエルはタンタルス統一戦争を最初期から前線で戦っており、一度閑職に飛ばされながらも数々の戦闘で活躍してため再び本国軍の司令官に復権した。第4師団も司令官や前衛指揮官のデラトリウスも第6本国軍に編入される前はイリオス戦時やティルナノーグ戦時等において最前線で戦った経験を持っている。対するガムランも戦闘経験がないことはない。しかし民兵クラスの反乱分子しか相手にしてこなかっただけに、敵正規軍と死闘を演じたルフィエル達とは比較にならないほど能力がなかった。

 それでも『降伏』という選択がなかったのは自分たちがタンタルス大陸最強の国家ボルドアス帝国の正規軍たるプライドが邪魔をしていた。

 向かえば常勝とまで言われ、プライドを捨てられなかっただけに、ボルドアス帝国という一つの国家の終幕が着実に近づいていた。

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