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ミトスター・ユベリーン (リメイク)  作者: カズナダ
日本国の章 タンタルス編
18/24

第18話

 3月28日・・・。

 5日間本当に何も無かった。何も無さ過ぎた。

 ラカヌデンで感じた物に非常に似ている感覚が第44軍を包み込む。嫌な予感。5日間この感覚のせいでまともな睡眠も取れていない。レイオンにガルリッシュ、10万の将兵全員敗残兵かと見まがうほど虚ろな表情で指定地点を見回っていた。


 レイオンとガルリッシュは共にテリッシュのカノン砲陣地に入った。2日ほど前から砲兵軍第1連隊がカノン砲の設置作業を行っているが、まだ2tはある砲身の取り付けが残っていた。


「レイオン様・・・。」


「皆まで言うなガルリッシュ。敵は、必ず来る。その時は、俺もお前も、死ぬ。」


 相手はジュッシュ軍ではない。だが仮に相手が誰であろうがレイオンとガルリッシュは死を悟った。ラカヌデンでの戦いで見た大砲を背負った亀みたいな化け物。仮にあんなのと戦わなければならないとなったとき、死ぬことは確定している。


「こんなの戦争じゃねぇ。あえて言うなら自殺だな。」


「どれだけ不吉なこと聞いても納得してしまう自分が憎い。」


 ガルリッシュはこの憎しみを誰にぶつけるかと思い空を見上げた。その空に得体のしれない黒い物体が、ほんの一瞬、すぐに視界から消えたが見えた。

 その直後・・・。


 バゴォォォォォンン


「「うわぁアァァッ」」


 真後ろで爆発が起き、その爆風でレイオン共々吹き飛ばされ顔面から地面にたたきつけられた。


「いってて・・・。-ッ!レイオン様!!」


「・・・大事ない。それより・・・。」


 何が起きた。次にいう言葉が直ぐにわかり、二人は砲兵陣地が築かれていたはずの場所を見る。

 爆発でおきた黒煙が晴れるとそこに砲身も架台も人員も跡形もなく消え、クレータの中にはもともとそれだったものが散らばっていた。


「敵襲・・・。」


 バーレナー草原・・・。

 99式自走155mmりゅう弾砲を装備する陸上自衛隊の特科2個大隊は東(テリッシュ)西(ラチッシュ)の双子山山頂に砲兵陣地が築かれると予測。その通りに敵軍は重砲を設置し始めてた。そこで1大隊は30㎞の長射程を活かし山頂からでも視認困難な地点より砲撃。見事初弾を双子西山の砲兵陣地に命中さっせた。


「双子西山山頂に爆発を確認。沈黙と断定!2大隊は直ちに双子東山を砲撃されたし!」


 第1大隊の戦果はすぐさま特科大隊本部に送られ、敵砲兵にとどめを刺すべく第2大隊にも射撃要請が届いた。


「2大隊了解。

 自走15榴射撃用意!目標、双子東山山頂。敵砲兵陣地!」


「諸元よし!弾種榴弾!」


「撃てッ!!」


 12門の自走砲はTOT射撃で榴弾を発射。これもまた双子東山の砲兵陣地に見事命中し山頂もろとも吹き飛ばすことに成功した。


 双子両山頂の砲兵陣地を沈黙させたとの報告を受けた連合軍司令部は、特科第1第2大隊に突撃支援射撃に切り替えるよう命じ、各軍団に一斉攻勢を下令した。


 3月28日 午前11時30分。ABC各軍団一斉に攻撃開始。併せてヘリ部隊と海自艦艇も行動開始。ボルドアス帝国第44野戦軍と各所で戦闘に入った。


 左翼A軍団・・・。

 ジュッシュ軍3万を主力に、先鋒はアストラン軍とハーゼ騎士団各5000。海自艦艇の主砲射程内を海岸線に沿って北上していた。


「構えーっ!」


 アストラン軍は指揮官ヴァルサルの第4陸戦隊流の訓練に加え、合理的と判断された自衛隊式の戦法を取り入れ、匍匐前進で接近し第44野戦軍第6師団の前衛陣地に奇襲を仕掛けていた。

 突如目の前に出現したアストラン軍に第6師団の兵士は銃を構えることができない。それほど何も無い所からいきなり現れたのだから。


「撃てーっ!」


 膝立ち、直立の2段構えの一斉射撃を受け瞬く間に100人以上が打ち取られた。前衛陣地には1000人規模しか居ないため一気に部隊の1割を喪失したことになる。


「突撃ーっ!」


 間髪入れずヴァルサルは突撃を号令。両軍は100mしか離れていないためボルドアス軍は射撃による迎撃は取れずアストラン軍の突入を許し白兵戦に突入、直ちにこれを制圧した。

 時を同じくしてハーゼ騎士団もまた第6師団のアストラン軍とは別の前衛陣地を攻撃。騎兵突撃を慣行。士気に乏しい陣地の守備兵は抵抗虚しく蹂躙された。


 だがリオネンとヴァルサルが制圧したのは第6師団の4段ある守備陣地うちの1段目に過ぎず、しかもその1段目も5つの陣地が点在しており、リオネンとヴァルサルはそのほぼ中央の第3陣と第4陣に突入した。


 第44野戦軍 第6師団司令部・・・。

「敵は中央突破を試みるものと思われます!」


「予備兵を中央に集めろ!第2段陣地群で抑え擂り潰せ!」


 中央突破と包囲殲滅は、古代から戦術の対極をなす基本的な戦術である。中央突破は正面に強力な打撃力を集中するため側面が手薄になる。包囲殲滅の場合側面から後方に、つまり全面から攻撃できるが部隊を広く展開するため中央も比例して薄くなる。

 中央突破の場合いかに勢い保てるかが、包囲殲滅の場合いかに相手の勢いを抑えるかで優劣が大きく変わる。第6師団長はアストラン軍とハーゼ騎士団の中央突破を防ぐため、司令部に置いていた予備兵を中央に置き防御を固めるように命令したのはこのためだ。

 しかし相手が歩兵や騎兵のみの部隊だったらこの判断は正しいであろう。


「-ッなんだアレは?」


 部隊に指示を出した第6師団長の目の前、戦場の後方から自軍陣地に向かって空中を高速で移動する得体のしれない物体が現れた。数は10体ほど。


「うわぁぁ---」


 その物体は無数の光の矢を放ち、第3段陣地から師団司令部にかけての人馬を木端微塵に破壊しつくした。第6師団長もまた光の矢が起こした爆発に訳もわからないまま飲み込まれその生涯を閉じた。


 A軍団・・・。

「さすが自衛隊。凄まじいな。」


 司令部の壊滅に呼応し、各陣地は統率を失い敗走。アストラン軍もハーゼ騎士団の追撃はしなかった。敗走中の敵部隊に騎兵が追い打ちをかけて戦果を拡大確実なものにするのは定石であったが、下手に追ってコブラやアパッチの放つハイドラロケットの巻き添えになるは避けたかったのだ。


 だが肝心のコブラもアパッチもロケット弾を打ち尽くしため補充のため帰還の途に付く最中であったため無用な心配かに思われたが、それもすぐ正しい判断に変わった。


「敵騎兵多数接近!」


 OH-1が海岸線を第6師団の陣地を占領したアストラン軍に向けて爆走しているのを確認したからだ。


「コブラを呼び戻すか!?」


「乱戦の中にバルカン砲なんて打ち込めん!海自に止めてもらうぞ。」


 OH-1と海上自衛隊の作戦艦隊の旗艦きりしまには直通回線が設けられており、OH-1が補足した敵の位置情報はつぶさにきりしまのCICに転送されている。


 きりしま CIC艦橋・・・。

「支援要請、南下中の敵騎兵隊を撃滅せよ。」


「右対地戦闘、OH-1指示の目標。弾種榴弾。主砲撃ちー方始めー。」


 きりしま以下4隻の12.7㎝及び5インチ主砲が右90度に旋回。砲身の角度も目標に命中する適切な角度に調整され、砲身内に榴弾が装填される。


「撃ちー方ー始めー。」


 艦橋内配置の射撃員が手動発射トリガーの引き金を引く。引いた数だけ砲弾が発射されるが、初弾1発のみを発射しOH-1を介した着弾観測射撃でより正確に砲弾を目標に命中させるための艦長の指示であった。

 合計4発の榴弾は敵騎馬隊の後方に着弾。それを見たOH-1は即座に修正データを送信。きりしま以下各艦はそれに基づき諸元を入力。修正射を行った。

 この修正弾は敵騎馬隊の先頭に着弾。その後連続射撃を行い、アストラン軍への逆襲を図った敵騎兵隊は一騎一兵残らず全滅した。


「好機!全軍、バーリッツに向け突撃せよーーっ!!」


 A軍団を預かったルフトの号令に、軍団の全将兵は雄たけびをもって答え、双子西山の麓の海岸線を一気に北上していった。


 中央B軍団・・・。

 主力は74式戦車を中核とする陸上自衛隊の戦時機甲連隊。ボルドアス軍のいかなる火砲をもってしても撃破不可能な鋼鉄の猛獣を先頭に、随伴の普通科隊員500を引き連れ双子両山の間から後方の幹線道を目指し突撃していった。


「前方800!敵歩兵部隊!」


「各車榴弾装填!直接照準で各個に射撃!撃てぇッ!!」


 74式戦車は行進間射撃を行えるほど高性能な砲安定装置は設置されていない。よって発砲時は停車が必須である。榴弾である程度吹き飛ばせても敵4個師団約5万人を相手にしなければならず、榴弾を撃てど撃てどどこからともなく湧いて出てくる。


「特科大隊、支援を要請する!双子山ふもとの敵歩兵陣地を攻撃してくれ!送れ!」


 第1特科連隊本部・・・。

「支援要請了解!

 自走15榴、突撃支援射撃!」


 砲撃範囲が広すぎるため突撃支援射撃と言いつつも実態は自由射撃に近いものがあり、24門の99式自走りゅう弾砲は、とにかく榴弾を撃ちまくった。

 とはいえ榴弾は軟目標に絶大な効果を発揮する。それに広く散らばる敵歩兵群に対してはこれでも相当な効果が見込まれた。


 機甲連隊・・・。

 突撃支援射撃で敵歩兵の後続は瓦解。残りを7.62㎜と12.7㎜の機関銃でなぎ倒し、双子両山の谷間に到達。ボルドアス軍に有効な対戦車兵器は無く、戦車を吹き飛ばすほどの即製爆弾(IED)を作る能力も発想もなかった。


「峡谷に入る。全軍、側面に注意しつつ幹線道路の制圧に向かうぞ!」


 幹線道路への最短の突破口、自衛隊はここを『双子山峡谷』と名付けた。

 この双子山峡谷に本永1等陸尉の74式戦車を先頭にB軍団は続々と侵入。その道すがら、随伴普通科隊員の陸士が東山山頂からこちらを見下ろす敵兵を発見するが、その陸士が所属する班の班長は見なかったことにさせ先を急がせた。


 ラテッシュ高地 ボルドアス軍第1砲兵陣地・・・。

 砲撃を生き残ったレイオンとガルリッシュ、それからわずかな砲兵はテリッシュとラテッシュ両高地の合間を悠々と進む鉄亀をただ眺めていることしかできないでいた。どうせ戦うすべは石を落とす程度。十数人でなったところで崖を転がり落ちた石は関にもならないし、関になったところで簡単に突破されるのが落ち。それに抵抗しようものならまた自分たちの真上に砲弾が降ってくる。


「このまま何もするな。」


「よろしいので?」


「勝てる見込みがあるならやればいい。」


 レイオンはすでに部隊を指揮することを諦め、ついにはガルリッシュに「好きにしろ」とまで言った。

 だが、ガルリッシュもレイオンと同じ考えであり、部隊指揮などどうでもよくなった。そう思っていると、谷間を行軍する敵の歩兵と目が合ったような気がした。

 

 バンベルク ボルドアス軍総司令部・・・。

 ガムランの予想を覆す勢いで各地の防衛線が突破され、事態の収拾すらままならない状態が開戦以来続いている。


「各地で師団毎消滅させられている!」


「砲兵と騎兵は何をしている!?さっさと対処しないと開いた傷が塞がらんぞ!」


「砲兵は山頂もろとも消されたらしいぞ!騎兵も同様だ!」


 伝えられる情報はどれも自軍の劣勢、どころかそれを通り越し部隊喪失の報告ばかりであった。

 ガムランの脳裏にラカヌデンでの敗北の光景がフラッシュバックで甦る。今彼の頭の中には逃げなければという考えしかない。こうやって無駄な報告を聞いている間にも敵軍は刻一刻と途轍もない速さで迫ってくる。そうしなければならないと思っていても、また尻尾を巻いて逃げなければならい屈辱感と帝国軍の最高司令官としてのプライドがそれを拒否していた。


「バンベルク正面の本国軍歩兵、敵軍と会敵!交戦に入るも劣勢!」


「何!?」


「敵の規模は!?」


「はっおよそ1万!」


 バンベルクを守備する6万の歩兵が劣勢。相手はたった1万だというのに。こんなことがあり得るのか。あり得るはずないしあってはならない。6万の兵で1万を蹂躙するならまばまだ話として筋が通る。しかし現状は1万の敵兵に6万が蹂躙されている。こうなってしまえば後のことはどうでもいい。ガムランはこの瞬間逃走を決意した。


 右翼C軍団・・・。

 2台の16式機動戦闘車と共に、自衛隊の普通科連隊も89式小銃とMINIMI機関銃を撃ちまくりながら、逆襲してくる敵部隊を確実に撃滅していき、203mm自走りゅう弾砲の火力支援を受けながら一歩ずつバンベルクに接近しつつあった。


「左前方より2個大隊!」


「正面より敵増援!規模およそ1個連隊!」


「さらに後方に2個連隊補足!」


 203mm自走りゅう弾砲の砲撃無くても、普通科連隊は小銃や機関銃の火力に物言わせ100m圏内に入るものなら容赦なく殲滅していった。


「バンベルクまでおよそ2000!!」


 バンベルクは城塞都市であり、東のソプラソット山脈を除き高さ20mの城壁が残る3方を取り囲んでいる。無論城壁には守備隊もいて、ボルドアス帝国の最新式連発砲であるドズダン砲も備え付けられていた。しかしその射程はライフルマスケットをわずかに上回る程度であり大きな差はない。

 だが生身の歩兵にとって脅威であることに変わりはない。


「城壁にガトリング砲4門!」


「榴弾で吹っ飛ばせ!」


 16式機動戦闘車の主砲はフル規格の52口径105㎜ライフル砲で、74式戦車と同様の主砲であるため必然的に砲弾の流用もできる。それでも重量面での関係で砲塔には自動装填装置を積んでおらず、完全手動装填である。

 その砲塔内ではHEAT-MP(多目的対戦車榴弾)を弾薬室から取り上げ薬室に押し込む。


「まだ歩兵が残ってるぞ!」


 射手が標準機を覗き込むが、目標と指定されたガトリング砲を視認したが、その手前にはまだ1個連隊相当の歩兵が残っていた。


「M2で薙ぎ払う!」


 社長はキューポラの蓋を開け、上半身を晒し対空砲に砲塔上部に備え付けられたブローニングM2重機関銃を手に取る。コッキングレバーを引き弾を薬室に送り込む。あとは押金式のトリガーを親指で押さえこむ。

 発射される12.7x99㎜弾の破壊力はすさまじく、命中すればいかなる部位であろうと欠損は免れない。それもその筈。M2の高火力、長射程、高命中率をかわれ後にベレッタM82に代表される対物ライフルの原型となったのだから。


「ひぃぃぃいいいっ!」


「に、逃げろーーっ!!」


 M2の威力をまざまざと見せつけられたボルドアス軍の兵士は我先に逃亡。銃を捨て見方を押しのけバンベルクとは全く別の方向で走って行っても彼らにとってそれは問題ではない。とにかく逃げて、逃げて生き延びる。それが逃亡兵の考えであったのだから。


 統率を失った部隊の瓦解は早く、混乱と恐怖は他部隊にも伝染する。バンベルク正面を守っていた本国軍約6万のうち、市内守備についていた1万人を除き全員が戦死ないし捕虜または行方不明となった。


「発射ーっ!」


 射手の気を散らす障害が排除されたことで榴弾を発射。2車の放った榴弾は4門のガトリング砲の間に着弾。弾薬の装填手や射手を内蔵された鉄球やワイヤーを毎秒9000mのメタルジェットに乗せ人体をバラバラに引き裂いて絶命させた。


 かくして城壁までの脅威はすべて排除された。


 A軍団・・・。

 第44野戦軍を蹴散らした後ジュッシュ軍とアストラン軍は後続のワスタンネ軍とマゴニア軍の到着を待ちカーリッツ目指し突進。対するボルドアス軍は第6本国軍司令官ルフィエルの指示で町の手前に35㎞に及ぶ防衛線を築いていた。がA軍団が到着するころにはヘリ部隊の航空攻撃と護衛艦からの艦砲射撃で破壊しつくされていた。

 だが破壊されたのは設置していた土嚢やドズダン砲に過ぎず、第6本国軍の主力は健在。すぐさま弾痕の陰から2万の兵が打って出て野戦に突入した。


 互いに銃剣先を揃え全速をもって敵部隊と交錯。

 ジュッシュ軍のとある兵士は胸を狙ったボルドアス兵の一突きを屈みでかわし、そのままそのボルドアス兵の両足を抱えて後ろに投げ飛ばし、這いつくばって逃げようとする背中に思いっきり銃身から外れた銃剣を突き刺し、その直後背後からボルドアス兵に無防備な背中を突かれ戦死した。

 またあるボルドアス兵は帯刀が許されたレイピアとマスケット銃を駆使し、向かってきたアストラン兵の突きをかわし顔面を切りつけ、次いで向かってきたジュッシュ兵の叩きつけを片手で持ったマスケット銃で受け止めその腹部をレイピアで貫き、さらに向かってきたジュッシュ兵の突きをマスケット銃とレイピアで身をひるがえしながらかわすが、直後背後をジュッシュ兵に一突きされ戦死。

 さらにはアストラン兵は敵の眼前にも関わらず所持していたマスケット銃をボルドアス兵目掛け投げつける。ボルドアス兵はこの不意撃つに驚き、痛みと引き換えに投げつけられたマスケット銃を防いだが、直後腹部に衝撃が走る。手が空いたアストラン兵は怯んだボルドアス兵の下半身に強烈なタックルを加え押し倒し、首を両手で圧迫し窒息死を狙った。しかしそのような事させまいとする別のボルドアス兵にマスケット銃の銃床で蟀谷こめかみ部分を思いっきり殴られ失神する。


 これほどまでの乱戦、既に自衛隊の出る幕はなく、下手に攻撃をしようものなら味方もろとも吹き飛ばしてしまう。できることはただ見守ることのみ。


「うらあああぁぁぁ!!」


 戦場にリオネンの雄たけびが響き渡る。豪快な性格の彼女を象徴ともいうべきその咆哮は敵軍を怯ませ味方を鼓舞する。性格に似て戦い方も豪快かに思われたが、実際はそうでもなくしなやかな身のこなしと最低限の堅実な動きで複数人に囲まれようが一人一人確実に打ち取っていく。


 相手の突きを右手のバスタードソードで左へ受け流し、がら空きとなった相手の首元に左手のマインゴーシュを突き刺す。

 刺殺した敵兵の後ろからレイピアを振り上げる敵兵が迫ってくると、マインゴーシュを抜きながら体を左に反転させ衝撃を最低限にとどめるため膝立ちになり頭上で相手のレイピアを受け止める。そのまま立ち上がりながら左に反転。バスタードソードで敵兵の腹部を横一文字に切り捨てる。


「はぁっ。はぁっ。はぁっ。」


 だがいかに鬼神如き戦いで向かってくる敵兵を倒しても、どこからともなく現れては目の前に立ちはだかり取り囲む。

 リオネンは息も上がり、多勢に無勢の上満身創痍。内心死を悟りつつも自信を取り囲む敵兵をにらむのと同時に戦況を分析する。


 ジュッシュ軍もアストラン軍も、付け焼刃の自衛隊流の戦闘訓練でよくボルドアスの精兵に渡り合えているが、わずかな数的不利から徐々に押され始め、所々で2対1の状況に追い込まれてもいた。

 銃を捨てて我先に逃げ出そうとしないのが不幸中の幸いであったが、それがいつまで保てるか。


 リオネンは少しずつ後ずさりし、敵兵に均等に意識を振り分けながら距離を取った。


 カーリッツ 第6本国軍司令部・・・。

 ルフィエルに届くのは戦況優勢の報告。それは彼を大に喜ばせた。部下の参謀たちからは、このまま敵軍団をランスニ川の向こう岸まで追い返そうという意見も出たが、慎重なルフィエルはその意見を一蹴。兵士たちを町に引き返させ守りを固めるように指示を出す。


「好機ではないのですか!?この勢いのまま敵を追い立て戦果を拡大すべきです!」


「戦争は勢いだけでは勝てん。それに第44野戦軍を薙ぎ払ったあの天飛馬が出てくるかもわからん。それに騎兵隊を消し去った敵はこの沖合にもいる。

 だがいかに強力な兵器でも入り組んだ港町カーリッツに潜伏する歩兵を的確に攻撃することは不可能なはずだ。仮に無差別に攻撃してきたとしても、瓦礫は歩兵の立派な隠れ家になる。」


 第2次世界大戦最大の激戦区『スターリングラード』が泥沼化したのは、ソ連軍のゲリラ戦にある。市街掃討戦を行おうにしても、立て続けに行われた爆撃で建物という建物は破壊され、そこがゲリラの隠れ家となり、戦車を繰り出しても行動が制限されるため撃破されやすいうえ、そもそも戦車はゲリラ戦には向かない。さらにドイツ軍の補給線もパルチザンによる破壊工作でズタズタになっていたことも起因し、スターリングラードを包囲していたドイツ第6軍はソ連の援軍によって逆包囲され壊滅した。


 ルフィエルは士官学校で教わったことのない『市街地戦』と『ゲリラ戦』の防衛側における優位性をこの時すでに理解していた。そもそも統一戦争開戦以来『防戦』というものを自軍は経験していなくても味わい続けられてきたわけで、ルフィエルもまたティルナノーグ戦役時の首都『マインドラン攻防戦』で半年以上もの時間をかけられ、その後のボルドアス軍全体の戦略を大きく変更せざるを得ない状態を作り出してしまったのだから。それ以来独学で市街地戦とゲリラ戦の研究をしていた。


「来るなら来い。私がかつて辛酸をなめさえられた戦いに貴様らを引きずり込んでやる。」


 カーリッツから8㎞離れたところでルフィエルは全軍を町に収容。ドズダン砲と軽砲を引っ張り出し守りを固めることにした。


 だがその命令が届くまでの間、前線の兵士たちは戦い続ける。

 50~100人単位の小集団に散らばらされ少しずつ撤退するジュッシュ軍とアストラン軍をボルドアス軍が追い詰める形になっていたが、ジュッシュ・アストラン両軍はハリネズミのように密集し、追い立てるボルドアス軍の突きを弾き返し、3分以上かけて1mずつ後退していった。

 3mほど押し返されたところで、ボルドアス軍の最前列が後ろに下がった。新手はマスケット銃の銃口をジュッシュ軍とアストラン軍に向ける。


「-ッ!!伏せろーー!!」


 リオネンの叫びが引き金となったか、1000発近い一斉射撃を受けた。

 リオネンがいたのは70人規模の集団であったが、各集団は広く薄く展開していたためか全軍での被害は200人弱にとどまった。だがこれで撤退しているだけでは全滅する未来が見えてしまった。生き残るには・・・。


「・・・。突撃ーー!!」


 目の前の敵を倒すのみ。リオネンや撤退中の両軍兵士たち約7000は1万人以上の敵軍に突撃。死兵となって敵軍に一矢報いることを選んだ。


 それはA軍団が占領した双子西山山頂からもよく見えた。


「ただでは死なない。実にリオネンらしい。」


「けどさすがにあの数相手ではリオネンも・・・。」


 撃たれても一切ひるむことなく突撃するリオネンに、ルフトは敬意と呆れを、彼女の妹クローディアは心配を寄せた。対照的な感情を持ったにせよ彼女らの戦友を思う気持ちは本物であり、こんなところで死なせるわけにはいかない。


「わかっている。予備兵力をすべて投入!私も出る!」


 ジュッシュ軍近衛兵団とクレー騎士団、ジュッシュ予備兵力そしてワスタンネ軍とマゴニア軍の全軍を後詰として投入することを決め、ルフトとクローディアは馬に跨り陣頭指揮を執る。


 戦線はボルドアスの伝令が先か、A軍団の援軍が先か。それともリオネンの戦死と全滅が先か。

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