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ミトスター・ユベリーン (リメイク)  作者: カズナダ
日本国の章 タンタルス編
11/24

第11話

 9月23日・・・。

 ジュッシュ国内に逃亡した8つの亡命政府うち、日本は7つしか認めてなかった。

 その認められなかった国は『トロバー国』。ボルドアス帝国とジュッシュ公国の間にあった国だ。当然のようにトロバーの高官は日本国大使に直談判し、国家としての承認を得ようとした。そしてこの日もまた、トロバーの元首相付補佐官の『モルドー』と駐ジュッシュ大使の『柳田』との会談の場が設けられていた。


「柳田殿!何故我が国のみ、国家としての承認が得られないのだ!?先日お伺いしたときも有耶無耶にされ、我々と共に亡命した国民に何と説明したと思っておられるのだ!?」


 アストラン、イリオス等は新たな支援国を得られたとして日本国の存在を大々的に報じていた。

 トロバーにとっては、日本からあからさまな差別を受けていると捉えかねない事態であるが、今国民に日本に対して悪い印象を持たれるわけにはいかない。

 モルドーは日本と自国民との間で板挟みになり非常に苦しい立場にあった。


「貴方が置かれておられる状況は、私個人としましては同情を禁じえませんが、それでも日本国政府、防衛省には戦略がございます。その戦略を達成する為に、わが国はトロバー亡命政府を承認するわけには行かないのです。」


「またそれですか!?来る日も来る日も戦略戦略と、聞き飽きました!どの様な戦略かを訪ねても答えられないの一点張り!

 私も対日感情を悪化させまいと最大限努力してきましたが、事ここに到ってはもう限界なのです!!」


「・・・ではお答えいたします。我が国が思い描いているのは-」


 コンコンコン


 会談室の扉が外側からノックされジュッシュ公国の外務局職員が半身のみを入室させる。


「会談中失礼します。公王、シュバーベン様が柳田大使をお呼びです。

 つきましては早急に公城までお越しいただきますよう、お願いいたします。」


 会談を終えてからと言いたかったが、公王からの要請となればそうとはいかず、柳田はモルドーと共に公城に向かった。


 ギル=キピャーチペンデ王国 軍需省 副大臣書斎・・・。

 『特例衛星大陸細分報告書 タンタルス大陸に於ける所属不明軍に関して』※(訂正済み)

1、ボルドアス帝国は、予てよりジュッシュ公国征服に向け準備していた海軍艦艇10隻予(※総数60隻)、陸上戦力60万強を投入。

 この時、ボルドアス海軍の精鋭部隊である『第4陸戦隊』が乗船していたベルテクスの艦隊を主力と誤認。

2、ボルドアス海軍の戦略目標であったゼーレフォンに現れたのは、後続であるはずのデュリアンの艦隊であった。

 この時、今まさにと攻撃に移ろうとしたデュリアン艦隊の遥か後方から飛行機械が飛来し艦隊を攻撃し、その後ボルドアス軍の装甲艦の全長を超える7隻の灰色の戦闘艦が現れ、ボルドアス艦隊を殲滅した。

3、飛行機械と灰色の戦闘艦を保有する軍は、自らを『日本国自衛隊(※日本軍)』と呼称。ジュッシュ公国の対ボルドアス戦線に参加する事を決める。

4、ラブングル地方において、ガムラン大督率いる陸軍60万とジュッシュ軍10万及び日本軍1000が会戦。当初、兵数で圧倒するボルドアス側の勝利かに思われたが、日本軍が野戦軍2個半を壊滅させるなどと活躍し、会戦は一方的な展開となった。

5、ラブングル会戦に後、日本国はジュッシュ公国公都ゼーベルムートにて正式に国交を樹立。ジュッシュに退避していたタンタルス大陸の亡命政府も認め支援を表明した。

 しかし、この亡命政府容認にボルドアス帝国とジュッシュ公国の狭間に位置するトロバー国は認めなかった。


 統合情報局から挙げられた報告書を受け取った軍需省副大臣『バイラハル・ジグソー』は眉間にしわがより、右手で頭を擦り切るほどの勢いでかいていた。

 ド素人目線で見てもデタラメが過ぎる報告書が統合情報局の局長、ミランダの印が附かれていることに加え、さらにジグソーを悩ませていたのが・・・。


「こんなのを受け取らせる為に、わざわざ自ら赴くとはな。」


 ミランダ自身が直接持ってきたということだ。


「小官の見立てでは、日本と言う国は放置しておくべきではないと思います。

 今月はじめに国交を結んだジュッシュ公国は目に見えて発展しており、ゼーベルムートとゼーレフォンに幹線道路が整備されているとも言われております。その質も規模も王国を遥かに凌駕していると。」


「道路一本程度で優劣を決めるな。国力の差が如実に出るのは軍事力だ。

 現在の王立陸軍は約200万の人員に加え、1万と超す重砲と軽砲。海軍は新鋭のドルート級戦艦28隻と前任のインガウス級戦艦31隻と200を超える巡洋艦と駆逐艦。

 軍需工場と造船所は全て直轄領の海岸部に集中しているが、全力稼動させれば駆逐艦程度であれば3週間程度で就役させられる。ドルートは4年近く掛かるがな。

 とにかく、数で圧倒する王国が負けるわけない。」


「・・・ゼーレフォン沖の海戦はわずか1時間足らずで終決したとのこと。7隻の日本軍艦が全てドルート級戦艦に匹敵する性能を持っていたとして、それが可能でしょうか?」


「無理だな。」


 軍需省の副大臣であるからこそ、王国軍の総兵力、兵器の性能、納品に掛かる時間。全て知り尽くし、其の事をミランダに熱弁したジグソーであったが、その熱は一気に冷めた。

 いくら第5海洋界最強のドルート級戦艦であっても激しく動揺する海上で60隻の蒸気帆船を相手取った海戦であっても、命中率の激減から1時間足らずで決着させる事など不可能であった。


「日本と言う国は、ゼーレフォン沖海戦で『飛行機械』を使用したとあるな?」


「はい。その飛行機械と7隻の戦闘艦で・・・。」


 だが、波での動揺が皆無な空からなら、対空戦の概念がない相手に一方的な攻撃が可能である。

 その対空戦の概念はギル王国軍にも考察すらない。

 そして何より・・・。


「飛行機械を完全自国生産できるのは、この世界に『ヨル=ウノアージン聖皇国』ただ一国。

 その聖皇国が、日本に飛行機械と搭乗員を送り込み、実戦データを集めている可能性が非常に高い。だがそれが命取りと言うものよ。なぁミランダ?」


「はい。日本国に対する調査レベルを最大にし、より一層の、噂に至るまで日本に関する情報を徹底的に拾い上げます。

 中でも聖皇国の飛行機械に関す情報には懸賞金をかけます。」


 ギル王国、特に統合情報局による日本国の調査が本格化していくが、国家運営を担う王族たちが、その事を理解するには長い時間が掛かることになる。


 ジュッシュ公国 公城 外務局会議室・・・。

 ジュッシュ外務局職員は、どうやら日本やトロバーだけでなく他の亡命政府の外政に関して非常に権威ある者達にも声をかけて回っていたようだ。半円状の卓にジュッシュ外務長、オームゼンを中心に各国の外務官が同席し日本国の外交官、柳田はその卓の一番端に着席した。


 左端より

・ティルナノーグ外務次官 マルセロ

・ワスタンネ外交長官 ガーベン

・デュリーランド外政指導官 シビアルス

・イリオス政府付特務大使 ラドバ

・マゴニア外務副大臣 サディール

・ジュッシュ外務長官 オームゼン

・タモアン外交貿易局局長 オハン

・アストラン外海和親担当官 サパラグ

・トロバー首相付補佐官 モルドー

・駐ジュッシュ日本大使 柳田


 そして彼らの目線に先には、まるで尋問を受けているかのごとくポツンと座らされている少年が一人居た。


「レッソン・・・。ボルドアス女王のお抱え召使が、公国内を観光に来たのか?」


 オームゼンの荒い口調の矢表に立たされるレッソンであったが、顔色一つ変えず堂々とした口調で返す。


「ジュッシュに落とす金銭など持ち合わせておりません。

 僕は貴方方に猶予を与えに来ただけですので。」


「猶予・・・だと?」


「先のラブングル会戦において、帝国は甚大な被害を被りました。しかし依然として国内には徴兵可能な人員が10万単位で居ります。

 それに何度も申し上げているように、長期消耗戦である以上国力差から見て貴国らに勝ち目などありません。」


「はっ!敗者の戯言よ。そのようなあからさまな虚勢、見破れんとでも思ったか?」


 柳田は、最初のうちはただ静観しているだけであった。

 レッソンの言う通り、単純な国力差で言えばボルドアスが圧倒的有利である。総力戦の様相を呈するこの戦争に、ボルドアスの8分の1程度の国力しか持たないジュッシュが、他の亡命政府を支援しつつ5年にも及ぶ戦争を戦い続けている。

 ジュッシュ単独であるなら間違いなくどこかで折れる。そうならないのは、ジュッシュをボルドアスと同程度、あるいはそれ以上の国力を持った国が裏で支援しているとしか考えられない。

 柳田の疑問はこの会議の場ではない別の場所に向けられていた。


「それで何だ?休戦したいとでも言うのか?」


 そんな柳田を他所に口論が続いていた。


 モルドーが言い放った『休戦』の言葉。

 柳田からすればボルドアスにもジュッシュにも有益性があった。ボルドアスからすれば休戦期間中に戦力の補強が、ジュッシュからすれば日本の支援で国力を底上げが図られたからだ。

 これが休戦交渉だとしたら、双方が納得がいく内容にならなければならない。


「休戦・・・。受け入れると?」


「そうとは言っておらんだろ!それに休戦を提示しようが受け入れようが、それはボルドアスが相当追い詰められていると言う現われではないのかぁ?

 美味い蜜が目の前に滴れていて、それを素通りする馬鹿がどこの世界に居ると思っている?」


 確かに、ラブングル会戦で大損害を被り、それに恐れ入ったから休戦を申し入れに来た。となれば甘い蜜である事は確かだ。

 だがその蜜が毒素を持つ木から滲み出ているものであるとしたらどうか。当然蜜にも毒が含まれている。

 柳田は、ボルドアスがジュッシュ側が拒否であろう休戦をワザト持ちかけ浮き足立たせ、西のトロバー、或いは東の『ティルナノーグ』に誘引させ、そこで進撃して来た軍勢の包囲殲滅を狙っていると考えた。


 ボルドアスとしては、先のラブングル会戦及びゼーレフォン沖海戦の損出を補う為にも本当に休戦したかったが、ジュッシュや亡命政府のメンバーは祖国を蹂躙され続けている無念と雪辱を晴らす為、これを好機と捉えていた。


 つまり、柳田は深読みしすぎた。


「我が国は休戦しても構わないと思っている。」


「・・・は?」「柳田殿?」「今何と?」


「日本国は、ボルドアス帝国の休戦提案を受け入れる。」


 柳田の休戦受け入れ発言に、オームゼンが憤りの表情で糾弾しに掛かった。


「柳田殿・・・!よくもそのような事をわしの前で言えたな!

 この場で休戦する意味を、貴殿は分かっているのか?

 分かっていないからそのような発言が出来る。いいか柳田殿?これは好機なのだぞ。ボルドアスは自ら疲弊状態にあることを教えてくれたのだ!これを好機と捉えず何とする!?」


 言いたいことを一通り言い終えると同時に右手に作った拳を机に叩きつけた。

 しかし柳田は冷静に返す。


「我々の目的は、九十九里浜事件の首謀者の捕縛にあります。80年もの平和を貫いて来た日本を戦争に引きずり込み、更には何の罪も無い赤ん坊まで手に掛けた。その罪は非常に重いものであります。」


 蚊帳の外にいるレッソンはこの柳田の発言を聞き、自分の記憶を遡っていた。

 そもそも九十九里浜と呼ばれる地域を攻撃しろなどと言う命令は、王女からも、軍政大官のベルナールからも聞かされていないし、その二人も知らない節もある。そうなってくると首謀者とは一体誰か。王女か、ベルナールか、はたまた別の人物か。仮に首謀者が個の戦争を始めた者の事を指すのであったら、それは先代女王である。


「(これはチャンスだ。日本と言う国は女王陛下がこの戦争を始めたことを知らないみたいだし、うまくやれば王女の命だけは助かるかもしれない。)」


 日本とジュッシュ、そしてボルドアス。それぞれの思惑が交差し、この場は完全に論戦の会場と化し、時間だけが無常にも過ぎる事になった。


 日本、柳田の考えは、休戦期間の間に九十九里事件の首謀者の割り出しと油田の発見。再交渉のときに首謀者の引渡しを言い渡す。破棄されたときは、ジュッシュ軍と協力しトロバーを通りボルドアス本国に侵攻。講和を申し入れる。

 ジュッシュのオームゼンやタンタルスの亡命政府各国は、端から休戦を受け入れる気は無く、直ぐにでも逆襲に打って出る考えであった。

 ボルドアス、レッソンは日本を言う国は初耳であったが、ジュッシュや帝国に恐れを抱いていない姿勢にかなりの力ある国との認識を持った。つまり日本とのみ休戦すれば、オームゼン等ジュッシュの強硬姿勢を崩せると思った。


「柳田殿、と仰いましたか?今晩にでも僕と二人でお話いたしませんか?」


「えぇ。構いません。」


「・・・勝手にしろ。」


 ボルドアス帝国 帝都ボルドロイゼン・・・。

 戦時合同軍指揮官だったガムランはボルドアン城の地下独房に幽閉されていた。

 元の身分が身分であっただけに独房内といえどかなりの高待遇を受けていたが、それでもこんな生活が後5ヶ月近く続くと考えると・・・。


「はぁぁぁ。」


 深いため息が出る。

 外の世界の話題に関しては、毎朝伝令番が新聞(王国報通)を届けてくれるが、目を張るような記事は一つとして見つからなかった。


「ガムラン大督ですか?」


 やさぐれているガムランに声をかけたのは、王国報通の記者、フーバであった。


「だったらなんだ?」


「少しばかりですが、帝国にとってよからぬ噂を耳にしましたので、貴方様のお耳にも入れておこうかと思いまして。」


「よからぬ噂?」


「帝国はジュッシュと休戦するようです。そうなれば講和条約締結も時間の問題。仮に講和が成立すれば帝国に不利な条件となるでしょうなぁ。ガムラン大督も下野にされるのも明確です。」


「休戦?馬鹿馬鹿しい。一体誰がそんなこと言ってるんだ?よもや王女殿下とはいうまい。」


「その王女様が休戦を願い出ているとしたら?」


「なっ!?」


「では僕はこれで。」


「まっ待て!殿下がジュッシュとの休戦を願い出るってどういう意味だ!?オイッ!!」


 振り返り地下独房を後にするフーバには、ガムランの縋るような静止の言葉は届かなかった。

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