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ミトスター・ユベリーン (リメイク)  作者: カズナダ
日本国の章 タンタルス編
10/24

第10話

 ランスニ川南岸に展開した自衛隊の装甲部隊の前は、攻撃の是非を問う下準備を行っていた。

 カバーナル盆地もプルトネッス高地も包囲網は完成し、後は降伏勧告を行い、制限時間内に応じなかったときは、特科と装甲部隊の火力をもって殲滅する。という構想になっている。


「敵兵接近。2名。」


 装甲部隊の指揮官、本永康二1等陸尉は降伏勧告のため82式指揮通信車に後付したスピーカーのマイクを手に取ろうとしたが、隣の陸曹から敵兵の接近を知らされた。

 一人は銃剣付きのマスケット銃を携えていたが、もう一人は隊旗と思われる旗のついた槍を抱えており、マスケット銃を持った敵兵は槍を持った兵の左斜め後ろの位置を保持している所から、槍を持った兵士は敵軍の中でも尉官クラスの階級の持ち主なのではないかと推察した。

 二人の敵兵は30mほど先で足を止め、尉官クラスと思われる敵兵は持っていた槍を逆さ、つまり槍先を地面に突き立てた。


 本永はその様子を逐一司令部に上げていた。


『確認を取る。射撃待て。』


 連合軍司令部に居る神崎は問い合わせを受け確認に走る。

 旗を用いた意思表示であることは直ぐに察しがついたが、自衛隊が知るあらゆる意思表示を異なる為少々時間がかかるかと思われた。


 ゼフェット 連合軍司令部・・・。

「こんな意思表示、見たことあるか?」


「いぃや。全く。」


 通信科員達は本永1尉が見た光景を絵に写し、各々の記憶にある知識を出し合ったがどれ一つとして合致するものはなかった。このままでは本永1尉に伝えることはできないが、目測の域を出ない以上自分たちだけで判断するわけにも行かない。


「-ッ!それは降伏だ。絶対に撃つなよ。」


 しかしその場に居合わせたジュッシュ軍の将校は、あのボルドアス兵の行動は降伏を意味していると自衛隊に教えた。確認しようにも比較となるものは無く、郷に入っては郷に従えということで通信科員はそのまま本永1尉に教えた。


 カバーナル盆地・・・。

「降伏・・・か。」


 通信を受け取った本永も半信半疑でった。しかし・・・。


「話してみる価値はあるか。」


 同数での会談を決めた。

 傍付きからは、敵兵の一人は剣を携えている為面と向かって話すのは危険と言われたが、仮にかの意思表示が降伏であったならそのまま問題なく話は進むだろうし、もしブラフだったとしても旗を持っていた二人の兵士を含め、敵軍全体は戦車砲の射程圏内に入っている為その場で叩き切られたとしても、それは明確な敵対行動であるため反撃するに十分過ぎる理由付けが出来る。

 本永はこの二つの理由から会談を決心した。


 そして、本永は会談をするべきで無いといった傍付きと共に敵兵2人のもとまで歩み寄った。


 逆さに地面に突き刺さった隊旗つきの槍を挟み、九十九里浜で鎌田とヴァルサルがしたようなシチュエーションで降伏交渉が始まる。


「私はボルドアス帝国第29野戦軍副官、マウラウス・デウハラー。」


「日本国陸上自衛隊臨時装甲部隊長、本永康史1等陸尉だ。」


 まずは互いに挨拶を交わす。


「降伏すると聞いたが?」


「勿論だ。我々に戦う力は残っていない。」


「まだ10万近く残っていると思うが?」


「確かに数はそれぐらい居るだろう。

 けど、使える武器は短槍のみ。それで貴軍らが使役するあの鉄亀が殺せるか?」


 本永は後ろを向き、マウラウスが言う『鉄亀』を探した。


「(鉄亀とはおそらく74式戦車のことだろう)」


「無理に決まっている!あんな兵器を造れる国なぞ、俺の知る限りでは存在しない!

 それにあたらにはまだ切り札の『カバーナル噴火』が残っているだろう!?

 戦って死ぬのが名誉と教えられたが、こんな戦いにならん戦いで死ぬなぞ犬死も同じ!」


 迫真の表情でマウラウスは本永に訴えかける。


「それに本永殿、貴殿の国、日本といったか?どの様な国かは知らんが、無抵抗のものを喜々とした感情で殺戮するような、ボルドアスと同じような国で無いと信じる。

 どうか助けてほしい。そのための対価ならいくらでも支払う。それこそ、俺もこの首を差し出す覚悟もある。」


 本永の脳裏に九十九里の光景が思い浮かぶ。

 無抵抗、いや抵抗すらさせず一方的に自国民を虐殺された。蒸気船の砲弾で人体を粉々にされ、ミニエー弾に内臓を粉砕され、銃剣で滅多刺しされ、到底人間には出来ようも無い所業。それを意図も簡単にやってのけるボルドアス兵はまさしく悪魔なのではないか。

 本永はそれの考えが頭から離れないでいた。

 彼の息子一家3人は当時九十九里浜に遊びに行っていたことで、ボルドアスの攻撃に晒された。何処かで生きているのではないかと小さすぎる希望を抱いたが、結局見つかったのバラバラ死体に変わり果てた孫のみであり、遺族に遺体無き葬式をさせまいと、バラバラ死体の肉片一片に至るまで探した。

 その時抱いた感情はボルドアス帝国に対する殺意しかなく、いつかこの手で首謀者を殺してやりたいと思っていた。


 だが今はどうか?

 目の前に居る兵士達はボルドアス軍の名を被った別の軍であろうが、ボルドアス軍であることに変わりは無い。本永の目には共謀者としか見えてなかったが、ボルドアスと同じような、と言われて考えた。

 目の前に居るボルドアス兵の命は自分が握って居ると言っても過言ではないが、仮に彼らを殺してしまっては全日本国民を、自身が悪魔と同等と考えるボルドアスと同類にしてしまうのではないか、と。


「首を切る必要は無いし、我々日本人は虐殺をしない。

 貴官らは捕虜としてゼフェットに移送する。良いな?」


「構わない。

 ・・・感謝する。」


 マウラウスは本永の言葉に深く感謝した。


 カバーナル盆地と同様に包囲されていたプルトネッス高地でも、指揮官と副官の間で内ゲバが発生し、結果親ボルドアス派の指揮官が殺害されるまでに至った。

 その後、降伏を勧告に来たルフト率いるジュッシュ近衛兵団に投降。全兵武装解除の後ゼフェットに移送される。

 その数は、第29・38軍合わせて20万にも昇った。


 捕虜の移送を行う傍ら、第44軍が攻撃していたラカヌデン森林に、装甲部隊の随伴歩兵を向かわせ掃討戦を開始。

 第44軍は森林内で思うように行動できなかったのが幸いしたか、10万の将兵と共に撤退。戦闘に参加した野戦軍の中で唯一壊滅させられることは無かったことで、森林攻撃の貧乏くじがまさに大当たりくじに変わった瞬間となった。


 日本が参戦してからのこの戦いは連合軍にジュッシュ軍1500人程度の戦死が出ただけであり、対するボルドアス軍は3個野戦軍(約45万)が壊滅するという歴史上類を見ない一方的な結果となった。逆にボルドアス軍で無事に戦線を離脱できたのは、ガムランの戦時合同軍6万と第44軍10万のみであった。


 9月3日 ゼフェット・・・。

 戦闘終結からと言うもの、自衛隊もジュッシュ軍も報告書の始末に追われていた。

 両軍の幹部は長机を挟んで通信記録から戦闘開始から終結までの経緯を紙媒体にまとめていっており、カタカタと用紙にペンを走らせる音は鳴り止まない。


「ペンをお借りしてよいか?」


 自衛隊はシャーペンとボールペンで報告書を仕上げていくのに対し、ジュッシュ側は万年筆。作業スピードは自衛隊が段違いに速い。おまけにジュッシュ側は間違えてしまえばまた一から書き直すため、スピードに反して用紙やインクの消費は激しく、止む無く自衛隊にシャーペンを借りることにした。


「インクは付ける必要はありません。後ろのボタンを押し込めば芯が出てきますよ。」


 万年筆はペン先をインクに付けることで毛細管がインクを吸い上げることで書けるようになるのだが、ジュッシュ軍の幹部はインクを付けずに本当に書けるのかと疑問に思いながら、言われるがままにペン先の反対に付いたボタンを押し込む。


「こ、これは・・・!」


 カチッと軽やかな音と共に、数ミリ程度の芯が出てきた。そのまま用紙にペンを走られる。万年筆より軽い筆圧でスラスラと書けるにも関われず、文字の濃淡に変化は無く滲むこともない。

 革命的は一品にジュッシュ軍の幹部たちは衝撃を受ける。


「凄いものですな、これは。

 日本でもこの手の物は高く付くのですか?」


 今まで使ってきた万年筆はギル王国からの輸入品であり、話によれば職人一人ひとりの手作りであるためジュッシュ国内で使えるのは貴族階級の者達だけとも言われている。

 自衛隊から借りたシャーペンは万年筆よりも高度な技術で作られているとも思われたので、日本でもごく一部の者しか使えないと考えた。


「いいえ。日本ではシャーペンは一般的な筆記具です。むしろ万年筆の方が高いぐらいです。

 ほしいと言われるのでしたら、差し上げても構いませんが?」


 万年筆より高い技術で作られておりながら安い。しかも一般的な筆記具と言うことは日本の国民は皆読み書きができると言うことだ。

 使用する兵器や戦術のみならず、ペン一つとっても日本は公国の数百年先を行く。仮にギル王国と断行しても日本がいれば自然と国は発展していく。

 そんな希望を胸に膨らませながら両者は作業を続ける。



 ギル=キピャーチペンデ王国 王都ソーンヘルム・・・。

 この国の国営報道機関『王国報通』のラジオ放送が始まった。


 ギル王国のマスメディアとして大きく展開しているのは国営の王国報通や民営や個人経営の新聞社がほどんどであるが、王都やそれに続く大都市ではラジオが放送されている。金を出して買わなければならない新聞とは違い、放送用スピーカの前に立つだけで情報が手に入ることで、放送時刻になると多くの人間で溢れる。

 流れる情報は殆ど自国内や衛星大陸のことばかりであるが、極稀に諸列強の情報も流れる為、商人も一般人も関係なく静かに耳を傾ける。


『皆様こんにちは。王国報通のお時間です。

 まずは衛星大陸の話題です。』


 僅かに聴衆がざわつく。いつもなら自国内のことの次に報じるはずであるが、その順番を変えてまで伝えたいことたいことなのかと再び静まる。


『西方の衛星大陸タンタルスに置きまして、衛星国ボルドアス帝国とジュッシュ公国との間で実に3度目におよぶ大規模な戦闘が発生しました。結果はボルドアス側の惨敗に終わったとのことですが、この戦闘に所在不明の国の軍が参加していると見られ、現在調査が進められています。

 また関連性は不明ですが、王立海軍は保有するドルート級戦艦の実に半数をタンタルス方面に展開していると言うことが海軍関係者への取材で明らかとなりました。』


 聴衆がまたざわめく。今度は報道の順番を変えた程度の同様ではなく、海軍の不可解な行動による疑問から出たものであった。


「どうゆうことだ?」「海軍は何を考えているんだ?」「正体不明の軍?」


 アナウンサーは関連性は不明と言ったが、普通なら考えられない海軍の行動に正体不明の軍が関係していることは容易に想像つく。だがそれでも28隻のドルート級戦艦の半分、14隻をタンタルス方面の警戒当てる必要があるのか。

 例え正体不明の軍がボルドアス以上の力を持っていたところで第5海洋界最強のギル王国に敵うはず無いのに過剰に反応しすぎではないかと。


『・・・次の話題です。南西の衛星国-』


 そんな聴衆に答えを教えぬままアナウンサーは話題を次に移した。



 ボルドアス帝国 帝都ボルドロイゼン・・・。

 300年の栄華を極めるタンタルス大陸最強の国家。その象徴たる皇城ボルドアン城、玉座の間において、戦時合同軍の指揮を任せられていたガムランが、床に両膝、両手、額の順に崩れていき、王女に目一杯の謝意を示していた。


「やってくれたわね。」


 若干14歳にしてこの大帝国の主である女王『リーエンフィール』は、玉座に浅く腰掛け、膝を組んで下目使いでガムランを見下ろしておた。

 しきりに手にした扇子を閉じた状態で左手の平に打ち付けている辺り、相当不機嫌なのが否応無く伝わり、当事者でないが花道の両脇に立つ貴族達の見ているだけで汗が噴出すほどであった。


「過去2回の大規模攻勢は陸軍のみでやってきたけど、ギルの裏をかくため海軍兵力の3分の1まで投入したと言うのに、ナニ?この体たらく?」


 計画通りであったなら、海軍がゼーレフォンを占領し新たな戦線を形成。ライオデン方面の軍勢で公都守備隊の動きを制限しつつ、ラブングル方面に展開する敵軍を包囲し殲滅する。

 国内の財政が破綻寸前なうえ、日頃いがみ合っている陸軍と海軍を黙らせてまで行った3度目の大攻勢。

 結果は過去2回の合計を遥かに上回る損害を出しての敗北。


「ギルの目を逸らす為、ベルテクスの2線級艦隊に第4陸戦隊を付けたのに、後続のデュリアンの艦隊共々行方不明。

 陸軍も過去2回を越える4個野戦軍を送り込んだだけでなく、アンタに臨時の合同軍も預けたって言うのに、3個も消されただけでなくアンタは逃げ帰って来た。」


 ガムランは頭を床に穴をあけるほど強く押さえつけ何も言わない。代わりに絨毯が彼の汗で滲んでいた。


「なぁあいいわ。アンタは反乱軍鎮圧の功績が結構あるし、死刑にはしないであげる。

 代わりに半年間謹慎してなさい。

 ・・・ガムラン?」


 ガムランは国内の反乱軍鎮圧でいくつもの武勲を挙げており、その存在自体が反乱軍に対し一定の抑止効果を与えていた。ゆえにガムランを処刑することは反乱軍の更なる膨張を誘発しかねないことであった。

 だが刑を言い渡しても肝心のガムランに反応が無く、呼び掛けでも微動だにしない。極度の緊張のあまり彼は土下座の状態で気を失ってしまった。

 そうだとわかると、リーエンフィールは埃を払うように扇子を前後に振った。そして、二人の兵士が颯爽と現れガムランの両脇を抱え、かかとを引きずりながら退出させた。


 ガムランへの刑を執行した後、リーエンフィールは召使のレッソンと共に自室に向かった。

 その道すがら、彼女らは腹を割って話していた。


「今回の損害を埋めなおすのにどれだけの時間とお金が掛かると思う?」


「陸軍は少なくとも5年か6年。かかる費用はおよそ10億マルソ(日本円で2億)かと。

 海軍は・・・なんとも。

 それから噂ですが、この戦争ギルが裏で手を引いている、と。またそのギルから軍備補充のための資金援助をしよう、と。」


「『援助』と称する事実上の『債権』ね・・・。」


 ボルドアス帝国の財源は、そのおよそ6割を国内からの税収が占めており、その税収も100%近くが属国からもたらされていた。

 併合当時から本国より税率は僅かながらではあるが高かったものの、ある程度の自由貿易が認められていた。またそれで得た収入を『貿易税』として納めさせていたことで帝国本土も属国も潤いそこまで関係性は悪くなかった。しかし統一戦争の総仕上げとして取り掛かったジュッシュ攻略戦が予想以上に長期化し、解決の糸口が見えない泥沼の戦争と化し貿易税を含めた各種税率は日を追う毎に増加し、戦力の数を揃えるため野戦軍の人員が属国から強制徴用され続け関係性は悪化した。そして何時しか『独立』を目的とする反乱軍が活動を開始し、本国軍との戦闘が各所で勃発し死傷者が続出しており、本国軍の人員補填にも費用が掛かる。

 国内の財源で賄いきれなくなったら、最終手段としてギル王国に借金していた。しかしその返済にも国内からの税金が当てられていた。


 そんな状態が約4年続いている。


「軍を造るにはお金が掛かる。お金が掛かるから属領の税率を上げる。上げれば反乱が起きる。反乱が起きるから鎮圧のため軍が必要になる。

 お金が足りなかったらギルに借金する。返済に使われるのは国の税金。そのせいで国の財政は火の車・・・。

 こんな悪循環ないわよ・・・。」


 リーエンフィールは悔しさの余り左手を強く握り締める。爪が手の平に刺さろうとも、それによって出血しようとも、彼女はより強く左手を握り締める。


「お止め下さい!」


 見かねたレッソンがリーエンフィールの左手を引っ張り、無理矢理指を開かせる。その時の彼女の目は赤く血走り、涙が頬を流れていた。

 最初こそ戸惑いを見せたが、一瞬我に返ったリーエンフィールは自身の左手をレッソンの両手から払いのける。


「・・・レッソン。無理だと思うけど、ジュッシュに一時休戦を伝えてみて。」


 レッソンの顔を見ないで、今自分が取れる最善の策をレッソンに伝える。


 レッソンは何も言わずただ静かに頷き、リーエンフィールはそれを背中で感じ取ったか、一人自室へと歩いていった。



 9月8日 ジュッシュ公国公都 ゼーベルムート・・・。

 自衛隊のジュッシュ派遣部隊の第3陣が到着し、この部隊には外務省の外交官も同席させていたため晴れてより日本国とジュッシュ公国のとの間で、正式な国交樹立を目的とする会議が開かれた。

 しかし、二国間会議にしてはジュッシュ側に在席する人員は非常に多かった。


「彼らは一体?」


 外交官の上村は、ジュッシュ外務官のダリウスに詳細な説明を求めた。


「彼らは皆、亡命政府の高官です。

 凶悪なボルドアス帝国に祖国を侵略され、抵抗を続ける我が公国を頼り流れて来たのです。

 彼らを容認しているのは公国だけですが、一カ国でも二カ国でも、少しでも多くの国に認めてもらいたいとのことで同席させております。」


 アストランやイリオスはジュッシュ国内に亡命政府を打ち立てボルドアスに対する抵抗を続けている。構成する戦闘員は指揮官クラスは政府高官と共に亡命してきた軍人。尉官未満のもの達は野戦軍の捕虜や逃亡兵で占められている。

 現在ジュッシュ一カ国からしか支援を受けていないが、日本からも支援を受けられれば苦しい思いも少しは軟らかくなる。

 亡命政府が日本に求めるのはそれに尽きるものであった。


 気を取り直し、上村とダリウスは会談を再開する。


「ではまず我が日本国の概要から。

 我が国は貴国から西に4500kmの洋上に突如として転移してしました。

 面積は約37.8万km2、人口は約1億3000万人、7000にも達する大小数多くの島々からなる島国です。」


 上村から教わった概要にジュッシュ側一同は目を丸くする。

 西に4500km洋上にあるという時点で島国と言うのには納得がいくが、面積に見合わない多すぎる人口に、挙句の果てに『転移』など、子供でもこんなおとぎ話じみた話信じるわけがなかった。


「にわかには信じがたい。

 そんな説明で誰が納得がいくとでも。外交を子供の遊びだと思っておるのか!?」


「そんなことは毛頭ありません。

 仮に我々が同じ立場であったとしたら、我々も同じことを言ったでしょう。それに転移に付いては現在調査中であり、この場でお話しすることも出来ません。」


 怒号で迫ってくるダリウスに上村が応えられるのはこれが限界であった。

 しかし、ジュッシュの食料生産能力は日本にとって喉から手が出るほどほしいものであるため、何が何でもこの会談で国交を結ぶまで行きたかった。


「ダリウス殿、怒鳴った所で何の意味もありませんし、むしろ公国にとって損しかありません。」


 ルフトが割って入って来た。

 彼女のみならず、自衛隊の力を目の当たりにしたラブングル戦線に参加した全将兵は皆一様に自衛隊や日本とは敵対すべきではなく、日本からの要求には可能な限り応え友好関係を築くべきであると見方を示している。

 その証拠たる『第3次ラブングル防衛に関する最終報告書』がダリウスに手渡される。

 その内容はルフト達が目で見て、耳で聞いて、肌で感じた全てが詳細に綴られていた。


「60万、およそ4個野戦軍に匹敵する大軍をたった2000人程度の損害で撃退するなど・・・。

 おまけにその内の3個野戦軍を壊滅させるなど、人間のなせる業なのか?」


「自衛隊が悪魔ではないとしても、人間でないと申すのならとっくに公都、もしくはゼーレフォンが廃墟になっているかと思われます。

 しかし彼らはそうしない。しないのは日本が公国を必要としているからではないからでしょうか?」


 公国軍の中でも精鋭中の精鋭である近衛兵団の団長にここまで言われてはダリウスも認めざるをえず、いくつかの疑念は残るものの日本国も自衛隊も、戦争終結に全力を挙げることを約束し、日本とジュッシュは互いを国家として承認し、また日本もアストラン、イリオスなどの亡命政府も認め国内法が認める限りでの支援を確約し、会談は幕を閉じた。

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