少年は大航海へ、旅立たない-4.3-
タクヤが浜辺に辿り着くと、アキシロ カナエは ミニスカートの布を雑巾絞りしている最中だった。
「あんたが早くやって来ないから、私めっちゃ濡れちゃったじゃないのよ。」
「いや、海にわざわざ入ってくるとは思わないからさ......」
「もう......今日は最低な日だわ......」
アキシロ カナエは怒った表情で、布を絞っている。
タクヤはテレビで見るより、顔が小さいんだなぁなんて、くだらないことを思った。
「えーっと、それで船に乗りたいって叫んでたけど......冗談だよね?」
「冗談であんな大声出す訳ないでしょう!こっちは大事な衣装を海水に濡らしてるんだから!」
タクヤの発言は見事に火に油を注ぐことになった。
「それより、あんたはさっきから私が誰かを分かって話をしているわけ?失礼が過ぎるわよ!」
「分かってるよ。アキシロ カナエ...さん、だよね?」
「分かってるんじゃない!」
アキシロ カナエは尚も怒り続けている。
どうやら衣装を濡らしてしまったことを後になって悔やんでいるらしかった。
「カナエさんのことは勿論知ってるよ。ミナミちゃんが大ファンなんだから」
「誰よ!ミナミちゃんって!」
「ミナミちゃんは先日そちらのグループにオーディションを受けに行って、見事落とされてしまった女の子だよ」
「そんなこと言われても知らないわよ!何で落ちた子のことまで知ってないといけないのよ!」
「違うんだ!ミナミちゃんは容姿は完璧なんだ!でも、絶望的に音痴だっただけなんだよ......」
タクヤとマナブは先日HAMABE48に入ろうとしていたミナミちゃんを止めるべく作戦を立てていたが、それは徒労に終わった。
そもそもマナブがオーディションの日時を間違えていた。
その為、タクヤとマナブが仕掛けた"池に落ちた友達を助けてたら、オーディションに遅れちゃったぜ☆"作戦は、ただ池の中で待機していたタクヤが水草に絡まって溺れそうになっただけに終わってしまった。
「と、り、あ、え、ず!そんなことはどうでもいいから、早く船に乗せてってよ!私早くここから逃げ出したいの!」
アキシロ カナエの声色に焦りが見受けられる。
アキシロ カナエは何かから追われているのかもしれない、とタクヤは感じ取った。
その時、バイクの音が遠くの方から聞こえてきた。
少年は大航海へ、旅立たない-4.3- -終-