魔女とのゲーム
「んん……」
気が付けば、大広間に寝そべっていた。
全身に固く冷たい床の感触が感じられた。
一体どれほどの間、気を失っていたのだろう。
腰と肩のあたりがガチガチに固まっている。
軋む身体をなんとか起こした。
辺りを見回す。
他の皆も同じ状況のようで、思い思いに顔を上げたところだった。
入り口で感じた甘い香りは消え失せていた。
「ボク、寝てたの……?」
ユウリが眠そうに目を擦る。
「あぁ、そうみたいだぜェ」
ラルフの目がギラリと光る。
後ろを振り返る。
すると、先ほど入ってきたはずの扉がしっかりと閉まっていて、ギルバートが厳重に確認をしていた。
「開かないな。……強力な魔力で封じられている」
その言葉に皆の顔が一斉に引き締まるのがわかった。
「……向こうは準備万端、ってことか」
サムはそう言うと、腰に据えた自身の剣の位置を確かめていた。
―――その時だった。
「はーい、やっとお目覚めかしら☆」
「!」
その声に、全身に力が入るのが分かる。
何度も聞いたはずのその声―――しかし、違和感があった。
―――そうだ。
「もう……みんなよく眠るんだもの。待ちくたびれちゃったわ」
ペンダントから響いてくる―――あの声。
―――だけど、これは確かに自分の耳に直接届いていた。
「上だ!」
ラルフのその声に視線を上げる。
すると、そこには大広間の中央に浮いている魔女の姿があった。
(どうして……!)
それは見間違えるはずない。
実際に魔女の姿を見るのは、俺がサムを庇って呪いを受けた―――あの時、以来だ。
全身はローブで覆われていて、その存在感は圧倒的なものだった。
顔はやはり美しく、瞳からは今にも吸い込まれそうな力を感じる。
しかし、今このタイミングでわざわざ姿を現すとはどういうつもりなのだろう。
少なくとも、良からぬことを考えているのは―――間違いないだろうな。
―――その瞬間。
魔女の顔を目掛けて、黒い塊―――魔法玉が勢い良く飛んでいった。
「……ぁ!」
ユウリが小さく声を上げる。
その魔法玉は魔女に当たることなく、擦り抜けたように見えた。
そのまま後ろの壁にシュワと音を立てて霧散し、煤のような黒い跡を残した。
「……あら、もう! 乱暴ねえ」
「……汚い真似をせず、直接姿を現したらどうなんだ。魔女さんよ」
そう言葉を発したのはギルバートだった。
いつもの通りの冷静な物言いだったが、少しばかり棘のようなものを感じる。
初めて会った時のような、あの冷酷な感じだ。
「いやよ! アナタみたいな乱暴なことをする人がいるからね」
ギルバートが魔女を睨んでいる。
サム、ユウリ、ラルフも構えたまま視線を魔女から逸らさない。
しかし当の魔女は子どものように口を尖らせ、無邪気に笑った。
おそらく、今の様子からこの姿は幻のようなものなのだろう。
「まぁ怖い顔はやめて☆ ワタシは、アナタたちにチャンスを与えにきたの」
「……チャンス?」
サムの眉がピクリと動く。
今までペンダントを通して話していたことは、もちろん知られてはならない。
気が付けばいつものように返事をしてしまいそうだった。
―――しかし、どうにも悪い予感がしてならなかった。
「ええ、そう。アナタたちが言いたいことは分かるわ。ワタシを倒してその男の呪いを解きたいんでしょ」
「……そこまでわかっているなら何がしたい」
そう言葉を発したサムは今にも飛び掛かりそうな勢いだ。
「ワタシと、アナタたちと、で "ゲーム" をするの」
「"ゲーム" ……?」
ユウリが小さくそう呟く。
「ええ、そうよ☆ ……ワタシはこの城の最上階の4階にいるの」
皆がみんな、何か言いたいのをぐっと堪えて口を結んでいる。
俺は平静を装って、魔女の話を聞くことが精一杯だった。
「そこまで辿り着いた人にはね……そこの男にかけた呪いを解く "方法" を教えてあげる」
「!」
その言葉に、ドキリと心臓を貫かれたようだった。
一気に鼓動が早くなって、一瞬どこに立っていたのかわからなくなる。
自身にかけられた呪い―――触れただけで男を好きにさせてしまう呪い。
そして、その呪いを解く ”方法” を俺は知っている。
『男との真実の愛を手に入れること』
しかしその方法を知られてしまえば、もうまともな愛なんて育めるはずがないのだ。
だから、俺は魔女に振り回されながらも、必死にその ”方法” をみんなに隠してきた。
サム。
ラルフ。
ユウリ。
ギルバート。
慌てて4人の顔を見つめる。
各々魔女の提案に驚きながらも、その顔からは期待のような感情が読み取れた。
―――あぁ、そういうことか。
みんなは、俺を助けたいがためにこのゲームを勝とうとする。
でもこのゲームに勝ったところで、呪いが解けるわけじゃない。
得られるものは、呪いを解く ”方法” なのだ。
この秘密を守るには、俺自身が勝つしかない。
そして、その事実を全て魔女は理解している。
その上でこれを計画し、このゲームの行く末を楽しもうとしている。
―――この ”ゲーム” は、俺を含めた5人でやる、ということか。
「じゃ☆ ルールを説明するわね☆」
いつにも増して楽しそうな魔女の声音が、大広間に響く。




