表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔女の呪いで男を手懐けられるようになってしまった俺  作者: ウミガメ
第3章 闘技場とハーレム
41/75

決戦前夜

3人で帰宅した後、そのままギルバートの家でご飯を食べた。

ギルバートは家には居たものの、一向に部屋から出てくる気配はなかった。

俺も頭の整理がつかないまま、どう顔を合わせてよいのかわからず、途方に暮れていた。


どのみち22時には顔を合わさなければならないんだ。

そうわかっていたため、その前に自室で休息を取ることにした。

その間ラルフが運んでくれた、決勝戦用の伝統衣装を着てみることにした。


「だいぶでかいな……こういうもんか?」


受け取った、伝統衣装のローブを着ると随分袖の部分が余る。

それに長さが長すぎて、歩くと地面をずりずりと少し引きずってしまう。


俊敏さが問われる弓人にとっては、最も適さない衣装と言っても良い。

まぁそもそも魔術師向けの衣装なのだから、しょうがないのだが。


「確かに、見た目だけは立派に見える……か」


俺は部屋にある姿見で自分の姿を確認する。

くるっと一回転しようとしたが、裾を踏んで、あやうく転びそうになった。

もう少し、身長が高ければよかったのにな、と思わずにはいられなかった。


時計を見ると時間は22時よりも少し早い時間だった。

そろそろ、元の服に着替え始めたほうが良いかもしれない。

約束の22時を責めるように、秒針のカチ、カチ、という音が静かな部屋に響いていく。


「どんな顔して会えばいいんだ……?」


決勝戦の相手が発表された時の "ギルバート" の文字を思い出す。


―――なぜ、ギルバートは出場していることを俺だけに黙っていた?

―――なぜ、ギルバートは優勝が確実なのに、俺をこの魔術闘技祭に出場させた?


そう考えるだけで、頭がクラクラとしてきそうだった。


明日この衣装を着て、そして、ギルバートと正面切って闘わなければならない。


だがしかし、明日ギルバートと勝負する意味は―――もうないんじゃないだろうか?

だって、俺が優勝しても、ギルバートが優勝しても景品はギルバートの手に渡るのだ。

ならば俺が棄権してしまえば何の問題もない。


(今日は……来なくていい)


唐突に、昨夜そう言って、俺との約束を断ったギルバートの表情を思い出す。

―――あの瞬間も、ギルバートは何を考えていたのだろう?



もう、わからないことだらけだ。

全ての疑問点をギルバートにぶつける以外に、真実を知る術が思い当たらなかった。



「でも、あいつが教えてくれるわけ……ないよな」



俺がそうため息をついたその瞬間、


トントン


と部屋の扉がノックされた。


―――この時間に、誰だろう。


ユウリか。ラルフか。

少なくとも、22時までにはまだ時間が―――


「……入っていいか?」


その声に一瞬で、自分の心拍数が上がったことがわかった。

顔に熱が集まっていく。


「……ギルバート? ……いいよ」


扉がキィと音を立てて開く。

ギルバートは俺の姿を見ると驚いたような表情をした。


「お、お前……それ」


おそらく今着ていたこの衣装の事を言っているのだろう。


「ああ、これか? 似合わないよな、自分でも思うよ」


しかしギルバートは相変わらずのしかめっ面をしていた。


「……お前、俺に言いたいことが、あるんじゃないか?」

「……あるよ」


たくさん問いかけたいことはある。

さすがにギルバートもそれを察しているのだろう。


こうしてギルバートからやってきたということは、何かしら後ろめたいことでもあるのかもしれない。


「なんで俺を闘技祭に出場させたんだ。ギルバートは毎年優勝してたんだろ?」

「……別に。お前がすぐ負けて、それで笑ってやるつもりだった」


俺はその回答に思わず口元がひきつった。

ひ、ひどい奴だ……!

どうやら悪気のようなものは、ないようだった。

少しばかりギルバートの事情を図ろうと考えていた自分が、なぜか負けたような気がした。


「でも、お前はここまで勝ち進みやがった」


―――ああ、そうだ。

俺は死力を尽くして、ここまで来た。

でもそろそろ、それも疲れてきていたのも事実だった。


「……思うんだが、もう俺が勝ってもギルバートが勝っても、一緒なんじゃないか? 優勝賞品はどちらにしても」

「だめだ!」


ピシャリとギルバートの声がそれを遮った。

冷静沈着なギルバートにしては珍しく、そこに何かしらの感情が覗いていた。


「それじゃ……意味がない」


―――どういう事だ?


俺自身と闘うことに何の意義があるというのだろう。

ふと顔を見上げると、時計が視界に入った。


気づけば22時を過ぎている。


「……ん」


俺は右手をギルバートの前に差し出した。


「もう時間だ」


しかしギルバートは俺の手を睨みつけるだけで、一向に手を取ろうとしない。

その眉間により一層の皴が刻まれているのが見える。


「いらねぇ。……俺は、俺の力で明日お前と闘う」

「……そうか」


明日ギルバートと真剣に闘うことしか、もう道は残されていないようだ。

ギルバートのそのこだわりは不明だったが、頑固になったギルバートはきっと言う事を聞かない。


でも俺は少しばかり意地悪をしたくなった。


―――ギルバートに振り回されてばかりなんだ。

―――俺もギルバートを振り回してやりたい。


「じゃただ握手をしよう。いつもの儀式じゃなくて。……明日お互いの健闘を祈ってさ」

「……やらねぇ」

「じゃ俺は棄権する」


そう切り返すと、ギルバートは「チッ」と舌打ちをして、下唇を噛んだ。


ああ、その表情―――たまらないな。


俺は再び右手を一度ギルバートの前に差し出す。


「いつもみたいに、魔力を注いだりしないさ。手袋も外さなくていい」


ギルバートは俺の顔からは視線を逸らして、俺の右手を握った。


「俺は……お前が嫌いだ」


俺は握られた右手に少しだけ力を込める。

本当に意図して魔力を注ぐことはしない。

ただきゅっとほんの少しだけ、俺の中の悪戯心を込めるだけの手の力。


「嫌いなんだ……」


ギルバートは俺の方を見ようとしない。


「そう。……俺はギルバートの事、結構好きだよ」


主にその顔が、な。

だってギルバートは、全く俺に優しくないからな。


―――まぁ、それは俺も同じか。

今までの自身の行動を振り返っては、反省するのは俺の方かもしれない。

きっと、今の行為だって俺をより一層嫌いになる行為だろうな。


ギルバートはパンッと俺の手を振り払った。


俺はその衝撃に驚いて、ギルバートの顔を見つめた。

ギルバートは息を荒くしていた。

俺は別に魔力を注いだりしていないはずだ―――。


「……これ以上、俺を……惑わせないでくれ」


そう言ったギルバートは、俺の見間違いでなければ、今にも泣きだしそうな表情に見えた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ