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魔女の呪いで男を手懐けられるようになってしまった俺  作者: ウミガメ
第2章 召喚術師と黒魔術師
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獣族の苦悩

「ンン……」


ギルバートが出て行った扉の音が大きかったのか、傍らで寝ていたラルフから声が漏れた。

どうやら目を覚ましたようだった。


「……おい、エル!?起きたか」


ラルフは驚いた表情で俺の顔を見上げた。

よほど焦っていたみたいだ。


「ああ、少し前に起きてギルバートと話をしたよ。ラルフが運んでくれたんだろう?ありがとう」


その言葉に、ラルフは申し訳なさそうな顔をした。


「……すまなかった。ここ数日でオレがこの街で嫌われてるってことは、十分にわかってたんだが……。まさかこうなるだなんて。……オレはオメェになんて」

「おい!」


嫌な予感のした俺は、ラルフの言葉を遮るように叫んだ。


「謝るんだったら止めてくれよな。……俺は、ラルフが生きててくれて嬉しいんだよ」


そう言って、椅子から立ち上がろうとしたラルフの腕を引っ張って、思いっきりハグをした。

体勢的には俺はベッドに寝たままなので、俺の胸にラルフの頭が当たるような感じだった。

ラルフは突然のことにビックリしたのか、胸の中で暴れ始める。

俺は意地でも離すまいと力を籠め、しばらく攻防が繰り広げられたのち、ラルフは大人しくなった。


しばらくそのままの体勢でいた。

思ったよりもラルフが大人しくて、満足してきた俺は、抱きしめた手の力を緩めた。


「……ごめん、嫌だったよな。嬉しくて、つい、さ」


と俺は抱きしめた腕を戻すと、ラルフの肩を少し押して身体を離そうとした。

すると突然、強い力で反対にその手を払いのけられた。


「……ま、マテ。オ……オレ……。今、オメェに見せられる顔じゃねェ」


俺はラルフのその声音に驚いて、口を開けてしまった。

―――なんだよ、そんな声で。

ラルフの耳がヒクヒクと揺れている。

胸の中にいるラルフが愛しくてしょうがなくなった。


「……オ、オレな。あの時オメェを抱えて運んでいる間に、オメェが死んだらって思ったら……アタマが真っ白になった。腕の中にいるオメェがどんどん冷たくなっていく気がして。だから、今オメェが生きてンんだなって、感じて……」


少し首を後ろに下げて、ラルフの方向を見るとその肩が震えているように見えた。

腕の中にいるラルフが、俺の体温を感じたがっているように、もそもそと動く。

まるでそれが、甘えたがる赤ん坊のようだと思った。


「……まさか、泣いてるのか?」


するとラルフは勢いよく立ち上がった。


顔を見せまいとサッと後ろを向いて、自身の目元を勢い良く擦り始める。

まさかと思って声をかけたのだが、どうやら図星だったようだ。


「ホッとした、だけだからな。……オ、オレどうしちまったんだろうな。……オメェに触れる度に、その、ビックリするぜ。……変に感情を刺激されるみてェだ」


ラルフは後ろを向いたままこちらを見ずにそう言った。

もっとヘコませてやりたくなるのは、俺の性格が悪すぎるだろうか。


しばらくの沈黙が流れた。


沈黙が耐え切れなくなったのか、ラルフはこちらを振り返る。

今までの自身の行動がどうやら恥ずかしくなったのか、目が泳いでいる。


「な、なァ……傷を、見せてくれるか?」


俺は服をめくって、脇腹のケガの跡を見せる。

ラルフは、くっつくんじゃないか、というくらいに顔を近づける。

ラルフの吐息が俺の脇腹に当たる。


「見た目はちょっと、あれかもしれないけど、もう痛みはないよ。さっきも言ったけど俺がやりたくてやったんだ、気にすんなよ」


ラルフは俺が謝るのを拒否しているためか、困ったように指で自身の頬を掻き始めた。


「解毒薬だけじゃなくて、傷の治療もアイツがやってくれたぜ、あとでまた礼を言わねェとな……」

「ギルバートが、か?そうだったのか」


俺はギルバートが言ったことを思い返した。

あの時狙われていたのはラルフで、その事情の何らかをラルフは知っている。


「……そろそろ話してくれるか? どうしてラルフが狙われたのか」


その言葉に、やはり思い当たる節があったのか、ラルフは途端に真剣な顔になった。


「……オレも詳しくまでは知らなかったがなァ、アイツが教えてくれた」


そう言ってラルフはその事情を教えてくれた。

その内容はまとめるとこうだった。


5年前コルリの街で、"獣族" と "魔術師" との間で大規模な抗争が起きた。

暴力的で野蛮な獣族と、それを嫌う魔術師との間は、前から仲の悪い種族同士ではあったらしい。


抗争の結果は "魔術師側" が勝利したが、その抗争で親や子どもを獣族に殺された人も大勢いたそうだ。

ラルフのような獣族に、恨みを持っている魔術師はあの街で少なくないらしい。

そういった事情からあの街には獣族はほとんど住んでいないようだ。


どうりで、ラルフはコルリの街に来ることを渋ったのだろう。

それに気さくなラルフの調子がおかしかったことも頷ける。


でも、それは獣族としての問題だ。

"ラルフ自身" が狙われていたわけじゃないことが分かって俺は安心した。


「……ラルフには何の罪もないじゃないか。ラルフは確かに獣族で、見た目もみんなと違うかもしれない。でも強くて逞しくて優しい奴だ、って。俺にとっては、ただそれだけだよ」


喜ぶかと思いきや、ラルフはちょっと下を向いて、寂しそうな表情をした。


「でもなァ。……実際、自分でもわかってるんだぜ。オレは頭で考えるより、口に出すより、先に拳が出ちまう。……オレには半分、獣族の血が流れてる。どこまでいっても、オレは"獣"で、そして"獣扱い"だ」


「確かにそうかもしれないな」


その言葉に、諦めのようなものに似た、ラルフの作り笑いを見た。

俺は目の前に今一瞬でできた壁をぶち壊したくて、こう続けた。


「……でも俺にとってはな! その辺の人間のも、ラルフのも、何も変わらない! ……精々、耳やしっぽがちょっと可愛いな……って、その程度だよ」


そう言うと、ラルフは一瞬何を言われているのかわからなかったのか、少しの間が空いた。

その後で「ガハッハッハ」と大声で笑いだした。

久々のラルフらしい豪快な声に、俺はすっかり安心した。


「……オメェ。ホントに変な奴だなァ」


ラルフは真剣な顔に戻ると、その場に跪いた。

俺はその顔に思わずドキッとしてしまった。


「今からオレの命はオメェのもんだ。……これはオレなりの落とし前だと思ってくれ」

「……え?」


ラルフにふざけている様子は全くなかった。

拒否する事は簡単だったが、余りの真剣なその様子に、俺は一度その言葉を受け入れることにした。


「……わかった。それでラルフが納得するなら」


そう言うとラルフは満足げな様子だった。

本当は、そんな命より、身より、―――心が。

というか、"愛" が欲しいんだけどな。


でも笑顔になったラルフに、今はこれでいいか、と俺は思った。


「そうと決まれば、これからどうするかァ? サムの野郎ともはぐれちまったしな」


ラルフは困ったように首の後ろを掻く。

サムの一言に少しだけズキリと心が痛む俺だったが、今はそれどころではない。


「……そうだな。サムには直ぐにでも会いたいけど、コルリの街はここから自力で行けば1ヵ月らしい。今すぐに戻るのは厳しいと思う。……出発するにしても準備がいるし、ギルバートにもう一度、話をしようと思う」


「アイツが、話をまともに聞いてくれるとは思えねェけどな」


俺が眠っている間、ラルフとギルバートの間でどのような会話が繰り広げられていたのかはわからない。

だがラルフのその言葉には俺も同意した。


ギルバートはおそらく自分の損になりそうなことは一切やらないのだ、と感じた。

しかし、この力があれば―――


「俺に考えがあるんだ、任せてくれ」


「……? そうか、なら一旦オメェに任せるぜ。アイツの部屋は廊下の一番奥の突き当りだぜ」


俺は部屋を出て行こうとしたところで、ラルフに「……おい」と声をかけられた。

しかし言い出しにくいことなのか、ラルフはなかなか話そうとしない。


「どうしたんだよ」

「……な、なァ、オレの耳やしっぽって、オメェから見たら、か、かわいいのか?」


さっき俺が言ったことを気にしているのだとわかって、思わずニヤリと笑ってしまった。


「あぁ、もちろんかわいいよ。正直撫でまわしたい」


そして俺はラルフの顔の方をめがけて、ぐしゃぐしゃと撫でて耳をひっぱる仕草を見せた。

するとラルフはまるで本当に撫でられているかのように、ビクリと身体を震わせて俺から視線を逸らした。


「か、からかうんじゃねェよ……」


そういうラルフはいつも通りふざけて笑うのではなく、純粋に照れ臭いようだった。

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