青髪の女の子
―――俺は途方に暮れていた。
街には見た目だけならサムに匹敵する爽やかな美男、ラルフほどの屈強な身体を持つ短髪で髭面の男、クールで神経質そうなミステリアスイケメン……
ここは天国か……
正直、好みの男がたくさんいた。
しかし、触れなければ俺の能力は何の意味もないのだ。
―――へい、そこのお兄さん!一発俺と……どうよ?
などと冗談でも言えるわけがない。
というか、普通に話しかけるのすら困難だった。
そもそも根底にある俺の人見知りな性格を恨む。
おそらくサムとラルフはうまいこと聞き込みをしているに違いない。
「困ったな……」
それにしても良い男もさることながら、街にはローブを着た人々が目立った。
だいたい3,4人に1人がいわゆる魔術師のような恰好をしている。
「やっぱり魔術に精通した文化を持つ街だからかな」
どちらかと言うと、俺のような弓矢を持っている人やサムのような剣士の恰好をしているほうが珍しい。
ラルフのような獣族に当たる人は一人も見当たらない。
そんなことを考えていると、通りの向こうが何やら騒々しいことに気づいた。
「どいてどいて……!」
向こうから人混みをかき分けて、少女がこちらに向かって一目散に駆けてきた。
少女は足元ばかりを見ているようで、俺がすぐ正面にいることに気づいていない様子だ。
「あっ……」
少女は真正面から俺にぶつかり、共に後ろに倒れた。
少女は俺に乗っかり、俺は少女に押し倒されたような形になって、全身が密着している。
少女は何とか起き上がろうとすると、今の自分の状態に気づいたのか、顔を真っ赤にした。
そして慌てて俺の身体から離れると、俺のすぐ隣の地面に座り込んだ。
「ご、ごめんなさい……ゆるして……」
上目遣いにこちらを恐る恐る伺うその目は潤んでいた。
艶のあるきれいな青髪は肩のあたりで切り揃えられている。
着用している真っ白なワンピースが、少女により一層清楚な印象を与えていた。
―――美少女すぎる。
正直、俺が普通の男なら間違いなく間違いを起こしているレベルの可愛さだった。
しかし特にこれといって何の感情も沸かなかった俺は、極めて紳士的に振舞った。
良かったな、少女よ、俺が男の中の男で。
「随分勢い良かったが大丈夫か?……ほら」
そう言って、俺はうずくまっている少女の前に右手を差し出した。
女の子相手であれば俺の能力は基本的に関係ないのだ。
少女はしばらく俺の顔を覗き込んだまま、停止している。
「……え?……どうして?……あ、ありがとう、ございます」
なぜか少女は不思議そうな顔をして、俺の右手を取り、立ち上がった。
少女は、比較的小さい身長の俺よりも更に頭一つ分以上小さく、俺の胸の位置くらいまでしかない。
―――ちょうど頭が撫でやすい位置だ。
ラルフから見た俺くらいのものだろうか。
「そんなに慌てて走ったりしたら危ないだろ? 気をつけろよ。じゃあな」
そう言って俺は立ち去ろうとした。
すると突然後ろにぐっと引っ張られる。
どうやら少女は俺の服の後ろの裾を引っ張ったようだ。
「待ってくださ……い。お願いです。……どうか、手伝ってくれませんか」
少女は俺の服の裾を放そうとしない。
―――困ったな。面倒な子に引っかかってしまった。
いくらこの子が可愛くても、正直女の子に興味がないんだよな。
「そう言われても……俺も今はちょっと忙しくて……」
「……お願いします」
しかし少女は服の裾をつかんだまま、頭を下げ続けている。
周りの人たちがその一部始終を眺めて、この現状を見守っている。
ここまで必死なお願いを無下にできるほど、俺は非情になれない。
余りにも懸命な少女の態度に、折れることにした。
「……わかったよ」
そう言うと、少女は顔を上げ、パッと明るくさせると興奮したように口をパクパクさせている。
「君の名前は何て言うのかな。俺はエル。エルネストっていうんだけど長いからエルでいい」
「……ユウリです。エルさん……エルさん。ありがとうございます。ありがとうございます」
すると少女は確かめるように俺の名前を何度か口にすると、丁寧に何度もお辞儀をした。
「それで、ユウリは何に困ってるんだ?その様子じゃ相当焦っているみたいだったけど」
「……実は、ルイがいなくなっちゃって」
「ルイっていうのは、そのペットか何かか?」
「ペットじゃない、ルイは家族だもん」
俺がペットと言うと、少女は頬を膨らませてプンプンと怒り出した。
これはペットですね。
可愛いことに変わりはないが、俺にはそれは通じないのだ。すまん。
「そ、そうか……。わかったよ。じゃ特徴を教えてくれ」
「ルイはね、とびっきり可愛いの。それで火を吹いたりするよ」
少女は嬉しそうに笑う。
いやいや、火を吹いて可愛いペットってなんだ。
というか、この子、ちょっとだけ意思疎通が噛み合わない所がある気がする。
「そうか、可愛い……ね。色とか大きさはどうなんだ?」
「んー……。子猫くらいの大きさで、体は緑色かな」
子猫の大きさ、緑色で、火を吹く……。
全くルイが何なのかますますわからない。
俺はひとまずこの不思議な少女と、その謎のペット探しをする羽目になった。




