野営地
俺らが村を出た3日後の晩のことである。
今は森の中の広場で寝床を決め、テントや火の確保などの準備を整えていた。
野営の道具や食料などの荷物は、代わる代わる運んだものの、基本的な一番力持ちであるラルフが大部分を持ってくれていた。
サムはテントを張り、ラルフは火おこし、俺はその火で料理をした。
ラルフが運んだ食料と道中で手に入れた獣肉があるため、食料には未だ問題ない。
すっかり3人の役割分担が決まり、無言のチームワークが生まれていた。
「この調子なら明日には、コルリに着けそうだな」
ラルフがそう言うて、丸太に座る俺とサムは同時に頷いた。
街までの道のりに険しい所はなく、道中のモンスターも手ごわくなかった。
装備を整えたばかりであることもあり、大きく疲弊はしていなかった。
3人で火を囲んで、俺の作った獣肉のスープを食べている。
今日のスープは上出来だ。
「エルが料理が上手くて本当助かるぜ。オメェは色々と器用だな」
「そういってもらえると嬉しいよ。というかラルフこれじゃ絶対足りないだろ。ラルフのために沢山作ったから食べてくれよな」
そう言って俺はラルフにスープをもう一杯渡す。
するとラルフはありがとよ、と言ってまたあっという間に平らげてしまった。
我ながら良い嫁である、誰かもらってくれ。
そんなやり取りを黙って見ていたサムが、夜空を見上げて懐かしそうな顔を浮かべた。
「こうして焚火を囲んでるとさ、なんかキャンプファイヤーみたいでさ、子どもの頃を思い出すよな、エル」
「ああ、そうだな。サムの家族と一緒に、夏になるとよく近くの森でキャンプをしたな。川で魚を捕まえて遊んで、キノコを採ったり。遠くまで行ってサムの親父さんに叱られたりもしたな。その度に俺が無理やり誘ったんだ、ってサムは庇ってくれてたよな。……あの時は思いもしなかったな。今みたいに……あ、」
テントで隣同士寝るサムに欲情しなかった……と言いかけて俺はつぐむ。
―――危うく俺の人生が、文字通り終わる所だった。
俺はもうあの頃の子どもの純粋さを失って、立派なオトナになってしまった、だめな意味で。
3日間を共に過ごしてきて、サムに「触れない」という行為を実施することは意外に難しかった。
隣同士でサムと寝ているというのに、指一本触れないようにするのがいかに大変か。
というか物理的に大変すぎて、おちおち寝返りを打つこともできなかったのだが。
「今みたいに……?」
俺が変な顔ばかりしていたためか、サムが不思議そうに俺を見て、再度尋ねる。
「……いや、なんでもないんだ」
そう言うと、サムは残念そうな顔をした。
そして、サムはまた夜空を見上げる。
「俺もたぶん同じ事を考えてたよ。今みたいに、こんなことになると思わなかった」
俺は言っていることの意味がわからなくて、少し考えてしまった。
どうやらサムは、俺がサムに気を遣って言い淀んだと思ったようだ。
また俺に対しての罪悪感を覗かせてしまった。
「……俺、今日は先に寝るよ。エルごちそうさま。また明日な」
そう言ってサムはテントに帰ってしまった。
違うんだ。その実、お前に対して変なことを考えていた。サムすまん。
とは言えない俺なのであった。
なんだかここ数日サムの様子がおかしい。
いつも明るいサムは、根暗な俺のフォローをしてくれていた。
なのに今はその立場が逆転してしまっている。
明るくなった俺と、負い目を感じてなのか、妙に暗くなってしまったサム。
「まァ、放っときゃ直るだろ。アイツも思う所があるんだよ、この旅に」
ラルフはそう言うと、さして気にも留めていないように3杯目のスープを自分で掬い、食べ始めた。
しかし落ち込むサムを見ているのは、やはり面白くない。
どうにか俺に対しての負い目を払拭できないだろうか。
サムは多分、俺よりもずっと真面目なんだろうな。
本当に優しい奴で、それに昔から一切嘘をつけない奴だったし。
―――どうやったらサムは俺と真実の愛を育んでくれるんだ。
頭が痛くなってきた。
簡単な話は、サムに触れることだと思う。
サムに触れながら、何も悪くない。忘れてくれ。
そういえば多分、魔女の呪いでサムは服従してくれるだろう。
でもそれはやはり何かが違う気がする。
考えても良いアイデアが何も浮かばず、気持ちが少し苛立った。
終始ご機嫌で豪快にスープを平らげ、満足そうなラルフを見て俺は恨めしくなった。
あー、ラルフに変なイタズラでもしてやりたくてたまらない。




