チート能力を持たない異世界転生者
「ちくしょう......また負けた」
俺は無様にもダンジョンである神の塔を後にした。
ちくしょう、一階も突破できなかった。
おっと、自己紹介がまだだったな。俺の名前は石塚海渡。十六歳である。
最近、日本からこの異世界に転生してきた冒険者である。
俺は日本にいた時、高くもなく低くもない無難な高校生だった。
ある日の学校の帰り道、大好きなゲームを買いに行くためにダッシュで店に向かったところ、道端に落ちてあったバナナの皮に足を滑らせ、ゴロゴロと転び、そして河に落ちて溺れじんだ。
我ながら見事なまでの死に様だったと思う。
気がついたら俺は異世界にいた。
異世界の人とは普通に会話することができ、行きて行くために俺は冒険者になるべくギルドハウスへと向かい冒険者になるために必要な登録をした。
無一文なしの状態だったが、特に手数料も必要がなくあっさりと冒険者になれた。
しかし、それからが問題だった。
ダンジョンに挑んでも勝てないのである。
俺が住んでる街、アランディアには先ほど俺が挑んだダンジョン、神の塔というダンジョンがある。
この街の観光名所としても人気であり、最上階まで登り切るとどんな願いも叶うと言われている。
凄腕の冒険者は上階層までは辿り着くものの最上階までは辿り着けないでいる。
かつて、ただ一人登りきった冒険者がいると噂されているが、今や大抵の冒険者は適当なところで神の塔を攻略するのを諦める。
一方で下の階は弱いモンスターばかりで初心者冒険者の修行場として知られている。原理は不明だが神の塔にいるモンスターは倒してもしばらく時間が経つとゲームのように再び蘇る。
「きゃー! アキト様よー!」
「アキト様ー! こっち向いてー!」
女性の黄色い声援がところどころから聞いていた。
すらっと背の高い、銀色の鎧をきた顔立ちの整っている冒険者が手を振って商店街を歩いていた。
アキトという冒険者は俺と同様、日本からやってきた冒険者で転生者に恥じぬチート能力の持ち主で神の塔を挑んでからわずか一週間で上層階までたどり着いた。
この街の人たちから神の塔の攻略候補として期待されている。
一方の俺は何もチート能力を持たない。
なぜだろう。どの転生者も強力な魔法などが使えるのに。
どうして俺は。
そんな劣等感を抱きつつ、俺はギルドハウスへ向かった。中ではお昼だというのに、「がっはっは!」と陽気にお酒を楽しんでいる冒険者がたくさんいた。
受付のお姉さんのところへ向かった。
「ダンジョンお疲れ様でした。カイトさん。いかがでしたか?」
上目遣いで受付担当のパラスが訊いた。彼女は猫族で猫耳でとてもメイドの服のような格好をしている。
「今日も一階で断念しました」
ため息混じりにギルドカードを渡した。
「失礼します」
ギルドカードを魔道具である四角い石の上に置くと、ギルドカードが光った。
「えーと、討伐モンスターは三体、経験値は五百七十アップで......あっと、レベルが二から三に向上しましたよ!」
ギルドカードは冒険者に渡されるマジックアイテムで自分が倒したモンスター、自分の能力、レベルを確認することができる。
「そうですか、レベル三ね......」
参考までに、アキトのレベルは五十三である。
「頑張ってください! カイトさんなら必ず神の塔を攻略できますよ!」
励ますようにパラスがそう言ってきた。おそらく、他の冒険者にも同じことを言っているのだろう。
「ありがとうございます。それじゃ......」
俺はギルドハウスを後にしようとした。
その時、
「あの、待ってください!」
とパラスに引き止められた。
「はい?」
「よかったらこれをどうぞ?」
布の袋を渡された。
「中におにぎりが入っているので良かったら食べてください」
突然の差し入れに少々、驚いたが普通に嬉しかった。
「ああ、ありがとう」
その日の夜、俺は再びダンジョンに挑んだ。
「くらえ! オラ! オラ!」
三回ほど剣を振り下ろし、スライムを倒した。最初の頃は七回当てなきゃ倒せなかったので少しは成長したと言える。
回復薬を効率よく使い、一階を順調に進んだ。そして、二階に繋がる階段までたどり着いた。
階段の横にランプが灯っている。あそこを登れば......
そう思った時、ドシンと上から赤い色の大きなスライムが現れた。
こいつはボスモンスターである。階段の前には門番のようにその階で一番強いモンスターが現れる。
一度倒すと一定時間出現しないのだが、インターバルが終わったようだ。
「くそ、逃げるか......」
一瞬そう考えたが、ここまで来たのだから戦ってみたくなった。こいつを倒して二階まで行ってみたい。
「オラァ!」
ツキで攻撃しに行った。しかし、剣はボヨンと弾かれ、後ろに吹っ飛ばされた。
「いてて......」
飛ばされ、転んだせいでお尻をうった。
すると、赤い髪で濃淡色のドレスを来た少女が俺の横を横切った。
「ごめん。お兄さんちょっと、失礼」
年齢は確実に俺より低い。おそらくは三つ下くらいか。
すると、スライムが少女に向かって突進していった。
「危ない!」
俺が叫ぶと、
「デコピーン!」
と宣言通りスライムに向かってデコピンをした。スライムはどしんと壁まで飛ばされ、消滅した。
「す、すごい! あの、お名前は?」
感動のおまり、少女の名前を尋ねた。
「ふぇ? うちの名前はルネアだよ」
「俺を弟子にしてください!」
間髪入れず、俺はルネアという少女にお願いした。ルネアは枝毛をいじりながら困ったような顔をした後、
「え? うーん、まいいよ。条件として、一緒にパーティ組んでくれる?」
「はい! ぜひぜひ!」
俺とルネアは一緒にパーティを組むことになった。