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信じられるモノは救われる  作者: 城雲
はじめまして
4/4

2-2

「…さい、起き…さい」


「ん……」


繰り返しの時間でまた目が覚めたカプリチーネは視界に飛び込んできた鮮やかな青色に目を奪われた。その青は目の前にいる誰かの髪であり瞳であり衣服だった。言葉を失ったのか、久々に声を出そうとしてそれが出来なかったのか、カプリチーネは口を金魚のようにパクつかせたまま固まった。

自分でない誰かが目の前にいる、この黒い世界で綺麗な青が灯りに照らされている、そしてその誰かは自分を起こそうと肩を掴んでいる、視覚や触覚で一つ一つ確認しているとその誰かはホッとした顔で話し出した。


「あぁ良かった。このままずっと眠ったままかと思いました」


こんな状況だからか、とてもよく通る声だなと思った。そんなことを思ってたカプリチーネの目からは自然と涙がボロボロと溢れてきていた。それを見て慌てた誰かはもたつきながら服の袖で涙を拭った。

「わ、どうしたんですか。どこか具合でも…」

あんなに泣いてもう出ないと思ってた涙がどんどん溢れてくる。初めて会った誰かだというのはもう関係なく、グズグズと顔が崩れたカプリチーネは堰を切ったように泣き出した。気付いたときには何一つまとまってもいない言葉でこの時までどれだけ心細かったかを全て話してしまっていた。


暫くして、2人はあの小さな灯りの前で隣合う形で座った。

「落ち着きましたか?」

困ったように眉を下げた誰かは真っ赤な目のカプリチーネにそう聞いた。うんうんと頷いたカプリチーネを見てその誰はふにゃりと笑った。何か言おうとしたカプリチーネはハッとして言った。


「あ、あの。ボクの名前はカプリチーネ。キミの名前を聞いても良い?」

そうだ、名前。まだ名乗りもしてなければ目の前にいる誰かの名前も知らないのだ。たった2人の空間だとしても名前だけは知っておきたい。誰かはフッ、と目を伏せてしまった。


「な、名前…すいません、それが…」

思い出せないんです、と零すように続けた。思い返せばカプリチーネがここに来た経緯を話していたとき、目の前の誰かはどこか他人事のようだった。その時はただ自分を落ち着かせてくれると思っていたけれど、そうかあの黒いのに食べられてしまったときにショックで記憶が飛んでしまったのかもしれない。


「そんな、どうかな?何か思い出せない?」

「えっと…」


先ほどまで自分を見てくれていたしっかりとした態度とは打って変わってしどろもどろになってしまった誰かは言葉を続けなかった、名前が無いことに焦って痺れを切らしたカプリチーネはまくし立てるように言った。

「えぇい!じゃあボクが今だけ名前を付けても良い?」

「えっ」

「良いよね!本当に、今だけで良いから!えっと、青、青色…さ、サフィア!」

「さ、さふぃあ…?」


誰かの目をジッと見たかと思えばすぐにそう言った。殆ど何も考えていないのは明白だった。


「ダ、メかな…キミは目も髪も綺麗な青色だから、たしかそういう名前の宝石なんだ」

前から名付けのセンスが無いんだってよく言われてたよ、と気まずさを隠すようにえへへと笑いながら誤魔化した。思い出すまでで良いから、と何回も念を押して

「もしキミが消えちゃったら、ボクはまたひとりぼっちになっちゃうから。だからつい」

と頬をかいた。サフィアと名付けられた誰かは目をぱちくりとさせていたが、すぐに先ほどまでの表情に戻りくすりと笑った。


「いいえ、ありがとう御座います。そうですね、私にその時が来るまでサフィアと、そう呼んでください」


嫌がっていなさそうなサフィアの態度に安心したカプリチーネはふと周りを見渡した。そこは相変わらずの黒だ。サフィアが来たからと言って世界に青がバッと足されるわけではない。

そんなカプリチーネの心中を察してか、サフィアは1つ尋ねた。


「カプリチーネ、この灯りは貴方が作ったんですか?」


「うん!そうだよ! 失敗も多くって、やっとで出来たのがこれだけ」

実技は得意だと思ったんだけど光学とか熱学はまだまだだったみたい、と自分の力不足にバツの悪さを感じたカプリチーネは灯りを手元に引き寄せて弄んだ。ふんふんと聞いていたサフィアはひょいと灯りを取り上げて上から横から回して見てみた。


「灯りがもっとあるか、これを持って歩いて周りたいなと思ってたんですけど…こう持ったままだと眩しいですし、手がふさがってしまいますよね」

「歩く?ココには歩いたって」


何もないよ、と続けようとして口をつぐんだ。来たばかりのサフィアにもうここに希望は無いと残念な思いをさせてはいけない気がしたからだ。それに、ひとりぼっちで余裕がなくて、自分じゃ思いつくまでに至らなかった何かが今なら出来るかもしれない。えっと、灯りをもっと効率良く運ぶ方法があれば何かが見つけられるかもしれない、それなら。


「ちょっと貸して」

カプリチーネは灯りを置いて考えながら手を添えた。すると灯りからニョキニョキと枝のようなものが生え、少し歪ながらまっすぐ手ごろな長さになったあたりで止まった。呆然と見ていたサフィアを振り返って満足げにポンと手渡した。

「はい、どうかな。持つところがあれば少しは違うでしょ」


「あっ、そうですね!ありがとうございます、私全然気が付かなくて」

もしかしたらサフィアは元々少し抜けている所があった子なのかもしれない。気持ちはしっかりしているけれど、そういう部分はボクが助けてあげるんだ。そう徐々に自身を取り戻したカプリチーネは「さぁ、行こう」とサフィアの背中を押した。さっきまでは何も無いと諦めていた黒の中に、今なら何か見つけられるかもしれないと思えた。いや、何でも良いから何か見つけ出したいと思えた。


柄の先でふらふらと揺れている灯りを頼りに気持ち新たに2人は歩き出した。

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