2-1
「…………」
目に入る情報は黒、黒、黒。真っ暗を極めると自分の存在もわからなくなるのかとカプリチーネは思う。目を瞑っている感覚はある、目を開けた感覚もある、そのはずなのに黒という情報が変わらない。意識するまで身体はこの黒と一体化してそうな気さえした。手を動かしても手が見えない。顔に持っていって、初めて手があるとわかる安心感があった。他の部分を触ると、どうやら自分は溶けていないらしいと確認できた。
「……あ」
声を出してみると自分の声は聞こえた、耳も溶けていない。なら他に誰かいるのか確かめたい。見えないだけで誰かいるのかもしれない。誰でもいいから誰かいてほしい、返事が欲しい。なんとなくこの際、自分の反響音でも構わないとさえ思った。
「…だ、誰か…誰かいませんか」
少し待った。返事はない。もう数回繰り返したが結果は変わらない。
「…ダメ、か」
こうも真っ黒だと気が滅入ってくる。その時、それなら明るくするような物を作ってみれば良いんだと試してみることにした。
「あれ、あれ…光ってどうやって作れば良いんだっけ」
こんな事なら高熱学をもっと勉強しておけば良かったと後悔しつつ、どうにかこうにか恵みを練って上下左右どこでも照らせる小さな丸い灯りを作り出した。明るくなった周囲を見渡すと失敗作のカケラがボロボロになって舞っていた。
もしかしたら視力が無くなったのかもしれないとも思っていたがそんなことはなくホッとした。自分の身体はあの黒いのに出会う前となんら変わりはなさそうだった。
「はぁ、色があるって良い…光って良いなぁ……うぅ…」
明かりをもってして見渡しても自分以外は黒しかない。カケラを掴んで投げる。音はしない。だんだん今後の自分をどうするかを考えるよりも、誰か他にあの黒いのに飲み込まれた人がいれば良いのにと思ってしまった。よくない考えだとわかっていても孤独感と喪失感が拭えない。
やることもやるべきこともわからないカプリチーネはただ目を瞑ったり眠ったりしながら過ごした。少し歩いてみた事もあったが変化がないので諦めた。どれくらい経ったかわからなった頃、涙が止まらなくなった。
「こんなところにいるボクも、母神様は見守ってくれているかな…今ある恵みを使い切ったら、ボクはやっぱり消えちゃうんだろうな…」
今の形があってもいずれ消えてしまうなら結果は一緒だ。自分の中の恵みの残りがわからないだけに、いつまでこんな状況かわからない。それならいっそ意識を失ったまま消してくれれば良かったのに、やりたいことはもっとあったしもっと誰かと楽しく生きたかった。
誰かいれば違ったかもしれない。決まって母神様や直前に会ったリッカ、マカロン、キャンディのことを思い出してしまう。泣き疲れたからかいよいよ精神的な疲れか、カプリチーネは何十回目かの眠りについた。