表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
信じられるモノは救われる  作者: 城雲
さよなら、世界
1/4

1-1

---えー本年度を無事迎えることが出来ましたのは、皆様の活動と、母なる神様の恩恵でありまして---


始業式。ボク達学生に向けられた長々とした挨拶が、そっくりそのままスピーカーから街に響いている。本来校舎の中で聞いているはずのそれを何故ボクは今街中で聞いているのかというと、なんてことはなくて単純に式典に遅刻しているからだ。


「はーっ、これじゃあ式には間に合わないかなぁ」


間に合わないなら仕方ない、空から会場に向かうのはやめて歩いて真っ直ぐ校舎の方に行こう。そうすれば授業が始まる前に入り込める。学生はいーっぱい居るからね、ボク1人がいなくたって案外バレないもんさ。式典なんてそんな無駄なことに力を使ったら母神様に申し訳ないしね。


「式が無駄なんじゃなくて遅刻という行為そのものが無駄なんだけどな」


とっても聞き覚えがある声が頭の上から聞こえたと思ったら同級生のリッカだった。リッカは他に数人、小さな子供達を連れて降りてきた。


「おぉ、リッカ!会って早々、真っ先に文句言うあたり今日も性格がぐるんぐるんしてるねぇ」

「曲がってるって言いたいのか、お前も大概面倒くさいな」

「ふふん、そんなことより遅刻しているのはお互い様じゃないか。あとその子達は」


リッカの後ろに隠れるようにいる子供達は、ボクを観察するように無表情でジッと見つめてくる。見た感じ生まれてすぐかな。ちょっと手を振ってみても見てくるだけで返してくれない、少し寂しいぞ。


「俺は先生からの頼まれごとをしていたんだ。この子らはその時拾った。のんびり歩いてたお前とは違う」

「ふんふん、直接の頼まれごととは優等生は違うねぇ。さすが将来の管理官サマ」

「うるさい」

「んでー?拾い物とはまた雑な紹介だね。こんにちはー、ボクはカプリチーネ。キミたちもう名前は?」


子供達は揃ってふるふると首を振った。ようやく反応してもらえた、ちょっと嬉しい。でも名前がないのは色々困る。この世界では名前を付けてもらうということが大事な意味を持つ、名付けてもらえなかった子はそのまま時間とともに消えてしまうらしい。実際に消えていく子を見たことがないボクにはピンとは来ないけれど。


「じゃあ早いとこ名前付けちゃおう!キミはマカロン、キミはキャンディ、えーとキミは」

「おいバカ、何勝手に名付けてんだよ」

「だって早く名付けないと消えちゃうんでしょ」


まったく口煩いんだから、と、もう1人の名前を付ける前に2人の子供達の表情がさっきと打って変わってパァっと明るくなった。

「マカロン」「キャンディ」

2人は自分の名前を繰り返したりお互いの名前を呼んだりしてる、うんうん、楽しそうだ。


「はぁ。せっかく俺が先生の所に連れて行って名付けてもらおうと思ったのに、ていうか何だそのセンス」

「誰に付けてもらっても良いじゃない、連れて行く間に消えちゃうよりマシでしょ。ボクなんて名付けてくれたのあの角のカフェの店長さんだし。あと1人も付けてあげないと可哀想だから考えなきゃね」

「いい、もういい止めろ。あとは先生に付けてもらう」

「頑固だねぇ、ふん、権威ある先生はさぞ素敵な名前を付けてくれるんだろうね」


先生はこの世界のエネルギーを母神様に定期的に還元できるよう動かしたり整えてたりしている管理官の1人だ。ボクらは大抵生まれてすぐ見つけてもらった人に名付けられたり育てられたりする。リッカは先生が名付け人で育て人だから何でもかんでも先生先生。来年も成績優秀で卒業したら管理官になれるんだって。まぁボクには関係ないからその辺の事情とか何してるかはあまり深くは知らない。


突如、ピーガー、とノイズが響いてボクらはスピーカーに意識を向けた。

---雑音が入りまして失礼しました。えー以上をもちまして、始業式を終了とします---


あれ、もうそんなに!?ダメダメダメ終わっちゃダメ!!喋ってて全然足進んでないんだから。


「結局空から行かないと間に合わないじゃーん!」

「せいぜいマシな成績になれるよう頑張れよ」

「うるさーい!」


母なる神様に申し訳なさを感じつつエネルギーを変えて自分の背中に翼を作る。ボクらは生まれた時に母神様から一定のエネルギーの恵みをいただく。ただ生きているだけでも減るこの恵みは、本来ならもっと役に立つ使い方が出来るはずなのに。遅刻しないために使うだなんて、うぅ、それはさすがに勿体ない。


去り際に振り返って子供達には手を振ったけどリッカには精一杯のイーッて顔をしてやった。前年度の優等生はそれだけで優遇されるしちょっと遅刻したって欠席したって取り返せるんだ。おまけに管理官直々の依頼をこなせば内申点獲得間違いなし。はぁなんて理不尽。

そういえば管理官から頼まれた事っていったいなんだったんだろう。



---ニュースの時間です。最近各地で未知の生き物の目撃情報が相次いで報告されています。

未知の生き物はアナと命名され、アナに襲われた人たちの行方は未だに不明。

とくに夜道の外出は控えるよう環境官から発表がありました---

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ