15話:インスタール
今回はリオン視点です。
※9/21用語修正
さっきまでレオナ姉ちゃんと一緒にいたはずなのに、気が付くと僕は1人で知らない場所にいた。
いや、1人じゃない。
ディセリーヌちゃんが同じ部屋にいる。なんだか氷の粒が周りに浮かんでいてキレイだ。
あ、あとあのローブを着た仮面の人も。なんで大事そうに椅子を持ってるのかな?
あと部屋の中には知らない女の子が1人いた。
アレは誰だろう?分からないので、いつも僕と一緒にいる声--ググレーンに聞いてみた。
『序列11位の魔将ノベリアだ。どうやらディセリーヌの所業に腹を立てて、演習という名目で粛清に来たようだ』
粛清ってよく分からないけど、ケンカみたいなことかな?
僕はケンカを見るのは嫌だな。
『ケンカになる要因はない。このままだとディセリーヌがノベリアに一方的に敗北するだけだ』
そうか。
ディセリーヌちゃんは負けるのか。可哀そうだね。
『ディセリーヌが負けると、この場にいるお前も共に殺される可能性が高い』
…殺されるって、死ぬことだよね?
死ぬのは仕方ないね。僕もいつか死ぬから、早いか遅いかの違いだけだ。でも僕がいま死んだら、レオナ姉ちゃんが悲しむな、きっと。
そして僕を見失ったことをずっと、一生後悔して自分をずーっと責めてしまうかもしれない。
僕なんかのために申し訳ないなあ…。
ググレーン。
僕はもう一度、レオナ姉ちゃんに会いたい。どうすればいい?
『…この場でノベリアを退け、ディセリーヌの退路を断つことになる。そのための最適解は演算済みだ』
うん。じゃあ、教えて。
『恐怖心抑制…興奮抑制…感情抑制完了。幻術耐性インスタール。これでノベリアの幻術への耐性は得た。ディセリーヌを勝利させる。まずは解放に向かえ』
ちょっと頭がぼんやりしてる感じがするな。
でも僕はいつもレオナ姉ちゃんに「ぼんやりしてる!」って怒られるから、普段通りなのかもしれない。
僕が歩き出すと、急に身体に鎖が巻き付いてきた。
なんだろう?と思って触ろうとすると鎖はすぐに消えてしまう。まあいいか。
『リオン。鎖は幻術だから気にするな。だがディセリーヌを閉じ込めている魔法の雹は本物だ。幻と実体を絶妙に混在させる所にノベリアの恐ろしさがある』
うん、気を付けるよ。
また鎖か。動くとすぐ消えちゃうのが残念だなあ。もっと触ってみたいな。
あ、仮面の人だ。
重たそうに椅子を抱きかかえてる。何しているのかな?
『ラフラカーンはノベリアの幻術で、あの椅子をディセリーヌだと信じ込まされている。精神汚染被害もあるな。幻術のコーレとなっているあの椅子を引き離せば、正気に戻るぞ』
わかった。ちょうど座りたかったから、あの椅子を借りることにするね。
ディセリーヌちゃんは浮いてる氷の粒に囲まれている。氷はキラキラ光ってキレイだな。
ちょっと眺めていたいな。
でも魔将同士で戦ってるのに、大人しいね。
もっとでっかい魔法をバンバン使って、みんなメチャクチャになるのかと思った。
『魔将同士の私闘は魔王によって禁じられている。唯一「演習」だけは許可されているが、ロンゴーロッドの開門術を始めとして500クロ以上の攻撃魔法は禁じられている』
そうなんだ。約束があるんだね。
あれ、ディセリーヌちゃんが顔を背けて目をつぶってる。なんでだろう?
「ねえ、それ楽しい?」
僕が椅子に座って声をかけると、ディセリーヌちゃんはビックリした顔をしている。
「…いや、楽しくないぞ。何しろここから出られんのだ。下手に触ると身体が凍ってしまうのでな。リオン、お前も触らないよう気をつけろ」
「うん、知ってる」
さて、ディセリーヌちゃんをどうやって助けてあげればいいのかな?ググレーン教えて。
『ディセリーヌの真名からアクサムして、魔法量をブースタする方法を検索する』
むずかしい言葉が多くてよくわからない。
真名ってなに?
『魔族が持つ真の名前だ。真名はその魔族のすべてを知り、操作できる管理者パスワーダのようなものだ。他者に知られると悪用されるので注意しろ。…アクサム成功。過去履歴よりケイウォルド抽出を完了。仮想人格「魔王ダムリアード」のタンポラリ・インスタール』
やっぱり何言ってるのかわからない。ググレーンに任せるよ。
そして僕は…我はディセリーヌに向かって囁いた。
我を満足させてくれた、あの夜。ディセリーナを褒めたたえた時と同じ言葉を。
『ティナ。愛しきわがティナ。お前には自由奔放こそ、相応しい』
相変わらず愛いやつだ。
我の言葉にショックを受け、震えあがるディセリーナを見て改めてそう思う。
ジャヌリアの「恭順」も、フェブリーナの「渇望」にもそそられる。
だがディセリーヌの「純真」は格別だ。
我を拒めず、己を手放せず、そして自由でありたいと願うがゆえに自ら袋小路に入る。
その心の震えの、何と純なことか。
そして我の読み通り、すでに受け入れた刻印の記憶が亜共振を起こし、純真なディセリーヌの魔力を自動回復させる。ノベリアには悪いが、ここはディセリーヌの肩を持たせてもらおう。
ある意味、ノベリアにはご褒美だしな…って、我…僕は何でこんな事してるんだっけ?
『リサース不足。オーベルヘッダによりスラッピング不調。…リサース枯渇。あと52セカドで仮想人格オーベルフロー。アンインスタール開始』
気が付くと、ディセリーヌちゃんが壁際で震えている。
え、僕…我は…僕が何か怖がらせることしたっけ?
ね、ねえググレーン!こんな時どうすればいいの?
『仮想人格のスラッダ完全停止まで138セカド。リオン、この場を切り抜けたいなら何も考えず、[これでまたひとつ、2人の秘密が増えたな]と呼びかけること推奨』
うん、分かった。よく分からないけど、喋ればいいんだね。
「愛しきわがティナ。お前が考えている通りだ。これでまたひとつ、2人の秘密が増えたな」
あれ、なんだかいつもの僕とは違う声が出た気がするな。
喋ってる言葉も変だし。
これまずいんじゃないかなあ?ディセリーヌちゃんが今にも泣きそうにウルウルしてる。
ねえ、ググレーン。これで本当に良かったの?
僕まだ頭がボンヤリしてるけど、それでもちょっとまずい気がするなあ…。
『仮想人格スラッダの完全停止を確認。アンインスタール完了。リオン、問題は特にない。状況はコンテローラ下にある。感情抑制、恐怖心抑制を解除』
まだ歯をカチカチと鳴らしながら、今にも涙がこぼれ落ちそうな目でディセリーヌが僕を見つめている。なんだか僕が悪者みたいだ。
「…ひ、秘密?」
ディセリーヌちゃんがすがるような目で僕を見ている。
秘密って、何のことだろう?さっきからぼんやりした頭でググレーンの言う通りにしていたので、秘密って何のことが分からない。
…こ、ここは適当に誤魔化さないと!
「うん、僕とディセリーヌだけの秘密」
ああ、よかった。
僕が適当にそう答えたら、ディセリーヌちゃんはコクコクと首を縦に振って納得してくれたみたいだ。
作戦大成功!
レオナ姉ちゃんもそうだけど、女の子との会話は中身や意味よりも、聞いてる・共感しているよ、って態度を示すのが大事らしいからね。
ディセリーヌちゃんも立ち上がるとすぐに元気になった。
じゃあ僕もレオナ姉ちゃんのところに帰ることにしよう。でもどうやって?
僕が考え込んでいると、いきなりディセリーヌちゃんに抱きかかえられた。
しかもいきなり耳たぶを片方噛まれてるし!
ええええ?そんなことされたの初めてだから、僕はパニックだ。
離れようとしてもがいても、ピクリとも動かない。すごい力…。
しかも何だか変なこと言われた気がしたし。
ねえ、ググレーン。
なんだか困ったことになってない?どこかで間違えたんじゃないかな?
『--否。ディセリーヌ勝利の要件は満たした。その評価は不当であると抗議』
その後は、何を言ってもググレーンは取り合ってくれない。
でも絶対に困ったことになっている…と僕は思う。
頑張って書いておりますが、なかなかブクマなどが頂けず苦戦しております。
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※2017/11/3誤字修正
コーランロッド→ロンゴーロッド
コーラン~はマズイよねえ。