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10話:お尻さわったらお仕置きだよね?

ボクはできるだけ優しい顔をして、リオンに向かい合った。うん、優しい顔はできてるはずだ。でもボクの顔を見たリオンがものすごく怖そうな顔をして後ずさる。どうして?ボクはこんなにも優しいのに。


「…リオン。あなた、あのコのお尻を触ったの?」


「えっと、二人で逃げるためにどうしたらいいか声…ググレーンに相談して、それで…」


「女の子のお尻を勝手に触ったの、触ってないの、どっちなの?」


「…えっと、そのはい、…触りました」


「リオン、こっちにいらっしゃい」


自分でもぞっとするような冷たい声がボクから出た。でも止められない。

リオンが今にも泣きだしそうな顔をしてプルプルと顔を横に振る。


一歩前に出ようとすると、ディセリーヌが背後からボクの肩を掴んで止める。


「おい、今はオレがこの男と話をしているんだぞ」


ボクは振り向いてディセリーヌの顔を見た。ディセリーヌがなぜかビックリした顔をしている。そういえばこのコは魔族だっけ。でももうそんなことはどうでもいい。

ボクが自分の中からグツグツ湧き上がる何かを抑えるのに必死なんだ。


「…おだまり」


「ひぃぃぃ!」


ボクが怒りを抑えながらやっと声を絞り出すと、ディセリーヌは変な声を出した。そしてさっきのボクみたいに床にへたり込み、そのまま器用に床をはいずりラフラカーンのローブの後ろまで下がっていった。まるで虫ケラのように。

もう魔族にも壁の染みにも興味がない。ボクの邪魔をしないなら、それでいい。


ボクはリオンに向き直り、ゆっくりと分かりやすく優しい声で言った。

「…リオン、勝手に女の子のお尻を触るのは悪いことよね?」


リオンは膝をガクガクさせつつ、涙をボロボロこぼしながら首を縦に振っている。


「ごご、ごめんなさい。もうじまぜん」


「…悪いことをした子には、お仕置きが必要よね?」


ボクはリオンが持っていた蜂蜜焼きのボウルを取り上げると、逃げようをするリオンをガシッと捕まえ、ベッドの端に座り込むと同時にリオンを膝の上に載せた。


「ぃゃぃゃぃゃぃゃぃゃぃゃぃゃぃゃ!」


暴れるリオンを左手1本で抑えつけ、ボクはゆっくりと右手を振り上げる。


◇◇◇ ◇◇◇


パァーン!パァーン!


ディセリーヌはラフラカーンのローブの影から少しだけ顔を出して、信じられないものを見ていた。


茶色い魔核をくれた人族の幼い男が、仲間の女に尻を打たれて泣き喚いている。


パァーン!という音が響くたびに、ディセリーヌにも恐怖の感情がビンビンに伝わってくる。


「あわわわわ…」


思わずディセリーヌは両手で耳をふさいだが、幼い男が打たれる度に聞こえないはずの音--幻音が頭の中で響き渡り、さらに恐怖が強まる。


まるで自分が尻を打たれて激痛を感じているかのような気がする。実際に左の尻が妙にうずく。耳をふさぐ手を離して慌てて尻を両手で押さえると、今度は恐るべき打撃音が耳から頭の中に響き渡り、さらに恐怖を倍増させる。


「あわわわわ!」


ディセリーヌは泣きそうになりながら、尻と耳を交互に押さえて音の恐怖に耐えようとした。


その暴虐は永遠に続くかと思われたが、ふとディセリーヌは音が止んでいることに気づいた。恐る恐る女の膝にもたれかかっている幼い男に目を移す。


『オレすら恐怖におののいた凄まじい連続打撃だ。気の毒だが、人族の男はとっくに死んでるだろう。なのに執拗に攻撃を続けるとは…殺し過ぎにもほどがある。死体の損壊もすさまじかろう』


ディセリーヌはそう思ったが、意外にも幼い男は生きているようだ。

しくしくしく…と聞いているだけで気分が滅入ってくるような声で静かに泣いている。


「ラフラカーン、あの人族の男…リオンと言ったか。なぜか死んでいないな。大した防御力を持っているようだ!」


「そのようです。しかし最初の打撃でステイタスが大きく削られ、その後の連続攻撃で今や魔力・気力はほぼゼロになりました。恐るべき攻撃です」


ラフラカーンは「鑑定」のスキルを持っている。魔法医レイターンの「鑑識」スキルほどではないが、対象のステイタスが大まかにわかる。

本人の同意があればより詳しく鑑定できるのだが、体力や魔力などのステイタス程度であれば同意なしでもそれなりの精度で鑑定することができる。

その「鑑定」スキルが、リオンのステイタスが危機的状況にあると告げていた。


「な、なんだと魔力が…ほぼゼロ?」


ディセリーヌは自分に置き換えてブルブルと身体を震わせた。

この300年ほどディセリーヌ魔力の餓えに苦しんできた。それでも最悪に魔力が減った時でさえ、10ф弱は残っていた。だから魔力がほぼゼロになるような状態を考えただけでも身がすくんでしまう。


「ディセリーヌ様。何があってもあの女の攻撃を受けてはなりません」


「わ、わかった。魔力をゼロにするとは、なんと恐ろしい攻撃なのだ…」


そもそも人間のリオンと魔族のディセリーヌでは、持っている魔力量が数千万倍も違う。いくらレオナの「怒りのお仕置き」を受けてもリオンと同じように魔力がゼロになることはありえないのだが、ラフラカーンは人族の魔力量を知らず、ディセリーヌは恐怖のあまりそこまで頭が回らず、素直に警告を受け入れた。


◇◇◇ ◇◇◇


ついカッとなって、リオンのお尻を5回もぶってしまった。


だって知らない女の子のお尻を勝手に触ったっていうから。


リオンも男の子だから、いつかはそういうのに興味を持つだろうなーと思ってたけど、今でなくていい。こういうのは最初にちゃんとシメておくのが肝心だ、と近所のおばさんも言ってたしね。


それにしても。


ボクはリオンと一緒に寝てるし、時々水浴びも一緒にしているのに、お尻を触られたことがない。あのコと比べて、ボクのお尻はなにか欠点があるのだろうか?


小さいとか、固そうで触りたくないとか??

あの魔族のコの小さく薄いお尻より、ふっくらしてて触り心地はいいと思うのだけど?


そんな風に考えだしたら、またムカムカしてきた。


けどリオンも反省しているようだし、今日はもう許してあげることにしよう。だってボクは優しいお姉ちゃんだから。


「ご、ごめんなざい、もうじまぜん…」


号泣しているリオンをベッドの端に座らせて、ボクはリオンをギュッと抱いてやった。


「約束だよ。あの魔族の女のコのお尻は、もう触っちゃダメだよ?」


「う”んーー」


リオンは嗚咽しながらもちゃんと返事をして、ボクをギュッと抱き返してくれる。

ボクはリオンの髪を優しく撫でてあげながら、まるで蜂蜜焼きを食べた時みたいに自分の気持ちが落ち着いてくるのを感じていた。


あれ?よく考えたら「女の子のお尻を勝手に触ってはいけません」と言うべきだったのかな?

リオンには意味が通じたみたいだからまあいいか。


リオンの嗚咽はまだ続いている。そんなに怖くて痛かったんだ。

可哀そうなリオン。ぎゅー!もう全部許してあげたからね!!


ふと見ると、びっくりした顔のディセリーヌとローブ姿の仮面男がこっちを見ている。

ボクはちょっとイラっとした。抱いてるリオンがボクの腕の中で小さくビクッとする。


「…出て行って?」


「あ、ハイ」


魔族の女の子…名前は何だっけ?それとローブ姿の仮面男が後ずさりしながらコソコソとボクたちの部屋から出ていく。扉の開け閉めも静かに。

ボクはそれを背中で見送って、またリオンをぎゅーっと抱いてあげた。


もうリオンの嗚咽は止まっている。

抱いて目を閉じると、リオンの身体の温かさと髪の香りに包まれる。

あとで水浴びをさせてあげよう。

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