廊下には天井嘗め
焦げている部屋を超えると、長い廊下が続く。一直線だが、その終わりは見えないのでかなり距離があるのだろう。一階がこんなに長いってどんだけ豪邸?
いつの間にか私より前を歩いていたアーサーさんが、いきなり立ち止まる。
すぐ後ろにピッタリくっついて歩いていたので、アーサーさんの背中に鼻先をしたたかに打ってしまった。
文句を言うために口を開こうとしたら、声を出す前にアーサーさんの大きな手が私の口を塞いだ。
「っ…⁉︎」
「…ゆっくり上を見ろ。音を立てるなよ」
小声で言うアーサーさんを不思議に思いながら上を見上げると、不気味な妖怪らしきものが天井に張り付いていた。
ちょっと待ってあれ天井嘗めてる。
天井側を向いているため、まだこちらには気づいていないらしいが、気づくのも時間の問題だ。
心当たりがある妖怪だったので、小声でアーサーさんに報告する。
「あれ、天井嘗めって妖怪です。名前の通りの妖怪で、特に害はないと思うんですが…」
綺麗にせずにシミをつけるって言う迷惑な妖怪だったはず。室町時代には確か天井嘗めを捕まえて高い天井の蜘蛛の巣を嘗めさせた人がいるっていう逸話があった気がする。
「本当に害はないんだな?」
「…はい。むしろ気づかないうちにそっと通り過ぎた方がいいかと。無駄に争うのもどうかと思いますし」
というわけで、足音を立てずにそっとその場を立ち去る事にした。
幸いにも天井嘗めはこちらに気づく事がなく、廊下の突き当たりまで来ることができた。
さっさと通り過ぎてしまった私達は、
「ァ………ミ……レイ………」
と廊下にポツリと落とされた声など知る由もなかったのだ。
今度は扉を開けると階段があり、二階に続いていた。
「出口を探しているのに上に上がって良いんですかね…」
「他に方法がないんだから上がるしかないだろ。行くぞミレイ」
こういう潔さは良いんだけどなぁ…いかんせん無鉄砲だから…
はぁ、とため息を一つ吐いてアーサーさんの後を追う。