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始まりはろくろ首

「ひっ……」

パクパクと口を動かす。悲鳴をあげようにも喉に声が張り付いて上手く音にならない。

腰が抜けて立つどころか後ずさりすらも出来ない。

目の前にはかの有名なろくろ首。

今まで自分の部屋に居たはずなのに、なんでこんな場所にいるんだろう。

本で見た時は全く怖くなくて笑いながら見てたのに、いざ目の前にすると半端じゃなく怖い。

ゆっくりと首を伸ばしニタニタと薄ら笑いを浮かべながら私の首に巻きつく。

首がギュウギュウと締め付けられ、圧迫感に息が出来ず生理的な涙が浮かぶ。非力な私がいくら暴れたところで離れるわけもなく、意識が朦朧としてきた。ヤバい、死ぬ…‼︎


ーーお父さん、お母さん、先立つ不孝をお許しください


全てを諦め、死ぬ覚悟を決めた時。



彼は現れた。


此方に駆け寄り、ろくろ首の顔面を思いっきり殴り飛ばしたのだ。

私の体からろくろ首が離れる。圧迫感がなくなり、ゲホゲホと咳き込みながら彼の方を見た。


すると、ろくろ首は彼に狙いを変え突進して行く。私の時とは比べ物にならないほどのスピードだ。


反射的にギュッと目を瞑るが、聞こえてきたのは彼でなくろくろ首の悲鳴だった。


ゴトリ、と嫌な音がしておそるおそる足元を見る。

目に入ったのはろくろ首。襲われる、と思い逃げようとするが、よくよく見るとあったのは頭部のみだった。首からはジワジワと血が出てきて、鉄の匂いが鼻につく。


「、うっ……」


初めて見る生首に、血の匂いに、思わず吐き気を催す。


なんとか吐くのを我慢し、なるべく見ないようにと下を向いていたら、目の前に何かの気配を感じた。

反射的に顔を上げる。

すると、目の前にはろくろ首のものであろう返り血を浴びた彼がいた。


「……っ、え、っと、その…」


なんて言うべきなのだろうか。助けてもらってありがとうございます?こちらに敵意がないとも限らない、殺さないでください?いやいや一応助けてもらったのだ、それは失礼すぎる。と言うか目の前の彼の見た目は明らかに日本人のそれではない。言葉が通じるかも怪しい。


色んなことを考えていたら、痺れを切らしたのか恐怖で声が出ないと思われたのか相手が口を開く。


「…大丈夫か?見たところ武道とは縁遠い少女。しかも丸腰…何か訳ありなのか?」

「あ、日本の言葉通じる」


思わずそう呟くと怪訝な顔をされたので多分第一印象はそんなに良くないんだろうな。


「…頭を強く打ってなければいいが。まぁいい、とりあえず事情を説明しろ。それとお前が今言ったニホンとはなんだ、地名か?」


最初の一言は割と心にくるのでやめてほしい。

というか、


「え、日本知りませんか…?」


聞いたこともないと言わんばかりに首を縦に振られる。おかしいな、日本って割と有名なはずだけど。


と、そこである一つの可能性を思いつく。

これはよくネット小説で見る異世界転移というものではないのだろうか?

異世界にしてはろくろ首とか思いっきり日本の妖怪だし、さっきまでは目の前の出来事に夢中で周りを見て居なかったがよく見ると古ぼけた日本家屋に近い。

目の前の彼は金髪碧眼、鎧と剣を身に纏い顔立ちも整っているという異世界モノではよくいる格好だが。

うーん、ミスマッチ。


「…えっとですね、私はさっきまで自室に居たんです。でも、急にここに居て、ろくろ首に会って。」


側からみれば怪しいこと極まりない説明だろうが、しょうがない、事実なのだから。


「ロクロクビというのはさっきの首長の化け物の名前か?」

「え、ご存じなかったんですか?」

「ああ、あんなものは初めて見たな。いきなりお前がここにいたのもあいつのせいか?」


…なんというべきか。異世界転移だなんて話したっていきなりは信じてやくれないだろうし。ろくろ首のせいかと言われても異世界転移の原因とか知らないし。


「えっと、信じてくれないかもしれませんが、これから私の言うことはおそらく真実です。聞いてもらえますか?」


話くらいは聞いてやる、と言われたので、私はすべて話した。自分が元いた世界のこと、この世界との相違点、ろくろ首を含めた妖怪のこと。おそらくこれは異世界転移であり、原因と戻る方法はわからないと言うこと。


「……この屋敷の造りやロクロクビ自体初めて見るものだからな。お前が言っていることが本当であってもなんら不思議じゃない。」


聞くと、森の中にこの建物があり、水でも飲ませてもらえないかと立ち寄ったら入口の扉が開かなくなってとりあえず進んで来たとのこと。

でもよかった、とりあえずは納得してくれたようだ。剣で切られなくて本当に良かった。


「それで?お前はどうするんだ?」


どうする、とは?

キョトンとしていると、彼は呆れたように口を開く。


「馬鹿かお前は。帰る方法がわからないんならこの屋敷を探索するなり外に出て街に行くなりするだろうが。しかしさっきのロクロクビのようなのがいないとも限らん。」


あ…そっか、そうだよね。私としては街に行きたいんだけど。あと入口が封鎖されてるんなら別の出口を探さなきゃいけないし。敵が出たら勝てないし…。


「俺はこのまま屋敷を進んで出口を探すが…」

そこまで言ったところで、彼は何か思いついたと言わんばかりに目を輝かせた。


「そうだ、お前さっきロクロクビに詳しかったよな?他の化け物についても詳しいのか?」


え、いやまあ多少は妖怪に詳しいとは思うが。ちっちゃい頃妖怪図鑑見てたし。


「まあ、それなりに…」

「よし、俺と一緒に来い。お前はその方が安全だろう?その代わりまたああいうのが出たら弱点とか特性を俺に言えよ。」


決まったらさっさと行くぞ、と私の腕を引き歩き出す。私の意見はスルーですかこの野郎。


まあ安全なのには変わらないからいいけどさ…


「何をブツブツ言ってるんだ、シャンとしろ、女‼︎」

「ちょっと女って…‼︎私の名前は美玲です‼︎」

「ミレイ?変わった名前だな、俺はアーサーだ。」


そんなことよりもっと速く歩け、と言われるがあなたとはリーチが違うんですよね知ってます?


ーー拝啓、お父さんお母さん。私は命の恩人であるゴーイングマイウェイなこの男アーサーと暫く一緒にいるようです。

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