次期大公、次兄から呼び出される
最近被害が相次いでいるという、無断転載についてのエッセイを読んで、勝手にビビッて、被害に遭う前に無断転載対策をしてみることにしました。
本作品「『彼女』が死んだ、その後で」におきましては、部分的に本文と後書きを入れ替えると言う無断転載対策を実施しております。
ややこしいことをしてすみませんが、自分の作品が無断転載される想像をすると、イラッときたので、自主的に対策をとってみました。
読者の方々には、大変ご迷惑をおかけいたしますが、ご理解の程よろしくお願いします。
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対策については、MITT様のエッセイを勝手に参考にさせていただきました。
シャルロッティが、お義姉様と共に、次兄からの呼び出しの手紙を受け取ったのは、彼が奇形わんこ集団を連れてきてから、一週間も経たぬ日の事であった。
申し訳ないが、出来る限り急いで王城に来ていただきたい、としか書かれていなかった文に、シャルロッティは、お義姉様と二人で首を捻ってしまった。
***
「……ラザロス殿下、お加減は宜しいのでしょうか?」
何故か顔中引っ搔き傷だらけの次兄に、お義姉様は気遣わし気に問いかけた。
お義姉様は何時でも優しくて素敵だが、お義姉様に無駄に心配を掛ける脳筋にはイラッとくる。
「ヨアナ殿、傷に関して問題は無いのだ。
私は、この程度で軍務に支障をきたす様な鍛え方はしていない」
「ラザロス殿下、もう少し、ご自愛なさいませ。
……傷があっても、問題にならないことと、傷が痛むことは、別でしょうに」
おいコラ脳筋。
お義姉様に悲し気な顔をさせるとは、一体何様だ。
シャルロッティの眼光に、次兄は、ばつの悪そうな顔で頭を掻いた。
一応、顔の傷に関して、当人も不本意であるらしい。
「……この傷の件について、シャルロッティとヨアナ殿に、相談があって、来てもらったのだ」
次兄が口を開いた時だ。
遠くの方で、世にも哀れなワンコの鳴き声が響いた。
長椅子に座る次兄の背後で、伏せていたスカーの耳が動き、またか、という様に顔を上げ、紫の瞳を細める。
「……シルキー……」
ワンコの鳴き声の識別ができているようで、次兄が、遠い目で嘆息混じりに、ふわもこワンコの名を呟いた。
次兄とスカーの様子では、先程聞こえたシルキーの悲鳴は、王城での日常の一部になりかけているようだ。
「シルキーが、どうかしたのですか?」
名前を付けた縁で、親しみを感じるのか、お義姉様が心配そうに首を傾げる。
「……シルキーは、魔性の女だったのだ……」
「シルキーは、犬ですよね?」
いきなり意味不明な発言をかました次兄に、シャルロッティはツッコミを入れる。
先程の悲鳴では、シルキーは弄ぶ側ではなく、被害者側に感じるのだが。
「シルキーの毛は、触り心地が良すぎるのだ」
「?
それがどうしたのですか?」
確かに、シルキーの被毛は、それはそれは触り心地が良く、そこらのモフモフなど、足元にも及ばない。
次兄は、沈痛な表情で目頭を押さえる。
「その毛で老若男女問わず魅了してしまってな……、誰も彼も、シルキーをモフリたがって、大変なのだ……」
「ゼノン兄上みたいですね」
冗談のつもりで言った、シャルロッティの台詞に、次兄は重々しく頷いた。
「うむ、シルキーは、兄上以上の傾国かもしれない。
師匠が、シルキーにつれなくされたからと、私への八つ当たりに、夜襲をかけてきたのだ」
「元帥閣下に何をされているのですか、兄上」
国一番の戦闘狂と名高い元帥は、余りモフモフと戯れるイメージが無かったので、そんな理由で暴れるのは意外だ。
夜襲の方は、ある意味彼の通常運行と言えるが。
不意に、次兄が片手で顔を覆って、項垂れたので、シャルロッティはぎょっとする。
周囲への影響が大きいので、次兄は、落ち込んだりしても、あまり表に出さないようにしているというのに。
「……それにな、兄上が、シルキーを構いたがるから、義姉上が嫉妬しているのだ……」
「……」
夫婦の危機の原因が、ワンコとか。
頭を抱える次兄に、シャルロッティは何も言えなかった。
長兄は長兄で面倒臭いが、義姉は義姉で、愛が重たいのである。
――恋敵を、容赦なく排除する方向に。
脳筋と同じく、夫婦仲に関して、シャルロッティには打つ手がない。
だって、まだ、子供なんだもの。
……それに、犬も食わないらしい、夫婦喧嘩にわざわざ介入しても、きっと面倒なだけだろう。
珍しく、問題を遠くへぶん投げたシャルロッティの耳に、切羽詰まったワンコの鳴き声が届く。
――かなり、近い距離だ。
「ぬっ?!」
次兄が顔を上げたのと、彼等がいた客間の扉が吹き飛ぶのは、同時。
「いったぁっ?!」
丁度、扉と応接セットの直線状にいた、侍従姿のアレスが、見事に弾き飛ばされた。
「シルキーっ!!
人を付き飛ばしたり、物を壊したりするなと、言ったではないかっ!!!」
怒鳴る次兄に向かって、白い影は、華麗に跳躍する。
「ぐぬっ」
次兄も、座っていた長椅子が邪魔で、避けるに避けられなかったらしい。
ふわもこワンコに、頭の上に着地され、次兄が呻き声を上げた。
「シルキー、重いのだ」
すぐに次兄はワンコを押しのけようとするが、シルキーは見捨てないでという感じで悲痛に鳴きながら、メルヘンな見た目にそぐわぬ、太く鋭い爪を飼い主に突きたてる。
次兄は困り果てた顔だったが、シルキーは溺れた最中に見つけた藁だと言わんばかりに、己の主に引っ付こうとしていた。
そして、あっという間に、次兄に痛々しい傷が量産されていく。
……次兄の顔面の引っ搔き傷の原因は、お前だったのか、シルキー。




