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クロウカード、結局頼る

短いですけど、筆が進まないので出しちゃいます。

次は一万文字ぐらいあるはず。多分。

 それにしても、とクロウカードは思う。穢土ノ冥帝(アイドーネウス)はかなり危険な能力だ。襲ってきたドラゴンがこの世界においてどの様な扱いかは分からないが、あの鱗を貫通する攻撃が人の肌を通らないはずはないだろう。つまりクロウカードは今、一瞬で少なくとも数百の人間を虐殺できる力を持っていることになる。

 この能力を与えたトイレの神様はなんと言っていただろうか。「神々の都合で」「戦いに明け暮れることになるだろう」「能力の威力は神の格によって決まる」。つまり他にも神からのギフトを受け取った者がいることになり、しかもそれらと戦う可能性が高い。そして穢土ノ冥帝という大きな力を与えたのがトイレの神様という事実。トイレの神様の格が高いとは思えないから、必然的に他の能力は穢土ノ冥帝を上回ることになる。


「・・・どうしたもんかな」


 こうなったら努力で能力を鍛えることになりそうだが、どうやって使いこなせば良いか皆目見当もつかなかった。何しろ穢土ノ冥帝は完全に自立した存在であるし、明らかにクロウカード自身より強いのである。鍛えるもクソもない。


『それ、着いたぞ』


 その声に眼下を見下ろすと、鬱蒼とした森が広がっていて人の見る影もない。人が過ごせる場所ではないと容易に理解出来るが、それを望んだのはクロウカード自身であるし、穢土ノ冥帝(アイドーネウス)もいる。彼の使う未知の魔法が、クロウカードの心に余裕を持たせていた。


 樹々の間を探しながらクロウカードが浮かせてもらっていると、穢土ノ冥帝(アイドーネウス)が突然叫んだ。


『あ!ヤバいヤバい!!ヤバい!』

「おい!俺も大概だがお前ブレブレだぞ!」

『煩い!それより聞け!儂はお主の能力、つまり貴様の神権が消費されれーー』


 ボンッ!!と煙と共に穢土ノ冥帝(アイドーネウス)が消える。それにクロウカードは目を丸くして、自分に戻ってきた懐かしい感覚に悲鳴をあげる。

 おかえり、重力。


「うぉおあ!!!」


 枝をバキバキ折りながら、クロウカードはそこそこの高さを一気に降下した。自然落下の末地面に背中から落ちたが、幸い木に勢いを殺されて痛いで済む。


「ぐおぉ・・・何だってんだ一体」


 クロウカードは背中をさすりながら立ち上がり、背後から消えた穢土ノ冥帝(アイドーネウス)に心の中で毒づく。そして少しの不安を覚えながら、親友の名を呼んだ。


「『穢土ノ冥帝』」


 その声は虚しく響いて消える。やはりな、とクロウカードはため息をついた。


「どうしたもんかな・・・」


 頼みの綱は無くなってしまったようだった。



 神から与えられる固有能力には制限がある。能力毎にやれることが限られるのは勿論だが、全てに共通するのは神権の不足による能力の強制終了だ。

 神権。それは魔法における魔力、生命活動における栄養のようなものだ。身体に蓄えられた神権を消費して能力は発現するため、長時間能力を運用し続けたり、神権を大きく消費する使い方をした場合、神権は枯渇し能力は発現しなくなる。神権は緩やかに自然回復するが、2日ほど経たなければ全快しない。まあ、もう一つ回復する方法はあるが、それは全員に共通するものではない。


 クロウカードはそれを知らないが、漠然とそう理解していた。どうやら魔法印を出したことが原因だと思われた。

 クロウカードはコートについた土を手で払って、根城に出来る場所を探すことにした。森で何をやれば良いのか全く分からなかったが、取り敢えず衣住食を目指すことにしたのである。


 と言っても、そう上手くことが運ぶわけもなく。


「キチチ」


 クロウカードの2倍はある、巨大なリスが現れた。


「これは・・・なんというか・・・どうした」


 グオゥ!!!!


 視界がブレる。一瞬の衝撃を認識する前に、クロウカードはその背を大木にぶつけ、3本ほどへし折りながら吹っ飛んだ。

 勢いが削がれ、地面に転がったクロウカードは血を吹き出す。


「ッグホァ!!ガハッ、ハァ・・・ハァ・・・どうした、もんかなぁ・・・」


 朦朧とする意識の中、クロウカードは必死に立ち上がろうともがいた。だが大ダメージを負った身体は思うように動かず、結果巨大なリスの接近を許した。


「キチチチ」


 よく見ればリスの口は虫のように複雑な形をしていて、硬質な歯のような部位を器用に動かして鳴いていた。クロウカードに対して笑っているようだ、と思ったのはクロウカードで、実際はそこに感情なんてものはない。それは自然を生きる魔獣であった。

 リスはその強靭な脚を高く振り上げる。その予備動作はクロウカードの頭蓋を砕くべく、十分な距離をとっている。

 それはクロウカードにとって好機である。リスは自分の一撃に自信を持っていて、先ほどの一発でクロウカードが瀕死になっていると判断しているのだ。


「冗談じゃねぇ!!」


 クロウカードは弾かれたように身体を捻り、リスのかかと落としを避ける。クロウカードの頭があった場所は土や石が抉られ、周囲に低い衝撃音を響かせる。節々が痛む身体に鞭打って体制を立て直したクロウカードは、改めてリスに対峙した。


「リス風情が・・・笑ってやがる」


 キチチと口を鳴らしてみせるリスに、クロウカードも口元を歪ませる。血だらけで満身創痍の彼に余裕はなかったが、笑顔でなくなれば心も折れる気がしてならなかったのだ。だからクロウカードは笑う。不敵に、瞳を爛々と輝かせて。


『そうだ、嗤え。クロウが嗤う限り、クロウの負けは無い』


 頭に響く声。このタイミングを見計らったんじゃないだろうな、とクロウカードは心臓に宿る気配に毒づいた。


「仕組みはきっちり説明しろよ」

『ククッ、後でな。ほれ、強がらずにさっさとやるべきことをしろ』


 クロウカードは目の前で口を鳴らすリスを見る。不審な動きを見せるクロウカードにリスはしばらく観察を続けていたが、クロウカードの気が緩んだのを見てここぞとばかりに跳躍した。


「キシャァァアアア!!!!」


 凄まじいスピードで迫るリスに、クロウカードは身動きひとつせず呟いた。


「『穢土ノ冥帝』」



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