はじまり2
目の前には自ら成仏を願う幽霊(俺の好み)。
なぜそう願うのに成仏できないのか。
可能性は無くはない。
心の底ではまだ未練がある…こういうことなら、あり得るだろう。
だが、一体その未練とは何なんだ?
自分でも気づけない未練を、俺が何とかしてやれるのか…?
そしてもう一つ。
今、なんと言った?
えっと…確か付き合え、だったな。
付き合え…
付き合え…
「えええええええ!?ちょっ……はぁっ!?」
2秒ほど考え込んだのち、俺は営業スマイルを繕うことも忘れて叫んだ。
予想外過ぎる。何がどうしてそうなった。
「……うるさい奴だな…」
少女がバカにするような目をこちらに向けながら呟く。
おい、俺がこんな奇声を発することになったのは誰のどの発言だ。
「…すいません、よく聞き取れなかったのでもう一度言っていただけますか?」
念のため、もう一度確認を取る。
勘違いだとしたら、この上なく恥ずかしいいのだが、勘違いでいてほしい。
なんせ俺は生まれてこの方、誰かとお付き合いした経験など無いのだ。
俺に恋愛スキルを求められても困る。
だが少女は俺の願いなど知らず、また同じ言葉を繰り返した。
「私と付き合ってくれ。無論、男女の交際という意味でだ。」
少女は淡々と、恥じらうことなくまるで何かの事務報告をするかの様に言う。
ーーーくそ、何でこんな落ち着いているんだ。
歳下のタイプな女の子から突然の告白(?)を受けて狼狽える自分がひどく滑稽に見えた。
「えーと…それは何故そうなるのだ?」
営業口調と素の口調が混じりながら聞く。
少女はそんな俺をまた冷ややかな目で見ながら答える。
「私だって本当はこんなことしたくないし、ましてや貴様のような奴と付き合いたいなど1ミリたりとも思わない」
初対面で、しかもタイプの女の子に言われて内心へこんだ。
だが、そんな憂鬱な気持ちもすぐに吹き飛んだ。
少女がまた、ほんの一瞬だけ傷ついた目をしたからだ。
そしてこう言う。
「でも…こうでもしないと、成仏できないんだ。」
その彼女の悲しそうな表情に少しだけ…少しだけ、同情してしまったんだと思う。
「……分かった、付き合おうか。」
この時、俺はこの仕事における"暗黙のルール"を破ってしまったのだ。
対象相手と親密すぎる間柄にならない。
ーーーなぜなら、成仏をするという別れが、新たなる未練になってしまうからだ。
だが、ルールを破ってでもこの子をすくいたい。
そう思ってしまった。
出会って初対面、そのうえ中々に辛辣な事を言ってくる相手にそこまでの感情を抱くとは。
自分でも少し疑問に思う。…だが、俺がこの疑問を解決するのはもう少し後だ。
これが彼女と俺の忘れられない思い出の始まりだった。