はじまり。
さて、いきなりだが、皆さんは人が死んだ後の"しくみ"についてはご存知だろうか?
人は死んだ後に安らかに天に昇り、閻魔様の前で天国か地獄行きか裁判される。
天国に行った者たちは安らかな日々が待っており、そこで"生まれ変わり"を待つ。
地獄に行った者たちは数年の修行を経た後、試験に合格をすれば天国へ行く。
だが、例外がある。
もし、まだ現世に"強い未練"があった場合だ。
その場合、人は天に昇ることが出来ず、現世でいわゆる"幽霊"の形で彷徨い続ける。
しかし、それでは困ってしまう。
何年も居座られると、現世が幽霊だらけでパニックになってしまうからだ。
そう、そこで活躍するのが俺たち『送迎人』。
稀に生きている身であっても"幽霊"を見ることができる人間が居る。
そういう、特殊な人間たちが『送迎人』として幽霊と交渉し、
彼らの未練を断ち切り「そろそろ成仏しようか…」と思ってもらうことが俺たちの仕事だ。
もちろん、普通に交渉して「はい、そうですか」と応じてくれる訳がない。
彼らは何らかの理由の"現世に留まりたい"という強い未練を断ち切ることは、非常に困難だった。
まず、幽霊達は俺たちをひどく嫌い、逃げようとする。
話しをはじめるところから困難なのだ。
話が出来たと思っても、大騒ぎをし、彼らを見えない"一般人"に迷惑をかける場合まである。(怪談話などは大騒ぎして一般人に見られた例だ)
だが、誰しもが成れる訳ではないこの仕事に俺はやり甲斐を感じていた。
そして、未練を断ち切れる様に懸命に努力し今日まで働いてきた。
しかし、だ。
一体これはどういうことなんだ。
何故、幽霊自らが赴いて『私を成仏してくれ』なんて言うんだ?
これはひょっとして俺の聞き間違いなのか?
それとも何だ、日頃の仕事が忙し過ぎて『あぁ…もっと楽でもいいのに…』なんて願望が遂に幻覚を引き起こしたのか?
ワタシヲジョウブツシテクレ。
何度も頭の中で少女の言葉が繰り返される。
あぁ、考えれば考えるほど分からない。
「……おい。」
少女の問いかけてきた声で、ハッと意識が戻る。
「…話、聞いているのか?」
少女はしげしげと、不審そうに俺を見てくる。
あぁ、いけない、いけない。
この仕事は、送迎人と幽霊が信頼関係を持ち、幽霊に心を開いてもらうことが重要なのに。
「……すいません、あまりにも予想外で思考が追いつかなくて。」
急いで営業スマイルを取り繕うが、彼女はまだ探るような目で俺を見てくる。
「それは何が予想外だったんだ…?」
彼女の吸い込まれそうのほど綺麗な目が俺をじっと見つめる。
その目があまりにも美し過ぎて、今度は別の理由で意識を奪われそうになったが、そこは理性で抑える。
そうだ、今は仕事中なのだ。集中しなければ。
「いえ…あなたのような、いわゆる"現世に未練がある人"のほとんどは、僕たちを嫌う人たちが多いもので…
それに、なぜご本人様が『成仏したい』と思うのに成仏できないのか…こういうケースは初めてでして…正直、驚いちゃいました。」
俺は驚いたことを隠さずに、そして彼女の表情を伺いながら話す。
幽霊達の心の傷をつけてしまって、未練を話してもらえなくなると非常に困ってしまうのだ。
「ですが、もう大丈夫です。必ず僕があなたに安心していただき、あなたの未練を断ち切ります。」
にっこりと、いつもよりも少し気合を入れて言う。
ただでさえ『イレギュラー』な事態なのだ。
気を引き締めていかないと。
大丈夫、何も変なことは言ってな……
………え。
少しだけ、ほんの一瞬だけ、彼女が傷ついた顔をした。
え、何でだ、何がまずかった。
ぐるぐると、焦りが脳内で暴れだす。
分からない。いや、探せ。
彼女の"未練"が考えられる様々な場合のどれだったら、どこで傷ついたのか。
しかし、その時の俺では考えても考えても答えは出ず、ほんのしばしフリーズしてしまった。
フリーズから溶けた頃には、彼女はもう傷ついた顔などしておらず、また美し過ぎる目で俺を見つめていた。
「…未練を、断ち切ってくれるんだな?」
「はい、必ず。そのためには、全力を尽くします。」
「……そうか、なら…」
彼女はゆっくりと間を取り、そしてこう言ったのだ。
「お前、私と付き合え」
「……は?」
説明回で長くなっちゃったんで読むの大変でしたよね…ごめんなさいorz
今回もお読みくださり、ありがとうございます!!
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