またあした。【後半】
昨日の夜、大輝に励まされてある決意をした綾。今日は綾が真琴の家に来て、待ち伏せていた。
「じゃ、行ってくる。」
真琴の声だ。いま、家を出たのだろう。門を出れば必然的に綾に気付く。綾は震える手を必死で抑え、深呼吸をした。
タッ、タッ、タッ…ガチャ。
門の開く音がした。心臓が高鳴る。綾は大きく息をすき込んで、声を発した。
「み、三神さん…あの…っ!」
綾をみた真琴は目を見開いて絶句した。
「綾…ちゃ、ん?どうして…」
「あんなことがあったから今日は来ないと思って…。昨日は…すみませんでした。わたし、つい感情的になってしまって…いろいろ言って…きっと傷つけてしまいました…。ちゃんと話も聞かずに、一方的に言って困らせてしまいました…。本当に、すみません…。」
涙で瞳を揺らしながら言う綾を見て真琴は悲しそうに目を伏せて微笑んだ。
「謝んないで、綾ちゃん。別に気にしてないから。それに、先に傷つけたのはオレだ。誤解するようなことしたのも。そりゃ話を聞いてもらえなくて当然だ。…ごめん、頼りなくて。」
綾は涙でいっぱいの目で精一杯微笑んで言った。
「…三神さん…学校、行きましょう。」
「あ、うん!そーだな!」
学校に行くまでの間、真琴が少し話したのに綾が相槌を打ったくらいでほかに会話はなかった。二人の間にはぎこちない空気が流れていた。
「…三神さん、今日放課後あいてますか?」
「うん、あいてるけど?」
「じゃあ、一緒に帰りませんか。お話があるんです。」
「おぅ、いーぜ。一緒に帰ろっか♪」
「では校門で待ち合わせということで。」
「りょーかい!じゃ、放課後なっ‼︎」
「はい、放課後に。」
そのまま二人はそれぞれの教室へ行き、いつも通りの時間を過ごした。いつもと違うかったのはお互いに会いに行こうとしなかったこと。いつもなら真琴が休み時間に綾のクラスに来る。だが、今日は会えば挨拶こそしたが、話すことはなかった。
そして放課後がきた。ショートホームルームが終わると綾はすぐに校門に向かった。そこにはまだ真琴の姿はなく、帰っていく生徒もあまりいなかった。10分くらいしたとき、真琴が人混みの中を縫うように歩いてきた。
「あっ、綾ちゃん!待ったぁー?」
「はい、10分くらい待ちました。」
「綾ちゃん、そこは今来たとこですっていうところだし‼︎」
「はぁ、そういうものですか。」
「うん、そー!」
「では、帰りましょうか。」
「そだな♪」
ぎこちない空気はいつのまにか和らいでいた。
「あ、三神さん。行きに言っていたお話の件なんですが。」
「あぁ、そうだったな!で、なになに⁇」
「あまり、蒸し返したくはないんですが」
「うん?」
「その…昨日はホントにすみませんでした‼︎」
綾は言うと同時に勢いよく頭を下げた。
「えぇっ⁉︎」
「昨日三神さんが帰ったあと、乾さんに会ったんです。嫌われたかもって…そしたら乾さんに言われたんです、三神さんはいい人だって。それくらいで嫌いになったりしないって。それで元気づけられて…その、今なら…今なら落ち着いて話を聞けると思うんです。よかったら…話してもらえませんか?」
「綾ちゃん…、そうだな。ちゃんと話す。聞いてくれる?」
「もちろんです。」
真琴は話し出した。
「あの女の子はさ、オレの従姉妹なんだけど…それでも普通はあんなことしないよな。んで、あ、ましろっていうんだけどましろはちょっと前まで海外で暮らしてて、向こうってこう…挨拶がわりにハグとかキスとかするだろ?あれはそういうのだったんだ。」
「…‼︎わ、わたしったらそんなこと知らずに…勝手に嫉妬して…っ!」
綾は恥ずかしさで顔から火が出そうだった。勝手な勘違いで勝手に嫉妬していたのがたまらなくバカらしくなって恥ずかしさがこみ上げてきたのだ。
「でも、綾ちゃんが嫉妬してくれたなんてすごく嬉しかった。だってそれってつまり、オレのことそんだけ好きってことだろ?」
「…自惚れないでください。」
「いーや、自惚れる‼︎…綾ちゃん、ありがと。」
「なぜです?むしろお礼を言うのはわたしの方なのに…」
「オレを好きになってくれて、オレのために嫉妬してくれて、怒ってくれて。すっごく…嬉しい。綾ちゃんを好きになってよかった。」
「三神さん…。わたしもですよ、そんなの。三神さん、これからもずっと好きです。なにがあっても嫌いになんてなれません。」
「ありがと。…あ、でも綾ちゃん?ひとつだけ。」
「なんでしょう。」
「早とちりは禁物!おっけー?」
「…はい。ではわたしもひとつ。」
「ん?」
「浮気、しないでくださいね。裏切らないでください、キレますよ。」
「信用ないなっ⁉︎でも大丈夫。…キレてるとこみてみたいな。」
「いい加減にしてください、まったく…。」
「ごめんごめん。今日も家まで送ってくよ。」
「それはどうも。」
そうして無事に解決し、いつもの調子で2人は一緒に帰った。綾の家までついたとき、真琴は綾に一歩近づいた。
「綾ちゃん、仲直りの印に…。」
いうと同時に真琴は綾の唇に自分の唇を重ねた。ほんの数秒が綾にはとても長く感じられた。
「み、三神さんっ…!」
「綾ちゃん、好き。明日も明後日もその後もずっと…迎えに来るから。」
「待ってます、あなたが来るのを。たとえあなたがわたしから去ったとしても、信じてます。」
「そのたとえの日は絶対に来ないからな、後悔すんなよ?…じゃあ、バイバイ♪」
「はい。
また…あした。」
この話で終了です。
ここまで読んでくださってありがとうございました。