またあした。【前半】
翌日真琴は綾の家に来ていた。綾はきっと勘違いをしている。今日のデートには来なかった。だからちゃんと訳を話して弁解するために。
そしてインターホンを押した。
『はい、吉野です。どちらさま?』
「あっ…、オレ…三神です。綾ちゃん居ますか?」
『ちょっと待ってて、呼んでくるから。』
「あのっ…!オレだとは伝えないでもらえますか?」
『あら、ケンカでもしたの?』
「まあ、そんなとこです…。」
『わかったわ。』
少しして綾が出てきた。
「どちらさまでしょうか。」
「あ、綾ちゃん…!」
「…っ!」
真琴の顔を見るなりドアを閉めた。オマケにカギまでかけてしまった。そして綾は言った。
「…ですか…。」
「え…?」
「なんでですか。なんで、あんなことしたの!わたしを好きだと言ってくれたのは嘘だったんですか⁉︎信じてたのに、嘘だったんですか…!」
そう言って綾は大粒の涙を流した。その表情も真琴には見えない。
「違うんだ!」
「違うってなんですか!なにが違うんですか!…あなたと出会うまで人を信じていませんでした。でも、あなたは、あなただけは信じようって思えたんです。なのに…」
「綾ちゃん…」
「帰ってください‼︎」
「綾ちゃん、聞い…」
「嘘つきの話なんて聞きたくもない!帰って…はやく…‼︎」
「…わかった、帰るよ…。じゃあ、また…。」
「…。」
真琴が遠ざかる足音が聞こえて、綾は外に飛び出した。小さくなっていく真琴の背中をただ見ることしかできなかった。
そこに、姿を見せたのは部活帰りの大輝だった。
「お、綾ちゃんじゃん。なにやってんの?」
「…っ乾、さんっ…!」
振り返った綾の目は涙でいっぱいで今にも溢れそうだった。
「どうした、綾ちゃん⁇なんかあったのか?」
「…わたし、わたしっ!三神さんを傷つけてしまいました…!きっと嫌われた…!!」
珍しく感情を露わにして泣く綾をみてなにかを悟った大輝は、ゆっくりと語り始めた。
「…綾ちゃん、オレさ。アイツ、真琴と仲良くなる前、仲良いヤツとか友達とか、よくわかんねぇしいらないって思ってたからいなかった。」
「…?…はい。」
「でも、1人でいたオレに真琴が話しかけてきたんだ。最初は、ただのバカだと思ってたんだけど仲良くなるたび、知っていったんだ。ホントはいいやつなんだよ。アイツは本気で綾ちゃんのことが好きだ。そりゃもう気持ち悪りぃくらい。」
自分のことのようにコロコロと表情を変えながら言った。
「つまりどういうことですか…?」
「あ、ごめん。オレ頭悪りぃから伝わりにくいかもだけどさ、さっき嫌われたって言ってたけどそれは違うと思う。なにがあったかはわかんねぇけど、真琴はそんなすぐに人を嫌ったりしないしそれが好きな人なら尚更だ。…ってこと。わかってくれた?」
「はい…。…あなたたちはホントに仲が良いんですね。ありがとうございます、あなたのおかげで元気が出ました。…あした、謝ってみようと思います。」
「そうか、がんばれよ。」
「はい、ありがとうございました。」
「おぅ、いいって!帰るわ、じゃあな!」
「さようなら。」
綾が言うと大輝はひらひらと手を振って帰って行った。その背中に、
「もう一度三神さんに『またあした。』と言えるようになるでしょうか…?」
そう呟いた綾の声は大輝には届かなかった。
予定ではあと1話となっております。
もう少しお付き合いください。