プロローグ
いつ連載できるかわからないのですが、スランプから脱出したらこれを執筆します。
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「汝が名は異界の知恵なり。魂の寄る辺を求むる者、肉叢を渇求する者。血肉に刻印を欲す。我、汝の宿り木なりて時を刻む者なり。汝誘う盟友の魂を辿り、我の呼び声に応えよ<インウォカーティオー>」
召喚呪文の詠唱は流れるように詠われた。二年間の歳月を費やした魔法陣の軌跡は、幾重に連なる真円と古代魔法文明の文字を組み合わせることで、現代に於ける基本陣形の影響をまったく度外視した、それはもう画期的な陣である。
高難易度かつ精細な陣形は、一つ線を間違えたり歪みがあれば魔力を吸われ続け、廃人確定な禁術である。つまり中途半端な馬鹿では死ぬ可能性がある。
発動条件に生贄さえも必要になることも多い召喚魔法は、古代魔法文明期の負の遺産と呼ばれた。もっとも、現代の召喚魔法では生き物を呼ぶことさえやっとになるため、大変不人気な学問に格下げである。
「……んん。マズイかもしれない」
なるほど、死ぬ。
思わず膝をついて、光る魔法陣の前に青年はふと、自分が死ぬことを悟った。魔力を吸い込む速度が尋常ではない。青年の魔力量では賄い切れないものになっていたのだ。
輝きを増すように放つ魔力光が、命を削り始めた。足りない魔力の過不足分を命で食い繋げろと言わんばかりに。
青年の魔力量は人並み以下で、魔法のセンスもない青年が迷宮に挑む前の無茶で、静かに生き絶える。
額を地面に叩きつけ、ぐったりとする死体が一つ出来上がった。
――現世に一つ。魂に問おう。汝が呼ばれし霊魂よ。生きることを欲した霊魂よ。求めに応えるは何故か?
召喚魔法に応えるように、事切れた青年の前に人の形をした輪郭が浮かび上がった。魔力を纏うように現界を留めるが、寄る辺のないものはこのままでは霧散して掻き消える。
ふわり。ふわり、と。重さを感じさせない動きをした寄る辺のないものは、召喚の主を起こそうと近づく。
魔力を失い、干からびてカサカサの青年の亡骸を抱き寄せた。
――生ある者の、亡者に吹き込む命の欠片。蘇りに不変の魂は未だ召されぬ者なり。
寄る辺のないものの清流を思わす詠唱が、青年の亡骸に命を吹き込む。
奇跡の代償にしてはそれは小さな問題でしかない。誓いを違うことは永劫にあってはならない。
代償、少女は異界の知識を失った。
短い……、それに中二病