八回目 コントと『契約』と『代償』と
契約執行~
燃える。
紅く、燃える。
俺は、今、自分が目にしている光景が信じられなかった。
ゴウッ!!
それは、あまりにも猛々しく、
ゴウゴウッ!!
紅く、美しい『炎』だった。
『主よ』
厳かに、しかし、確かな力強さとともに、『炎』のヌシは語りかけてくる。
『我と、契約を』
契約。
そう、契約を求められている。
俺が、
この『炎』の『鳥』に。
「・・・・・・・なぜ・・・」
いまだ、目の前の光景を処理しきれていない、俺の精一杯の問い。
『・・・なぜ、と・・・我に問うか、主よ』
『鳥』は、その首を曲げ、頭をこちらに下げる。
そこで俺は、この『炎の鳥』が自分よりも何倍も大きいことに気付く。
体が大きいため、頭を下げても、俺を見下ろす格好になっている。
『鳥』の眼差しが、俺を見つめる。
『それは、主が我の声を聞き、気配を感じ、姿を見ることができるからだ』
「それは・・・・・・」
それは、どういうことだろうか。
普通にできることではないのだろうか。
現に、目の前の『鳥』は、圧倒的な存在感を持って俺の前にいる。
『否』
その返答にビクッと体が反応する。
『我の姿、声、気配は、主にしか分からない』
「・・・俺にしか・・・?」
『是』
俺の問いを肯定する。
だが、腑に落ちない。俺にしてみれば当たり前のことだ。当たり前に聞こえ、感じ、見ることができる。
しかし、もしこの『炎の鳥』の言うことが本当だとすれば、それは・・・・・・、
「ライハ、大丈夫か!?」
この育ての親には、見えないのだろうか。
「・・・なっ!?」
聞こえないのだろうか。
『・・・ほぉ・・・』
感じないのだろうか。
「・・・・・・こいつぁ一体・・・」
『・・・我を認識するか、人間』
「・・・・・・・・・・・・・なんとか、な・・・」
『さすがは、主の『親』か』
「お褒めに預かり、光栄だねぇ、精霊さんよぉ」
『・・・人間にしては、だが』
「つれねぇこって」
・・・・・・・・・・・・・・・・て、
「普通に会話してるじゃんか!?」
『む?』
「お?」
俺の突っ込みに、こちらを見る一人と一羽。
「俺の驚きを返せっ!!」
あの、驚きのあまり、声も出せず、馬鹿みたいに突っ立っていた俺がアホみたいじゃないか!
『主は、驚きすぎだ』
「そうだぜ。おめぇは驚きすぎだ」
一人と一羽は、そろって俺に突っ込みを返す。
「驚くだろ、普通!?」
『そうなのか、人間?』
「いや、驚かねぇと思うぜ。精霊」
そして、そろって首をかしげる。
「俺にしか見れないんじゃなかったのかよ!?」
『この『人間』は特別だ、主よ』
「そうそう、おらぁ特別よぉ」
『炎の鳥』の言葉に、へらへらと笑いながら相槌を打つ、育ての親。
『して、主よ。返答や、いかに?』
へらへら笑う親父を一瞥し、こちらに返事を要求する『鳥』。
「ん? なんのことでぇ?」
『鳥』の質問に首をかしげる親父。
・・・・・・・正直、馬鹿らしくなってきた。
なんで、こんなに驚いた挙句、親父と訳分からん『燃える鳥』のコントに付き合わなきゃいけないんだ。
「・・・・・・・契約する!」
少し一人と一羽のコントにイライラしていたのか、最後は怒鳴るように言ってしまった。
『・・・心得た!』
『鳥』は、待ってましたと言わんばかりに声をあげる。
「・・・契約?・・・・・・・・いや、おい、ちょっと待て!」
俺の言葉になぜか焦るバイアス。
(なんか不味かったか?)
バイアスのその様子に、少し早まったかと考え直す。
だが、そんな俺の考えを余所に、
『我、南方炎帝。主が言葉のもとに契約をせん!!』
『燃える鳥』が契約執行の宣言をし、身に纏う炎が、爆発したように燃え盛る。
そして次の瞬間、
「がっ!?」
俺の体の中に、猛烈な勢いで炎が入り、
「ぐ・・・あああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
体を、内からまたは外から、激しい痛みと身を焼き尽くすような熱が、襲われ
「ライハ!?」
親父が俺を呼ぶ声を最後に、俺は意識を手放した。
やっとここまできたよ・・・