七.五回目 『答え』は目の前に
バイアス父さん視点、しかも主役です。
その日、バイアス・バーミアスは自分の書斎で、長年取り組んでいた研究に打ち込んでいた。
といっても、今まで実践してきた理論や技術を、論文として纏めているだけなのだが。
カリカリと文字を書く音だけが室内に響く。
今まで行ってきたことを纏めていなかったのもあって、その量はかなりのものになっていた。現に、ここ一週間ほどはこの作業しかしていない。
「・・・ふぅ」
書いていた手を休め、首を左右に曲げる。
ゴキッと景気の良い音がなり、凝り固まった首の筋肉をほぐす。
「・・・あいつにも手伝ってもらいてぇなぁ」
あいつとは、もちろんライハのことだ。自分が拾い、育てた子ども。
今では、息子と言っても良いほど大事に愛情をそそいでいる子ども。
だが、とバイアスは思う。
この作業だけは、ライハには手伝わせることはできない。いや、見せることすらできない。
今自分が取り組んでいる『研究』は、この世界においては異端も異端。さらに言えば、実現すら可能なのか分からない。むしろ不可能の可能性の方が高い。
それに、この『研究』は、あくまでも自分が始めたものだ。自分のエゴに子どもを―――ライハを付き合わせて良いものではない。
「・・・まぁ、あいつはやらねぇだろうしな」
がしがしとその灰色の髪をかく。
自分にしたって、こういった机仕事は苦手だ。それは、昔働いていたときから変わらない。
「・・・続きやんねぇとな・・・」
そういって、休めていた手を再開させる。
できれば、今日中に全部纏めてしまいたかった。
「・・・・・・」
カリカリと文字を書く音だけが部屋に響く。
書くことだけに集中し、一心不乱に文字を紡いでいく。
「・・・・・・ん?」
不意に書く手を止める。
書くことに集中したいた為、ハッキリとは分からなかったが、
「・・・魔力?」
ほんの微かではあるが、感じたのだ。魔力を。
『魔力』とは、『魔術』を使用するにあたって放出される『力』のことだ。
人間であれ、エルフであれ、魔族であれ、誰もが持っている『力』だ。ただ、使えるかどうかは使用する者の適正にもよるが。
その魔力を感じた。
だが、一体誰の魔力なのだ?
この家で、『魔術』を使えるのはバイアスだけだ。ライハは使えるかどうかは分からないが、今はまだ『魔術』を使えない。
では、誰が魔力を放出したのだ?
疑問は尽きない。
気がつけば、すっかり文字を書く手は止まっていた。
バイアスは、目を瞑り、魔力が放たれたであろう『原因』を探るためと思考を絞る。
「・・・・・・」
閉じていた目をあける。
魔力は家の外から感じられた。
だが、気配がおかしい。
魔力のそれが、人間のそれではない。
「・・・エルフじゃねぇし、魔族か?」
しかし、それらの種族の魔力にも似ていない。
いや、魔力ですら違うと言える
むしろこれは、
「・・・『精霊』にちけぇな・・・」
そう、自分たちが魔術を使用するときに『力』を引き出す、『精霊』の気配に近い。
ガシガシと頭をかき、立ち上がる。
「・・・考えても分からねぇし、確認するしかねぇか」
書斎を出て、外へ向かう。
そのとき、
「・・・なっ!?」
気配を感じながら歩いていたバイアスは驚愕した。
先ほどの気配が、それまでのモノより、はるかに強大に膨れ上がったのだ。
「・・・こいつはやべぇ・・・!」
そこで思い出す。
確か、この時間。自分の育てた息子は、外で薪割りをしている時間ではなかったか。
「ライハ!!」
息子の名を叫び、外へと急ぐ。
廊下を走り、外へと通じるドアを、
「めんどくせぇ!!」
ドンっ!! という音とともにドアを『魔術』で吹き飛ばす。
そして、
「ライハ、大丈夫か!?」
そこで見たものは、バイアスの想像を超えたモノであり、
「・・・なっ!?」
求めていた、『答え』であった。
うん、進み遅っ!