七回目 炎の鳥
ついに出ました、鳥。
※表記に間違いがありましたので、直しました。
北方炎帝⇒南方炎帝
『おーい、聞こえてますかぁ?』
その『鳥』は、こちらに向かって右の手(羽)をひらひらと振った。
俺はというと、いきなり目の前に燃える鳥が現れて驚いて、思考が止まっていた。
なんせ、身体自体が燃えている鳥である。まだ、ただ赤いだけの鳥とか、話すだけの鳥とかなら、ここまで驚かなかっただろう。
さらに言えば、その現れ方だ。
大概の生き物は、まず気配を出す。それは呼吸とか、風に流れてくる臭いとか、それ自体の意思みたいなものなど様々だ。
でも、こいつにはなにもそれら全てがなかった。察知できたのは、本当にかすかな声だけ。いくら無防備だったとはいえ、それなりに気配を探れるようになった俺にとって、こいつは明らかに異常としか言えない。
(そもそも、生き物なのかどう・・・)
『・・・うわーん、聞こえてないよぉ~』
・・・突然、泣き出した。
燃える鳥は、盛大に泣き出した。それも凄い音量で。目の前で泣かれるこちらとしては、正直たまらない。つーか、すごいうるさい。
『うわーーーーん!!』
だんだん大きくなってくる泣き声に、考えていたこはどこかへ吹き飛び、徐々にイライラしてくる。
その泣き声に我慢ができなくなってきて・・・
『うわーーーーーーーーーーん!!!!!』
ベチッ!!
思わず、手が出て、頭を叩いてしまった。
『・・・!!』
叩かれた鳥(もう鳥としか言ってやらない!)は、驚いたのか、泣くのをやめて、こちらを見ていた。器用にその両手(羽?)で頭を押さえながら。
『・・・・・・・』
「・・・・・・・」
『・・・・・・・』
「・・・ごめん。あんまりうるさいから、思わず手が出た」
『・・・!?』
沈黙に耐えかねて、一応謝る俺。
(いや、確かにうるさかったけど、これって動物虐待と取られても仕方ない訳で)。
(でも、むこうにも非はあるわけで)。
(ていうか、そもそもこいつ動物か?)
そんな風に俺が心の中で葛藤していると、顔に衝撃が走った。
ビタンッという盛大な音とともに。
『主さまぁ~~!!』
「・・・!!」
いきなりのご主人さま扱いに驚く。というか顔が痛い。しかも、なぜ顔面に抱きつく・・・。
『主さま主さま主さま主さまぁぁぁぁぁ!!』
抱きつきながら、これでもかと言わんばかりに、両手(羽?)をバタつかせる鳥。
いや、なんか・・・こう・・・・・・
「・・・・・・わずらわしいわ、ボケぇ!!」
『うきゃ!?』
シュバっと鳥を掴んで顔から引きはがし、勢い良く、これまた全力投球!!
『きゅわ~~~~~~・・・・・・・・』
鳥の意味不明な悲鳴が辺りに木霊し、鳥の姿が彼方に見えなくなった。
見えなくなったのを確認した俺は、フっと不敵に笑い、
「俺の平穏は守られた・・・」
決まった。カッコいいぞ、俺!
『・・・ひどいです、主さまぁ』
「なぬっ!?」
遥か彼方に投げ飛ばしたと思ったら、いきなり目の前に現れた鳥。
なんだこの鳥。というか、何者だ? この鳥。
『せっかく主さまに声が聞こえて嬉しかったのに、急に投げるなんて・・・ヒドイですぅ~、あんまりですぅ~』
わたし、悲しいです。と言わんばかりに、目をうるうるさせて、俺を見つめてくる鳥。
「・・・いや、あんまりにも、その、わず・・・と、暑苦しかったから・・・」
そんな鳥の態度に、思わず今までの怒りが冷めていき、言い訳をする。途中、わずらわしいと言いそうになったのはご愛嬌だ。
『いいんです、いいんです。どうせボクなんて、もともと体が燃えてて、暑苦しいんですから・・・』
うわ、拗ねちゃったよ。メンドくさい・・・もとい、面倒だ。
「でもほら! 体が燃えてるなんてカッコいいじゃん!!」
『・・・・・・カッコいいですか?』
「うんうん! カッコいいと思うなぁ、俺は!」
『・・・そっかぁ~。カッコいいんだぁ~』
「そうそう、カッコいいよ」
『えへ、照れちゃうなぁ~』
俺のこれでもかと言わんばかりの褒め言葉に、段々と機嫌を良くしていく鳥。
『えへへへぇ~~』
だらーんと顔がニヤケた鳥に、
(そろそろいいかな?)
とりあえず、気になっていたことを聞いた。
「それで、そのカッコイイ鳥である君は、一体、なんなのかな?」
俺の問いに、鳥はまだ顔をニヤけさせながら答えた。
『ボクは炎帝です』
「・・・は?」
俺の訝しげな声に気がついたのか、鳥はニヤけていた顔を引き締め、真剣な顔でもう一度言った。
『四方が一柱、南方炎帝。主が現れしとの報に、馳せ参じつかまつりました』
今までの、ふやけて気の抜けた話し方と一変して、厳かに確かな威厳を持ってそこに存在していた。
『我、南方炎帝。主との契約をなし、その力とならん』
瞬間、鳥を包んでいた炎が爆発的に燃え上がる。
あまりの炎の勢いに目をつむった俺が、次に見たものは、
「!?」
辺りの雪を瞬時に溶かすほどの、凄まじい炎を身に纏った、巨大な、神なる鳥であった。
そろそろ、バイアス父さんの出番がほしいなぁ