四十三・五回目 閑話
ドンっ!!
物凄い打撃音と共に、遠くから男の叫び声が聞こえる。
いや、叫び声というよりは悲鳴に近い。
遠目に、人間の形をしたものが、宙に打ちあがっては落下しているのが見える。
あの小僧・・・本当に派手にやってやがる。
思わず、笑いだしそうになるのを堪える。
「・・・隊長、どうかされましたか?」
隣にいたリュノアが、そんな俺を不思議がって声をかけてくる。
「・・・いや、なんでもない」
囮が盛大すぎるて笑いそうだ、なんてこいつに言ったらなんて言われるか。
「うそです」
リュノアが間髪いれずに言い返してくる。
「口元がニヤけてます」
思わず手を口元にやる。
顔には出さないように注意していたが、どうやら失敗していたらしい。
まぁ、あんなモノを見たら、ニヤけてしまうのは仕方ない。
なぜなら、昔を思い出してしまうからだ。
あの小僧の父親、バイヤスと肩を並べ駆け抜けた日々を思い出してしまうのだから。
・・・もっとも、あそこまで常識破りではなかったがな。
遠くで繰り広げられている光景に、在りし日のことを思い浮かべ、思わず苦笑する。
自分たちは、あそこまではやらなかった。もっと大人しかったと思う。
それでも、表沙汰になったモノに限ってだが。
リュノアの隣では、アトスが少し呆れたようにライハが暴れているであろう場所を眺めている。
アトスも一度あの小僧とやり合っているから、多少の免疫はついているのだろう。
それでも遠くで起こっている光景に呆れてものも言えない状態ではあるが・・・。
そういえば、リュノアは平然としているな。
隣で平然としているリュノアを見やる。
その佇まいは、いつもと変わらないように思えた。
俺の視線に気づいたのか、リュノアが、なにか? という顔をする。
「・・・いや、緊張してないか?」
つい思っていたこととは違うことを尋ねてしまう。
まぁ、これからのことを考えれば緊張しててもおかしくないのだが。
「してませんよ。それに・・・」
「それに、なんだ?」
一度言葉を止めたリュノアに続きを促す。
リュノアはもう一度、遠くを見やる。
俺もつられてそちらに視線をやれば、人間と思わしきものが、今度は何人も吹き飛んでいた。
「・・・だって、あの人の子どもですから」
そういうリュノアの顔は、どこか遠い誰かに想いを馳せているように見えた。
そして俺は、そんなリュノアの言葉に、今度こそ笑い出してしまうのだった。