三十八回目 飄々と
長らく、お待たせしましたm(__)m
「だ、誰でおじゃるか!? 門番は何をしていたでおじゃ!!」
金豚は、突然の訪問者に驚いた様子で声を上げた。
心なしか、その何十にも重なった腹の肉が震えているのが気のせいだろうか。
そんな金豚の様子を気にも留めず、ベルードは俺の方をちらりと一瞥すると、いつもの飄々とした態で話を進める。
「いやなに。つい先ほどとある筋から、旅の連れがこちらにご厄介になっていると聞きましてね。いやはや、ご迷惑をかけてはいないかと心配で居ても立ってもいられず、慌てて参った次第なんですよ」
これ見よがしに、胸元の近衛魔術師団の紋章を象った止め具を弄りながら話をするベルードに、さすがに気づいたのか金豚が顔を強張らせる。
「そ、それは近衛魔術師団の紋章・・・! なぜこんな場所にいるでおじゃ・・・」
かすれるような声でつぶやく金豚に、ニヤリと笑いかけたベルードは大げさに手を合わせ、さも今気づいたというように話をする。
「そういえば、自己紹介が遅れました。私、近衛魔術師団に籍を置いております、ベルードと申すものです。以後、お見知りおきを・・・」
それは貴族の礼なのか。そう言ってベルードはいつもとは違う優雅な動作で一礼をする。
その礼に状況を思い出したのか、金豚もベルードに一礼を返す。
「ま、まろは、この詰所で副隊長を務めているでおじゃる、ルーザゴ・デタブでおじゃ」
あ、噛んだ。しかも、しきりに汗を拭ってるし。
「と、ところで、なぜ近衛魔術師団の一員ともあろう御方が、こんなところに来たでおじゃるか?」
かなり焦っているのか、ベルードに状況を確認する金豚。
いや、さっき来た理由言ったよな?
「先ほども言ったと思うのですが、そちらにいる輩は、私の旅の連れでしてね。なにか不始末でもしたのかと思い、参ったんですよ」
少し困ったような表情を作り、こちらにちらちらと視線を寄越しながら話すベルード。
・・・ワザとだな。
「なんと・・・!? この平み・・・もとい、この者が、ベルード殿の連れでおじゃると・・・?」
「そうなんですよ。で、このバカがなにか仕出かしましたか?」
殊更困ったような顔をして金豚に尋ねるベルード。しかし、「で」のところで、一瞬だけ相手を威圧する。
その威圧に怯んだのか、金豚はその贅肉をぶるりと波立たせると、
「・・・・・・いや、なにもしてないでおじゃる・・・」
と、いとも簡単に陥落した。
「そうですか! それは良かった!」
それはそれはわざとらしく嬉しそうに言うベルード。
「では、このバカは連れていきますよ?」
ベルードは、金豚が小さく首を縦に動かすのを確認すると、衛兵から鍵を受け取り、牢屋から俺を連れ出して、颯爽と詰所からに出て行くのであった。
あーー・・・話が進まない