三十七回目 妄想?
長らくお待たせしてしまい、すみませんでした。
「まろは、この偉大なる頭脳で考えた結果、重大なる結論に至ったのでおじゃる。それはなんだと思うでおじゃるか?」
はて? なんだろうか?
俺の疑問をよそに、金豚は滔々と語りだす。
「そなたの正体でおじゃる」
「そなたは、王国が寄越した間者なのでおじゃ。王国から密命を帯びたそなたは、軽々とこの街に潜入を果したのでおじゃる」
「いざ、密命を果たさんと意気揚々と歩み始めた足はすぐに止まってしまうのでおじゃる」
「そなたの目の前で、か弱い女子と子どもが狼藉を被っていたからでおじゃる」
「そなたは、悩んだでおじゃ。自分は王国の密命を帯びた身。しかし、己の義侠心が目の前の悪行を見捨ててはいかんと叫んでいるでおじゃる」
「密命の使命感と義侠心が己のなかでせめぎ合う中、子どもに悪漢の手が迫ったでおじゃ!」
「そなたは体は知らぬ間に悪漢へと正義の鉄槌を下し、見事これを討ち果たしたのでおじゃる」
「自分の身体が勝手に動き、悪漢を討ち果たしたことに呆然とするそなたを悪夢が襲ったのでおじゃる」
「呆然とするあまり、衛兵に捉えられ、牢屋に放り込まれてしまったのでおじゃる!」
「これでは王国より授かった密命を果すことができない!」
「そう思ったそなたは、じっと機会を伺うのでおじゃる」
そこまで一気に妄想をぶちまけた金豚は、一拍の間を置いて俺に視線を向けた。
「・・・以上が、このまろの偉大な頭脳で辿り着いてしまったそなたの正体の顛末でおじゃる」
いやいや、正体とか言われても、正直今の話がどうやったら出来上がるのか、そっちのほうが気になるわ!
『それは確かに気になるのぉ』
「さすが、ルーザゴ様! たったひと目見ただけでそこまで見抜かれてしまうとは!」
おいおい、ただの妄想話だろ。
ほらみろ、衛兵のヤツらなんか、呆れてドン引きしてるぜ。
「どうでおじゃる? 正体もなにもかも見抜かれて、言葉も出ないでおじゃるか?」
金豚は、自分の妄想に酔ったような口調で、俺に質問も投げかける。
呆れて物も言えないのが正直なところだったが、そこは大人な俺。なんとか我慢して、悔しそうな表情を作ると相手を伺うようにして顔を上げた。
金豚や衛兵にばれないように視線を素早く動かして周囲を確認すると、案の定、金豚に尊敬するような眼差しを送る従者と、その後ろでなんとも言えない顔で、金豚一行を見やる衛兵が、対照的な表情をして、なんとも微妙な場を形成していた。
「さぁ、まろは寛大でおじゃる。さっさと認めてしまうでおじゃる。もっとも、認めなくてもこのまろの偉大な頭脳が全てを白日の下にさらしてしまうでおじゃる」
そして、またどこから出したかのか分からない扇を広げ、おっほっほっほと楽しそうに笑い出す金豚。
「全て話してしまうでおじゃる。そうすれば悪いようにはしないでおじゃ。どうせなら、そなたもまろの計画に参加してもよろしいでおじゃるよ」
・・・・・・その言葉、待ってました!
「・・・計画?」
俺はそこで、懇願するような表情作り、金豚の言葉に縋る。
金団はそれはそれは満面の笑みを浮かべて話し出した。
「そうでおじゃる。まろは、あのシスターと子どもがおる孤児院の土地が欲しいのでおじゃる。だから、あの孤児院に色々と仕掛けたのでおじゃるが、なかなか頑固に抵抗されて困っていたのでおじゃる。そなたの命を助けるかわりに、まろの計画に協力してほしいでおじゃる。お互い、良いことづくしでおじゃ」
・・・こいつアホだ。
いやさ、俺が王国の間者だとしても、いかにも、自分が悪事働いてます! みたいなこと言ったらダメでしょ。王国に密告されちゃうよ?
それに、お迎えも来たみたいだし。
自信満々の顔をして俺を見下ろす金豚の後ろで、牢屋のドアが突然静かに開いた。
「すまないが、ここに、バイアス・バーミアスという者がいると聞いて来たのだが?」
近衛魔術師団の紋章を象った止め具を胸元に輝かせた、ベルード・ガレズが、いつもの飄々とした口調で現れたのだった。