二十一回目 フルスイング!
長らくお待たせしました・・・
「・・・準備は互いに問題ないようだな・・・では、始めっ!」
なにか言いたそうな顔をしていたが、決闘には問題ないだろうと考えたのか、ベルードが開始の合図をする。
合図とともに、俺は手に持っていた黒い棒を持ち直す。といっても、棒の先端を地面につけ、縦にしただけだが。
アトスはというと、武器なのだろう、準備していた杖をこちらにむけ、あの敵意のこもった眼でいまだに俺を睨んでいる。
さて、どうしたものか?
さっきまであんなに頭に血が上っていた俺も、相手を観察できる程度には冷静になっていた。
アトスは、革鎧を着て魔術師が使うオーソドックスな杖を構えている。
外見の装備からは、アトスが、『魔術師タイプ』なのか『騎士タイプ』なのか判断がつかない。
杖を構えているところから察するに、攻撃方法は魔術を使ってくるのだろう。しかし、そうするとあの革鎧を装備している説明がつかない。革鎧を装備している以上、少なくとも接近戦もそれなりにこなすということなのではないだろうか?
そうして相手の戦闘スタイルをアレコレと推測している間に、いつの間に『詠唱』していたのか、杖の先に、拳大位の炎の玉が存在していた。
『・・・ふむ、なかなかの錬度じゃな』
それを見た朱雀が、少し感心した様子でつぶやいた。
『分かるのか?』
『我ほどの高位の存在ともなれば、魔術の流れや錬り具合などはひと目見れば分かるものじゃ。あの若さにして、あの錬度。相当修練をつんだのであろうな』
『・・・じゃあ、甘くみない方が良いのか? 俺が観るに、そんなに強くない気がするんだが・・・』
というより、むしろ弱い部類、かな?
『主よ。誰と比較しているかは問わぬが、我やバイアス――――親父殿と比べるのは如何と思うのじゃが・・・』
『え・・・ダメなのか』
『ダメではないが・・・比較すること自体、間違っておる』
『間違い?』
『そうじゃ。我らと彼らでは―――』
そこで、異変を察知した俺は体を半身にして、向かってきた『何か』を避けた。
あれ? でもいつもの修行とかで、朱雀たちの攻撃だと今のタイミングでは避けられないハズなんだが・・・。
『―――実力に差がありすぎるんじゃ・・・』
朱雀が、どこかため息をつくように話す。
「・・・避けたか」
視線を戻すと、アトスの杖の先にあった『炎の玉』がいつの間にかなくなっていた。
・・・今のは、攻撃だったのか・・・。
あまりにも速度が遅かったので、攻撃とは思えなかったんだけど・・・。
「決闘の最中に、考え事とは随分と余裕だな」
アトスが俺を睨みながら言ってきた。
「・・・だが、次でその余裕も終わりだ!」
アトスが声高に叫ぶと、杖を空に向けて『詠唱』を始める。
それを見て、さすがの俺も気づく。さっきのは小手調べだったことを。
「『炎よ。我が意志に従い集え・・・』」
アトスの頭上に、先程とは比べ物もならないほどの炎が出現する。
それは徐々に形を整え、直径1メートルほどの球体になった。
「おぉ!」
あまりの大きさに、思わず感心する俺。
『感心しとる場合じゃないじゃろうが・・・』
そんな俺に、またもやため息を付く朱雀。
「そのナメた態度も、これで終わりだっ!」
そう言うや、空にかかげていた杖を俺に向ける。
「『炎よ。我が敵を、撃てっ!!』」
アトスの叫びと共に、巨大な炎の玉が物凄い速さで俺に向かってきた。
しかし、俺にとっては・・・遅い!!
俺は瞬時に体を半身にし、棒をバットのように構える。
そして――――――
のちに、『偉大な魔術師』の一人として数えられる、アトス・ネイトリンが、ライハ・バーミアスのことを訊ねられたとき、彼は決まって人々にこう話したと言う。
――――――あとにもさきにも、私の魔術を――――――
巨大な炎の玉を・・・
――――――棒で打ち返したのは彼だけだろう――――――
フルスイングした。
長らくお待たせしました。
戦闘ではないですが、戦うシーンてけっこう難しい・・・