十七・五回目 語り合いはグラスとともに
お久しぶりです。
~~バイアス視点~~
カリカリカリカリ・・・・・・。
筆を走らせる音が、静かな部屋に響く。
「・・・・・・」
俺は机に向かい、黙々と書いていた手を休める。
「・・・ふぅ~~・・・」
バタンっ。
同時に背後で部屋のドアが閉まる音がした。
「坊は寝たよ。親父殿」
「そうか・・・ありがとよ」
部屋に入ってきた玄武に礼を言いながら、俺は椅子を動かし、後ろに向き直る。
「坊もまだまだ子供よのぉ。普段は大人のような言動を取るくせに・・・」
「ちげぇねぇ」
玄武と視線を交わし、お互いに苦笑する。
ライハは普段大人びているくせに、こういうときだけ子どものように駄々をこねる。
「・・・だが、それもあと少し、か・・・」
「後悔しとるのか?」
ぽつりと漏らした言葉に、玄武が神妙な表情で聞いてくる。
こうした、真面目な表情をする玄武も、珍しい。
「・・・後悔、はしてねぇと言えば嘘にならぁ。今まであんだけ騒がしかったんだ。さびしくもならぁ」
そう言って、また苦笑する。でも今度は、少しだけ寂しげに。
「そう言うなら、何故あんなことを言ったのかのぉ? いくら親父殿の口が悪いと言っても、アレは悪すぎじゃて」
そう言ってほんのりと笑う玄武。そこにはできの悪い息子を見るような、やさしい眼差しをしていた。
なんとなく、自分の気持ちを見透かされているようで、少し恥ずかしい。
「うるせぇよ。俺の口がわりぃのは昔からだ。それに、ああでも言わねぇと、あいつは、いつまでもグチグチ悩んでたろうしな」
そう言って、自分の足を叩く。
玄武に俺の意思が伝わるように。
「親父殿も、ほんに難しい性格じゃのぉ」
「うるせぇよ」
今度は、笑いながら玄武に答える。見れば、玄武も笑っていた。
お互いにひとしきり笑うと、俺は頭を下げた。
「ライハを頼む」
「・・・・・・」
「ああ見えて、意外に脆いところがある。あいつを支えてやってくれ」
普段は滅多にしない、至極真面目な頼み。
それだけ俺も本気だという証。
「・・・・・・分かってないのぉ・・・」
少しの空白のあと、玄武の言葉に頭を上げる。
「わしらは総じて、坊に召喚された身。坊が『主』じゃ。支えるのは当たり前のこと。今更、できの悪い、不器用な親父殿に頼まれるようなことでもないわ」
そう言って、いつものように、かっかっかと笑う玄武。
その姿に、気づかいに俺も笑う。
(こいつらがいれば、心配はなさそうだ)
心の中で、そう思う。この仲間達がいれば、ライハもきっと大丈夫だろう。
(そうと分かれば・・・)
俺は、腕を伸ばし、近くにあった酒瓶を手に取る。
俺が所蔵している中で、一番気に入っている酒だ。
玄武も俺が手に取った酒瓶に気付いたのだろう。すぐにグラスを持ってくる。
玄武が持ってきた二つのグラスに、持っていた酒を注ぐ。
お互いにグラスを持ち、宙にかかげる。
「息子との別れに」
「親父殿との誓いに」
一瞬、玄武を睨む。
まったく恥ずかしいことを言いやがって。
玄武はといえば、俺に睨まれながらも笑っている。
「「乾杯」」
チンッ、とグラス同士が奏でる、軽やかな音が鳴った。
今回もシリアスだよ・・・