十.五回目 寝顔と決意
すみません。
遅くなって本当にすみません。
~バイアスside~
「・・・・・・」
小さな机と、壁に貼った大きな大陸地図。そして、部屋のあちこちに捨てられるように散らばっている本の数々。
そんな統一性のない部屋で、この部屋の主が静かに寝息をたてている。
部屋の窓近くのベットに寝ている我が息子――もちろんライハのことだ――は、先程まで時折痛みにこらえるような、苦しそうな表情をしていたが、今はそれも落ちつき、静かに寝ていた。
「・・・・・・成功、したか・・・」
『あぁ、無事に契約は成功した。だから、おぬしも安心せい』
ふと自分のつぶやきに返事が返ってくる。
その声の主を視認することはできないが、『感じる』ことはできる。その感覚も微々たるものではあるのだが・・・。
『なに、我が主と契約したお陰でおぬしにも僅かではあるが、気配を感じることができるようにしてある。もともと、我の声を『聴く』だけの素質は持っているようであったからのぉ』
「当たりめぇだ。俺が何年お前たち『精霊』と契約を交わそうと躍起になっていたと思ってやがる。こちとら伊達に日々研究をしているわけじゃねぇんだよ」
自分の頭の中に直接響いてくる声に、独り言のように話を返す。
『我が主の親とはいえ、おぬしもなかなかのものよのぉ。我々『精霊』の声が聞けるものなど『エルフ』や『ドワーフ』の奴等でもそうはおるまい。それがたかだか『人種族』のいち魔術師などに聞こえているのだから、『エルフ』どもも形無しだのぉ』
そう言いながら、声の主はカラカラと笑う。
確かに、『エルフ』や『ドワーフ』と言ったもともとの魔力が高い奴等なら聞こえる可能性もあるが、俺みたいな『人種族』が聞こえるなんて、奴等が知ったら卒倒モノだろう。
まぁ、俺だってもともと聞こえたわけではないのだが・・・。
そもそも俺がこうして『精霊』の声が聞こえるようになったのは、『精霊』とコンタクトを取る研究をしていたからだ。
言うならば、『精霊との契約』。
そして、『契約した精霊の召喚』。
宮廷魔術師を辞めてまで、俺が求めていた『術』。
それを俺の息子は―――ライハは僅か6歳になろうかという年齢で手に入れた。
その事実がひどく悔しく、また羨ましくもある。
だから、俺は決めた。
ライハに、自分が今まで研究してきた『精霊の召喚』についての全てを教え込もう、と。
研究自体は、まだ未完成だ。たぶん俺の力でが一生完成することはできないだろう。
でも、精霊と契約できたライハなら―――もしかしたら、完成させることができるのではないだろうか?
もちろん推測でしかない。だが、可能性は俺なんかよりもずっと高いはずだ。
だから、こいつに―――ライハに託そうと思う。
俺の『召喚術』
「・・・・・・ぅん・・・」
ベットで寝ているライハが小さく身じろぎする。
布団が少しずれたので、掛けなおしてやる。
「頼むぜ・・・ライハ。おめぇは俺の自慢の息子なんだからよ」
普段、ライハには絶対に言わない言葉。
『自慢の息子』
だからこそ、大丈夫だろう。ライハはなんてったって『自慢の息子』だ。俺が完成できなかった『召喚術』を完成させるだろう。
そっとライハの髪をなでる。
その手に、自分の願いを込めて・・・。
『おぬしは本当に、親だのぉ・・・』
俺は『精霊』の声を聞きながら、いつまでも・・・いつまでも・・・ライハの髪を撫でていた。
親父、なんかしんみりだよ・・・。