十回目 その『名』は・・・
やっと、名前が・・・
「・・・ようするにだ。今俺がいるここは、俺の精神世界であって、現実には俺は意識を失って、ベットで呑気に寝ているわけってことか・・・」
『左様だ。我が主よ』
手に持っているハリセンで肩をトントン叩きながら、俺は『火の鳥』に現状を確認していた。
『火の鳥』はというと、器用に片手(羽?)で先ほど俺に叩かれた頭の部分をさすっていた。
まぁ、確かに思いっきりツッコミましたけど・・・。
「じゃあ、そもそもどうやったら俺は目を覚ますんだ?」
ビシッとハリセンを『鳥』に向けながら質問する。
ハリセンでまた叩かれるのが嫌なのか、鳥は一瞬ビクッと身を竦ませながら、
『目を覚まそうと思えば覚める。だが、それは我の話が終わってからだ』
簡潔な答えをありがとう。じゃあ、さくさくとメンドイ話とやらを終わらせよう!
『主よ・・・考えが声に出ておるのだが・・・』
呆れた声で、俺にツッコミを入れる『鳥』。
むぅ、『鳥』に突っ込まれるとは・・・・不覚!
『まぁ良いか。主も望んでいるのだし、早速で悪いのだが話をしよう』
そういうと『鳥』は真剣な眼差しで俺を見つめた。
『先ほども名乗ったが、我は『南方』―――すなわち『南』の方角を守護し、『炎』を司っている。この世界に存在する、主が呼ぶところの『精霊』といった者たちのまとめ役の、さらに上の『管理者』といったところだ。我のほかにも三方―――『北』、『東』、『西』をそれぞれ守護するものたちがいるのだが・・・まぁ、あやつらのことは後々話すして、実は早急に決めなければいけぬことがある』
なるほど、ね。目の前にいる『燃える鳥』は、この世界の魔法の源―――『精霊』たちの上司も上司。副社長クラスってことか。しかも、それがあと『三体』もいるとは・・・恐れ入るねこりゃ。
「その前に一つ、聞きたいんだけど・・・」
『なんだ我が主よ。あまり時間はないぞ?』
鳥が不思議そうに首をかしげる。
「そもそも、なんで俺が『主』なんだ?」
当然の疑問。なぜ『俺』が『主』なのか?
別にほかのヤツだって良いと思うんだけど・・・。
『それは、主が我の『存在』を『認識』したからだ』
「存在の、認識・・・?」
いや、まてまて。お前普通に気配出してただろ?
『主はなにか思い違いをしているが、そもそも我々『精霊』と呼ばれるモノたちは、人種族はもちろん、ほかの種族にも存在を『認識』できるものはいない。ましてや我のような最上級のモノになれば、まず無理なこと。なかにはエルフや妖精種といったもののなかで、感受性の高いものが我らの『存在』を『認識』するが、それも本当に微々たるもの。主のように、『存在』を『完全に認識』するなど、あり得んことなのだ』
・・・・・・ん? あり得ない・・・だって!?
「じゃあ、俺はなんで『認識』できるんだよ!?」
『それは、主の『魔力』が『魔術』といったものに使用されるものとはだいぶ違うからではないかと思う』
「・・・『魔術』に使われるモノとは違う『力』ってことか?」
『鳥』の説明に俺は質問で返す。
じゃあ、なにか俺が持っている『魔力』は、『魔術』には使えないってことか。
『そう。主が持っている『魔力』は、我々『精霊』の持つ『力』にすごく似ておる。むしろ同じと言っても過言ではなかろう。そのため、申し上げにくいのだが、主は人種族などが扱う『魔術』は使えんと思う。いやむしろ『魔術』自体が主の『力』に耐えきれず、消滅するだけだ』
俺は『鳥』の説明に呆然とする。
そりゃあ、こんな魔法のある世界に生まれ変わってきたんだから、使ってみたかったんだよ魔法を・・・。
でも、それが使えないなんて・・・・・・あんまりだ!!
『これは推測だが、たぶん主がこの世界とは『異なる世界』から来たのが原因ではないかと・・・』
「・・・っ!?」
こいつ、今なんて言った!?
「・・・・・・なんで知ってる・・・」
『我はこれでもこの世界の一端を守護する者。知っていて当然のことだ』
『鳥』はそう言うとふんと威張ってみせた。
恐るべし『鳥』!
『問答は終わりか? 終わりであるならば、早く決めて頂きたいことがあるのだが・・・・・・』
『鳥』が、少し焦りながら話す。
時間がないのか、すこし急かしているようにも思える
「そう言えば、さっきも時間がないとか言ってたけど、なにを急いでいるんだ?」
『名だ』
「菜?」
葉っぱ?
『違う。我の名前だ。早く我の『名』を決めんと大変なことになる』
そう言う『鳥』は、本当に焦っているようだ。
「なんでお前の『名前』を決めないと、大変なことになるんだ?」
たかが『名前』なんて・・・
『『名をつける』ということは、我に『名を与える』ということだ。『名』を決めることによって、初めて『契約』は完成する。もし、『名を与える』のが遅いと、『契約』は失効となり、主の身体は、吸収した我が『炎』によって、その身を内側から焼かれて死ぬことになる』
「焼かれて死ぬっ!? なんだその物騒な『契約』は!? 第一、そっちが勝手に『契約』してきたんだろうが!?」
内側からミディアム! なんてシャレにもならねぇ!!
『『契約』自体についてのちほど詳しく話すとして、『契約』することについてはこの世界の決まりだ。誰も覆すことはできん』
そんなの押しかけセールスみたいなもんじゃないかよ!
「さぁ、我が主よ! 我に『名』を!!」
俺の心の叫びもなんのその。『名』を迫ってくる『鳥』
・・・ええいっ! こうなったら、前の世界にいたとき、ちらっと歴史の教科書でみたアレにしよう!
・・・なんか雰囲気とかも似てるし。
「分かった! お前の『名』は―――」
俺は半分ヤケクソ気味になりながら叫んだ。
「『朱雀』!!」
「『南方炎帝 朱雀』だ!!」
『承知!!』
『鳥』---『朱雀』は、歓喜の声とともに、その巨体を、羽を広げる。
『我が名は『朱雀』。我が主より賜いし『名』を持って、主を守護する者とならん!』
その声とともに、朱雀の姿が輝きだし、その眩しさに手をかざす。
そして、朱雀の姿がピカッとひときわ輝くと同時に、
俺の意識もブラックアウトしたのだった。
分かる人には分かりやすいほどの名前だなぁ