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第三章 ~運命の始まり~③

第三章のラストです

ついに出会ったリオンとイリアス。彼らを中心に物語が動き出す。そんなイリアスに……運命?



 いつの間にか夜が明けて、日の光が窓から入り、二人を照らしていた。


 リオンは目を開けていた。「ここは……」


 ふと隣を見れば、少女が小さな寝息をたてて眠っている。少女には誰かが毛布をかけてくれたようだ。その毛布からはみだしている小さな手が、自分の手に重なっていることに気づき、すっとその手を引いた。


 大雑把に辺りを見まわしながら、リオンは昨日のことを思い出すのに随分かかってしまった。


「そうか…俺は…」


 体を起してみたが、体に痛みが走り、つい声をあげてしまった。だがとなりではそれに気づかない少女が、いまだに眠ったままだった。


「…目が覚めたのか」


 ガタイのよさそうな男が扉を開けて入ってきた。このタイミングの良さは、やはりいつもと変わらない。シェルミアが温かいミルクと、替えの包帯などを持ってリオンに近づいてきた。


「あんたは…」リオンは体が動かないので、されるがままに翼の包帯を替えられた。痛みがいまだにひかなかったため、睨みを利かせることで、警戒を強めていた。だがシェルミアはおかまいなしに処置をし続けた。


「私の名はシェルミア。このアヌシュミール国の一兵士だ。普段はそこに眠るこの国の王女イリアス様の護衛を務めている」

 

 リオンはまた隣で眠るイリアスへと視線を移した。「王女……」そしてちらりとその肩の傷にも目をとめた。曖昧な記憶のなかで、その傷を負わせたのが自分であると分かるのに、数秒とかからなかった。


 目の前に差し出し続けているが、まるで受け取る気配のない温かいミルクをそばにある机の上に置き、シェルミアは言った。


「目が覚めたら、国王が君と話がしたいと言っていた。鳥人間(ホルス)がこの国…いや…この世界にいる時点で大騒ぎになる問題だ。幸いなことに、昨晩私が調べたところ、君を見たものが誰もいないので、皆にとって今は普通の一日が始まっているのだが、他の……一部の者にとっては、今日から歴史が変わるやもしれん。そして君のこれからについても……」


「これから…か」リオンは少しうつむき加減にそう言った。


「リオン…と、そうだったな」シェルミアがふと包帯を巻いているその手を止めた。


「生憎だが、今ここにいる以上、我々としても話したいことや聞きたいことが山ほどある。この国の、このような場所に現れたにも関わらず、公にでていないことが奇跡にも等しい。今や内密に事を進めようとしているが、それでもこれは国の重大事件だからな……事情を詳しく聞かせてもらいたい」


「俺は…」リオンは眉をよせた。


 そんなとき、リオンの隣でイリアスがもぞもぞと起きだした。目をこすりながら、その場を見上げると、その目がリオンと合った。一瞬何も思い出せないイリアスだったが、すぐに昨晩の出来事を思い出して、声を張り上げた。


「リオン、怪我は? もう大丈夫?」イリアスが傍で飛び起きて、リオンの顔のそばにぐいと近づいた。驚いたリオンは警戒し、少しあとずさる様を見せたが、それだけでイリアスには昨晩とはもう違い、大丈夫だと確信したらしく、笑顔を見せた。「よかった」


 シェルミアの方へと近づき、リオンの翼の様子をうかがった。「治りそう?」


「さすがに鳥人間(ホルス)の手当となると……。私も全力で処置を施しますが、今はなんとも――」


 シェルミアは困った顔をして答えた。イリアスもそれを聞いて苦い顔をすると、小さく呟いた。


「私が魔法で治せればいいのに…」重々しく指輪に手をあてながら、イリアスが自分の力のなさにしゅんとしたことにリオンは目がいった。


「あんた…魔法が使えるのか」それはまるで、今まで魔法を使うところを見たことがあるような聞き方だった。魔法と聞いてもまるで驚く気配すらなく、それが普通に存在するかのように。

実のところ、リオン自身でも驚くことでもあったが表情には決してださなかったが。

 

 イリアスはシェルミアと顔を見合わせたが、シェルミアは何も言わないのでイリアスはそのままに話した。


「ええそうよ。でも、使えるというよりはいつか使えるようになる、くらいかも知れない。今までだって無意識に使っていたみたいだから」


「そうか……」しかしリオンはそれ以上何も言うことがなかった。


「っつ!」そんな時、リオンは突然激しい頭痛に襲われた。リオンは頭を押さえ、声にならない悲鳴を上げていた。


「リオン! どうしたの?」イリアスが手を差し伸べようにも、迂闊に触れることはできなかった。が、その痛みも一瞬のことだったようで、すぐにおさまったようだ。


 頭の中にあるもやもやが一気に爆発したかのように、まるで体中をめぐる血が煮えたぎるようなその痛みは突然やってきて、そして数秒たらずで消えていった。

息のあらいリオンは、「さわるな…」と言い、近くにいたイリアスの肩を自分から遠ざけた。


「その調子では当分動けないだろう。ここから出すわけにもいかないな」シェルミアがリオンの目を見てはっきりと言った。


「それにたとえ万全な状態であったとしても一歩外にでれば大変な状況なのに、それではますます……。しばらくはここにいてもらうことになるだろうな」


「なんだと?」リオンはにらみ返しながらはきすてた。


「ただの怪我人というわけではないんだ。もしもこの国で勝手なまねでもしてみれば、どうなるか分かるだろう。牢獄につながれたくなければおとなしくしていた方が賢明だ」


「勝手なまねだと? なら人間は特別か。この翼の傷が、お前たち人間の勝手のせいで負わされたとしても…まだそう言えるのか?」


「なに?」

 この言葉は、さすがのシェルミアもたじろぎを見せずにはいられなかった。が、それ以上にイリアスにとってもショックの大きい言葉だった。イリアスは口を覆ってリオンを見つめた。


「い…一体誰がそんなことを…」

 だが、その答えを聞くことは無かった。

「そのへんにしておきなさい。君は口論をするためにこの国に来たのか?」


 その時、ミディウスが部屋に入ってきたのだった。そしてその姿を見たリオンは突然態度を変えた。ベッドを飛び起きてミディウスを凝視した。


「ゼ…ゼルセウス! どうしてここに?」そう言うとリオンはまた頭を押さえ、ふさぎこんだ。

先程の頭痛の波がまた来たようだ。


 そこにいるイリアス、シェルミアは頭痛に苦しむリオンをひどく心配したが、しかしそれ以上にリオンの口から、〝ゼルセウス〟という単語がでてきたことの方が驚きを隠せずにいた。


 しかしミディウスただ一人が、驚きの表情を見せず、何かを確信したかのように一言つぶやいた。


「やはりそうか…」

 ミディウスはリオンに近づき、塞ぎ込んでいるリオンを見下ろした。その背中では見えないところで、冷や汗すら流れていた。


「君はゼルセウス様に会ったことがあるのだね?」

「!?」


 イリアスもシェルミアもミディウスの言葉に驚き、はっと顔を向けた。「それはどういう……」

 

 イリアスの疑問を無視し、息の荒いリオンに向けて、さらにミディウスは続けた。

「昨晩からいろいろと文献を調べさせてもらったよ。この国にのみ残っているものだがね」


 ミディウスは片手に持った本をわざとらしく見せた。それがきっとあの本であるとイリアスは思った。


「そして分かったことはいろいろあった。ずいぶん昔に読んだものだから私としたことが、忘れてしまったようだな――直結に聞こう。君は不死鳥〝ポイニクス〟だね?」


 この言葉に、リオンの体がピクリと反応した。

 先日と合わせ、人間からその言葉を聞いたのは二度目だったからかも知れない。

目を見開き、先ほどとはまた違う、そんなどこか威厳さえも感じとれるような風格を一瞬見せた、が言葉はいっさい発さなかった。


 数分とそのままの時間が流れた。ミディウスもその答えをじっと待つようにリオンの眼を見続けた。

 そうだ、とも言わず違うとも言わずに、リオンがまるでただ感覚的にミディウスの心の内を探っているかのように思わせた。


 リオンはミディウスの目をしかと見つめると、しばらくしてから言った。「ここは、どこだ?」

 

 質問に対して質問で聞き返されたが、ミディウスは平然と答えた。

「アヌシュミール。シュメール大陸の最も西側に位置する国だ。今は亡きかつての鳥人間(ホルス)の国からは、遠く離れているだろう。行くとしても…今でははるかに険しき道だ。人間にはな……」


 そう言いながらミディウスはイリアスをちらと見た。が、イリアスはそれには気づかずにいた。

「アヌシュミール…」


「君はどこから来たのだ?」一人考えるリオンにミディウスはぶしつけに聞いた。


「…わからない。何も覚えていない」今度は質問に答えた、がそれは意味を成すものでは無かった。実際なぜ自分があのような場所にいたのかすら謎だった。あの氷の洞窟を…でたのだ。そうだ、そして…そのまま飛び続け…ここにたどり着いたというのだろうか。やはり思い出すこともできない。覚えていない。


「では、自分が不死鳥(ポイニクス)だということも?」


 ミディウスは眉を寄せながら顔を覗き込むように言った。リオンは何故か悲哀じみた表情を浮かべて、静かに小さく頷いた。


「やはりそうか…」

 ミディウスは他の者には分かることのない、自分のみ事の流れを認識した。


「それでは……ここに来たことに、何か意図があったというわけではないのだな?」


 まるで何かを危惧するかのように不穏の口ぶりで綴るミディウスに、リオンはさすがに疑問の表情を浮かべざるを得なかった。一体この男は何を言いたいのかと。


「王族で渡り継がれている秘蔵書の中にゼルセウス様の予言ではないかとして一つ、こんな節も書かれていた……。立志式も終えたイリアスになら聞かれても何も困ることはない」


 そしてミディウスはちらとシェルミアの方を見た。王族のみと言ったミディウスの言葉に、シェルミアはうなずき、部屋を出て行った。

 

 ミディウスはゆっくりと丁寧に言った。


「ある予言の一節だ。時代の節目に現れるその事柄をこう記している――」



   遙かなる時を超えて

   赤き翼を授けられし者

   己の記憶を探し求め

   再び地に降り立つ時

   それは邪悪なる化身をも導く誘い

   失われた力

   猛々しき赤き翼の

   己がその志は聖でもあれば邪でもあり

   地の危機に立ちこめる暗雲の

   世界を混沌へと陥れる未来は

   秘術の国の姫に左右されん

   その者聖なる地へと歩む時

   千年の記憶の扉が開かれん……



 言い終わるとミディウスは一息間を置いた。

「私はゼルセウス様ではないが、これはゼルセウス様が見た予見を書き記したものだとされている。これによれば絶滅したとされる鳥人間(ホルス)も地上にまた現れることを予見しているわけだ。信じられないことだがな。まるで我々はこれを信じようなどとはしなかった。そう、この先にもいろいろと書いてあることを…。何千年もの記憶を失った赤き翼、ポイニクス。そして…」


 ミディウスはイリアスを見た。


「イリアス…お前もかの地に行かなければならないとあるなどということを……誰が信じられようか……」


「!?」


 イリアスは自分の耳を疑った。

 何故自分のことが古代からの予言書に記されなければならないのか。

 今、確かにイリアスの名を口にしたかどうか、どうか嘘だと言ってほしいというようにイリアスはミディウスの次の言葉を待った。が、期待とは裏腹に、ミディウスの口からはもう一度同じ言葉が繰り返された。


「ここに記されているものが、良きことであると解釈できるならば、私とて気にかけることではなかったのだが、この文献が王族の間でのみ知られる所以がそこにある。誰が見てもこれは、この国の危機を書いたものだ」

 

 ミディウスは力いっぱいにその拳をにぎりしめた。


「君は今再び地に降り立った。人間の目に触れたのだ。

 そしてそこでイリアスに出会った。

秘術の国の姫が示すのがイリアスだということははるか昔から予言されていたということになる。

秘術の国が示すのがこの国アヌシュミールだからだ。

この時、この地に君が現われてしまったこの事実を受けとめるとすれば、後にかかれていることも、そしてこの一節だけではなく、その他のこともあながち……信じられないと言い切ることもできぬ。

今だからこそ秘蔵の意味が明かされたと言えるが、だがこれだけでは未だに何が何だか分からないことも事実。

ゼルセウス様が一体何を見たのか、世界を混沌に陥れるとはどういうことなのかは全く記されていないのだから。

そして幸いなことに今はまだ、国の危機は訪れていない。

これからもそうやすやすと訪れさせはしない。しかしながらこの一節にある邪悪なる化身を導くとは? 赤き翼ポイニクスであろう君が、聖でもあれば邪でもあるという意味も分からぬ。これは我々人間にとって脅威となるという意味なのか……。

だが実際それは今ここにいる。もしそうならばこうして話をすることもすぐにやめるべきだが、その未来がイリアスに左右されるというのもさっぱりわからない。

話してくれないか? リオン…君が覚えていることを…」

 

 リオンはミディウスの目を見た。が、警戒しているのもまた事実だった。


(俺が…赤き…翼?)


 リオンは自分の翼を見た。そのほとんど白い翼を……。


「何故、俺がそのポイニクスだと言える?」


「君がここに存在してしまっている以上、既に私は君がポイニクスであることを疑う気はない。それとも、他にポイニクスを名乗れるものに心当たりでもあるのか?」


 何も覚えていない、それがリオンにとって今や最大の恐怖だった。

リオンは首を横にふった。


「俺が目覚めて、数日。ここに辿りつくまで、何かを目的に来たわけでもない。そしてそれよりも前のことは一切覚えてはいない。」

 

 嘘だった。覚えていたことはいくつかある。

 いや、むしろ思い出したことがいくつかあると言ってもいいかも知れない。頭痛が起きるのはそういう時だった。

 かつての世界を巻き込んだ人間と鳥人間(ホルス)との戦争、先ほど口走ったゼルセウスの顔、そしてリオンが目覚めたときにいた人間の中の一人、それがアグリムに似ていたこと。


 だがどれもうろ覚えだったことは間違いない。ゼルセウスのことだってそうだ。

 あの男が何を見て何を言ったかなんて知る由もないことに変わりはない。

 思い出せることが断片的すぎて何一つ自分のことが分からない。むしろ断片的すぎることが逆に自分自身にとって負担だった。

 ポイニクス…それすらリオンにとっては聞きなれない言葉に思えた。第一、これらのことを人間に話す理由が無かった。


 だが一つだけわかることはあった。邪悪なる化身……それはドラゴンのことだと。それがまた呼び出されるということになるのだろうか? それはリオンにすら疑問に思うことだった。何故なら――。


 リオンが聞きたいことがもう一つだけあった。


「……アデマ遺跡というところを知っているか?」


「!」ミディウスはリオンの突然の質問に驚いた。何も知らない者から地名を聞かれれば当然だった。「何故そのような場所を…?」


 あの時の人間が確かにそう言っていた。そこに行けば、もしかしたらわかるかも知れない。自分のことも。ドラゴンのことも。心の中だけでそう言いながら、リオンはじっとミディウスを見つめた。


 ミディウスはそれ以上の詮索をやめ、きっぱりと口にした。


「その体では行くのは無理だ。そもそも今の君が言ったところで――」


「…知ってはいるんだな」ミディウスの言葉を中途に遮るほどにその力は強かった。


 ミディウスは力強い眼差しでリオンの瞳を睨むようにして見た。その真意は如何ほどのものか確かめたかったからだ。だが、リオンも負けじと睨み返した。そしてミディウスはゆっくりと、はっきりと頷いた。


「教えてくれ」リオンはすかさずそう言った。


「無理だと、そう聞こえなかったか?」


「無理だろうと、行くべきところはそこなんだ」

 一歩も引く気はなかった。人間の王と鳥人間(ホルス)の王。覇気はかろうじて互角だった。むしろ劣っていたのはミディウスの方だったかもしれない。


「徒歩で行く気か?」


 ミディウスは眉間にしわを寄せながら聞いた。リオンは自分の翼を見た。その翼ではもはや飛ぶことは不可能なのは明らかだ。リオンは頷いた。


 その目が背負うものがあまりにも大きく、そしてそれをこなそうという強い意志が陰に見えた。そう…ミディウスにはそれを拒む理由はもはや無かった。


「時期がくれば……」ミディウスは言葉を一度切った。が、ためらいながらも話を続けた。


「命の淵にたたされ、それを乗り越えた時、人間の精神は大きく成長する。些細な事も然り……。だが一度きりなら、運がよかっただけかも知れない。しかし二度目なら? 偶然が重なることもよくある。ならば三度目なら? 誰もその力を疑いはしないだろう」


「一体何を言って…」リオンがそう言ったが、ミディウスは続けた。


「イリアスはもう既に一つ目の危険を乗り越えた。しかし王族に……魔力を持った継承者に与えられる試練は続く」

 

 試練という言葉に、イリアスは強く反応した。もしかして、この前言っていたあの続きの話のことだろうか。ミディウスはイリアスの身に着けている指輪をさした。


「それはどんな力を持ってしても、はずすことはできない。ましてや壊すことなどとうてい無理な話だ。一つだけの方法を除いて」


 そこでやっとリオンが話の筋をつかみ、口をはさんだ。

「その方法が、アデマにあるというのか?」


「…その通りだ」

頷きながらその場を歩き回り、そして壁にかかっている一枚の絵の前に立った。


「この絵にかかれている場所が…そこにある」


 それはまるでどこかの城のような、しかし確かに人間が住んでいる雰囲気ではないような、どこか神秘的なオーラを感じさせる神殿の絵だった。


 イリアスの部屋を除き、城のほとんどの部屋にこういった様々な絵が飾ってある。それは隣国の絵であったり、国のいたるところの美しい絵であったり。そして、王室には初代国王からミディウスに至るまで、全ての歴代国王の絵が飾られていた。


「正しく言えば、アデマのその先。オフィンポス山に存在するエレシス神殿。指輪をはずす鍵となるものが、ここに存在する。

はずさなくともいつしか魔法は使えるようになるらしい…が、はずさなかったご先祖様はいない。不安定な魔力がもたらすものが多いに危険であるからだ。そしてその力で国を守るため…自分を賭けたからでもある。

それにその指輪に代わるものはこの世に二つとて存在しない。後の世に残すためには仕方のないことなのだろう。

なにより、魔法のその意味がわかる。そうティリーナは言っていたよ。

 指輪をはずすために行かなければならないその試練。イリアスが向かうことは決まっていたことだ。

そういう意味ではないがな。だがそれも当分先のこと。いまの状態ではとうてい辿りつけぬ道のりだろう。だが危険だが、行けない道のりでもない」

 

 ミディウスはリオンを見つめた。


「今はまだその道のりを教えることはできん。だがゆくゆくは…話してやろう。イリアスにも話さなければならないことだ。それまでしっかりと体を休めるがいい。記憶のことも然り…。もし思い出したことがあれば…、少しでもあれば、聞かせてくれるとありがたい」

 

 ミディウスは窓の外に視線を寄せた。儚くも、自分の娘に何かを託さなければならない運命にあらがう術はないものか、そう思わせる眼をしていた。


「世界の脅威というものが何もわからない以上、我が国も下手には動かん。偵察隊も守備隊も動きようがなかろう。なのに――」


 ミディウスはリオンに向き直った。「今一度聞こう。何故君はアデマに向かおうとする?」


 やはり詮索しないわけにはいかなかった。


「自分にメリットがなければ鳥人間(ホルス)は動かない種族ではなかったか?」


 リオンは黙り込んだ。未だにミディウスの事を信用しきったわけでは無いのだ。情報が引き出せない以上、情報を与える必要はない。ミディウスの言う通りだった。


「貫く意志は立派だな。そう本にも書いてあったよ」


 ミディウスは手に持っていた本を机の上にパタンと乗せた。


「猛々しいというのがどうにも引っかかるがな。君は、まるでその様には見えない。まあ……君が現れたのがこの国で幸いした。他国では――」

ミディウスはリオンの翼を指さした。「こうはいかんからな」


 まさにその通りだろう。もし他国にでも現れようものならば、怪我などそっちのけで、むしろ

何をされるかもわからない。アヌシュミール……いや、イリアスがいたからこそ、リオンは今ここにいられるのだった。


「不死であろうとも、傷は残るものなのだな」ミディウスは翼の傷と、その脇腹の傷に視線を移しながらそう言った。


「まあ、最も幸いなことは、君が話すらできない程に記憶がない訳ではなかったことかな。安心していい。ここに君の存在を脅かすものはいないだろう。君がおかしなことをしない限りだが。保護……というほどの事まではしないが、ある程度は監視させてもらう。これが我々の精一杯の自由だ。怪我が治るまで、ゆっくりこの国で休んでいられなさい」

 

 ミディウスはそう言うと、部屋を出て行った。が最後に一言、


「イリアスも。疲れて倒れる前にしっかりと休みなさい」と付け加えた。






さて、次から第四章が始まります。四章の(おそらく③)ラストにはついに彼が登場。一体あんたは誰なんだ? 第五章につながる章です。ご期待ください!

ここまで読んだところで感想なんか書けやしないでしょうけれども、どうか長くお付き合いくださるよう、僕は切に願います。短編の方も(いっこしかないけれども)よろしくお願いします!

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