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第二章 ~魔法の指輪~①

前回の投稿を経て、僕の書き方では一話辺りの字数が多く、読者の期待にそぐわないかもしれないと自身が感じたので、今回から一章ずつを他の作者様方のようにさらにわけて投稿することにしました。以後よろしくお願いいたします。

第二章 ~  魔法の指輪 ~




 城下町ではいつもなら、客を呼び込む店の主人たちの行き交う声や、最近の作物の出来栄えについて立ち話をする人々でにぎわっているのだが、今日だけは違った。


いや、それらの声がまったく無いというわけではない。

その内容がいつもとは違うだけだった。そしてその話題はすべて共通して立志式の話題で盛り上がっているのだった。


 とある店では今日は開くこともなく、そしてその中少しでも営業しようとするものでも、昼前にはたちまち店を閉め始めていた。


そもそも、売り物があっても、買い手が一人もいないのでは話にならないからである。

街のなかは陽が昇ってくればすでに人影はいないに等しかった。


「これから行くのですか? みんなもう早くから城へ向かいましたよ」魚屋の主人が、隣で急いで店をたたんでいる小太りで気のよさそうな肉屋の主人に言った。


魚屋の主人はほとんどないにひとしい商品を店の前に並べ、それでも店を片付ける気はないようで溜め息まじりに腰かけた。


「ええ。さすがにこんなめでたい日に、行かない手はないですよ。イザルアさんも早くしないと、式が始まってしまいますよ? それでなくともイリアス様のお姿が見える位置を確保できるかどうかって時間なのですから…」


 しまい忘れを確認した肉屋の主人は、そばに置いてあった重さを計る道具が、まだ出たままになっていることに気がついた。


慌ててそれを中にしまおうとしたものだから、その勢い余って傍の柱に足をぶつけてしまい、涙をこらえながら、その痛みのあまり、計りをすぐそばの適当なところに置くことにしたようだ。


「いやあ、私としても行きたいところなのですけどね。これからミーネロの奴が新鮮なやつをあげにくるものですから、それを待っていなければならないのですよ。一人でやらせて店を潰されてはたまらないのでね…早く帰って来さえすればすぐに私も行けるのですが…」

魚屋の主人はそう言うとまたまた大きく溜め息をついた。


予定ではギリギリで向かう事ができると思ったイザルアの算段だったが、ミーネロがここまで時間をくうとは思ってもいなかったのだろう。


店を放りだして向かいたいとさえ思う程だったが、やはりそんなことはできない。

だが、イザルアのその言葉を聞いた肉屋の主人は不思議そうに目を見開いて驚いて言った。


「え! ミーネロだって? 私もついさっきまで明日の分やなんだの仕入れをしていたのですけどもね。その時ミーネロが城の方へ走っていくのを確かに見ましたよ。すごく嬉しそうだったものですから、てっきり式を見に行くのだとばかり思っていましたが……」


肉屋の主人の言葉をイザルアは口をだらしなく開けて聞いていた。

それがいったいどういう意味なのかを頭の中で整理するのに少々時間がかかり、二人ともそのせいでしばらく動くことができずにいたが、やがてイザルアはすぐに思い立ったように店をたたみ始めた。


「少し待っていてもらえますかグラムロさん。私もすぐに準備いたしますので」魚屋の主人は早口にそう言うと、ずかずかと店の中へと入っていった。

 雑なやり方ではあったが、それでも一応店はすぐさま片づいていった。


もともと商品らしい商品は少なかった上に、とにかく店のなかにものを詰めておけば安心だろうという考えに加え、自分の息子への憤慨な気持ちもそこにぶつけたのだろう。


その光景を見て、肉屋の主人は苦笑いをしていたが、息をきらせて魚屋の主人が「さあ、行きましょうか」と言いながら出てくると、大きくうなずいた。

二人は人通りの全く無くなってしまった城への道を、一目散に走っていった。

どの店も既にずいぶん前から閉まっていたので、この二人でこの道にいるものは最後ではないかと思われる。


「それにしても、何で今日なのですかね? イリアス様もまだ十七だっていうのに?」

魚屋の主人が走りながら話しかけた。走る速度だけは緩めないようにと、途切れ途切れだったが、なんとか聞き取ることはできた。

同じ様な口調でグラムロは答えた。


「本来ならば来年のハズだものな。だがまあ王様には何か考えがおありなのだろう。昨日街で聞いた時は驚いたよ…」

「私もです。それでもきちんと一日もかからず国中に知れ渡っていますよ。国の誰もが待ち望んでいた日ですからね。しかしイリアス様にとっては…」

「大丈夫だよ。イリアス様のことだ。きっと無事やれるさ」

そうは言ってもやはり二人ともに内心は穏やかではなかった。


「しかしティリーナ様の時は二週間もかかったんですよ?」かろうじて聞こえるほどに不安げなか細い声で、イザルアは言った。

「……」

「それにその後に待っているのは…」

肉屋の主人は少し黙ってからイザルアの言葉を制して、一言ずつ丁寧に言った。

「イザルアさん……」魚屋の主人はちらっと肉屋の主人の顔を見た。


「――どんな結果になろうと、わたし達の姫君はイリアス様なんだ。国民なら国民らしく、信じて見ていればいいのではないかな? 助けが必要だと言われたら、手を差し伸べてあげればいいだけだ」

肉屋の主人はにかっと歯をむきだしにして笑った。

「ん…そうですね」魚屋の主人もにこっと笑った。


「それに…イザルアさんがいくら心配しても、姫のお気持ちが変わるとは思えませんよ」 

そのグラムロの言葉と、光って見える白い歯のおかげで、魚屋の主人は一瞬言葉を失ったが、確かに……と複雑な気持ちも入り混じりながらうなずいた。

二人はまた、全速力で城へと走った。






 城の前は、十分に広い場所になっているのだが、今ではそれも街の人々によってごったがえしていた。

花壇に入ろうとしてしまう子供たちを兵士たちは必死になって追いかけている。


 日の光がちょうど頭の上から降り注ぎ、心地よい風がなんともすがすがしく、これ以上ないほどに気持ちの良い日だった。


 イリアスはそれらの光景を窓際の椅子に腰掛けながら見下ろしていた。

思い返してみれば、アヌシュミールにはこれほどの人がいたのかと仰天するような人数が城の下に集まっていた。


この時点ですらイリアスは自分の世界の小ささに恥ずかしさを感じずにはいられなかった。

しかし当然そのすべての人を知っていることが、イリアスにとっての誇りでもあった。

小さな…けれど大切な誇りだった。

 

ふいにドアを叩いた音がしたかと思うと、ドアの外からシェルミアの声が聞こえた。

「姫様、そろそろ時間になります」


「ええ、今行くわ」イリアスは窓を閉めると、髪を結い、そしてドアをゆっくりと開けた。





連載開始してまだ間もない新米作者ですが、どうかこの作品への感想、ご指摘などございましたら、その小さな光を届けてくださると幸いです。よろしくお願いいたします。

僕の都合ではありますが、おそらく五章程度まではさくさく投稿することと思います。


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