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第七章 ~廃屋の薬師~①

本当に、長い間の休みをいただいてました。休んでいたわけではありませんが、ペンが走ることはなく、スーツ姿で社会勉強を……どうやら現実よりも私の広げる世界で生き続けるほうが楽しいようです。それでも頑張らなきゃならない運命は、どんな物語の主人公も同じなのかなと。ようはなんでもかんでも楽しく生きろということかな。第七章お待たせしました!

第七章 ~ 廃屋の薬師 ~




 三人は平原を黙々と進んだ。だんだんと見たことのない草花が目立つようになってきている。もう自分たちの知っている場所からはかけ離れた地域にまで来てしまっているのかと、そんな顔をイリアスは見せていた。


 シルヴァザードと言えば、アヌシュミール、ペネトリアに比べて、大陸の中ではそこまで大きな街とは言えない。何故ならば旅人ならば知っておかなければならないことであるのだが、何しろそれらや辺りの街に比べてあまりにも無法者たちが多すぎる地帯であるからだ。


 まともな者がいるとすれば、それは荒くれ者たちをもてなす側の人間である。さすがの無法者といえども、酒を注いでくれる者に手をかける奴などいやしない。むしろそういうことがこの地では逆に名を汚すことにも値するのだった。騒ぎの絶えないこの街に、普通の者たちならば避けて通るような場所なのだ。


 もちろんそういうものが気に入るもの好きもいることにはいる。そう、だからこそ逆に、外へは輸出しない技術も多々あるものだ。リオンが今必要としているものはそういうものだった。


 イリアスがリオンの腕を見て言った。

「リオン……ごめんなさい、力になれなくて。私がその傷を治す魔法さえ使えれば――」


 リオンの左腕は、その外見こそ、さしてみすぼらしい姿に変わっている訳ではないのだけれども、もはやまるで肘を曲げることすらできない程に固まってしまっていた。ツルに触れていた部分には、少しばかり赤く腫れものができていたが、それが痛いとは感じない。しかし痛いというよりも、それ以上にじわりと熱く感じる、腕の内側の方が厄介だった。だがそういうことを人間に気遣われたくはなかった。


「気にするな。あんたのせいじゃない」

イリアスは突き放すようなリオンの言葉に、心配するもそれ以上は何も言わなかった。


「それにしても、まさかあんな森だったなんて。木が動くなんて思ってもみなかったわ」

 イリアスがちらりと後ろを振り返って言った。だがもう森の出口はおろか、その片鱗も目に届かない。


「木だって動くさ」アルクレアが皮肉にも続けた。「まさかあんた、今まで見たものしか信じない性質か?」

 アルクレアが嘲笑して言ったので、ついイリアスはムッとなって反論しようとしたが、アルクレアがそれを遮って言った。


「知識っていうものは、増えていくものだろうがよ。拒んでいたら勿体ないぜ。いつでも受け入れる覚悟は持ち歩くもんさ。それこそ、外にでるっていうことはそういうものさ」

 アルクレアはそう言い切り、しかしまた前へ向いて進み続けたので、イリアスは何も言うことができなかった。


 いくらか進んでいるうちに、リオンはあたりにだんだんと草花が見えなくなってきていることに気づいた。生えているものと言えば、暑さや乾燥に強そうな雑草ばかりだ。平地だった道は、今ではほとんど荒地に変わっていた。側にはずっと昔には流れていたのであろう涸れた川によって削られた跡が岩に残っていた。


 朝靄はいつしか霧に変わっていた。しかしそんなことは気にも留めていなかった。今リオンが気になることと言えば、石になっている左腕よりも、ドラゴンのことでもなく、肩にかけられているリオンの剣のことだった。剣を手に取った瞬間の記憶がいままたリオンの頭に蘇ってきた。初めてとはどうも思えないその握っていた感覚が、いまもその腕に残っている。


「お父様がそんなすごい剣を持っていただなんて…」イリアスはリオンと一緒に収められている剣を眺めた。先程の炎は既にその剣から姿を消していた。


「すごいかどうかはまた別の話だが。小僧、その剣は街では絶対に抜くな――いや、これからもずっと……時が来るまでずっとな」

 アルクレアが珍しくリオンに向かって真剣に声をかけた。


「どうして? すごい剣だから?」イリアスが代わりに答えた。

「すごい剣。的を射ていると言いたいところだが……そんな単純な理由で小僧に忠告をするはずがない


だろう。そうならばそんなことを言う前にそいつを奪っている」


 リオンはこの言葉に少し反応して身構えようとしたが、アルクレアがその様子に嘲笑したので

手を下ろした。


「なぜならその剣は小僧、貴様にしか使えないものだろうからだ。誰にでも持てるものならば」アルクレアはイリアスを指した。「あんたのお父様がとっくに剣を抜いている」


 イリアスは思い出した。国王の寝室にかけられているこの剣は、今まで一度も鞘から抜かれた試しがないことを。しかしどうしてアルクレアはそういうことが分かったのだろう。ミディウスが今まで一度もその剣を抜いたことがないと……。


 イリアスが疑問に思った事をアルクレアは気付いたみたいだが、あえて何も言わなかった。

「国に伝わるものと言っていたが……本当のところどうだろうな。まあ、例えばいつからかが分からないとして――小僧。魔の森で貴様はその剣の威力を知らなすぎた。もしその剣の火の子が、街の者にでも触れてみろ。一分ごとに袋叩きに遭うぜ。力以上に思いあがれば…自滅するだけだ」

 アルクレアは前を向いてそれ以上一言も喋らなかった。


 そこからの道のりは、決して楽だとは言えなかった。傾斜が急だったりするわけではないが、上ったり下りたりと激しく、その上水分の補給もままならない。この乾燥した地域ではまるで生き地獄だ。馬も疲れているだろうが、それでも急がなくてはならない。多少は鞭打つことになろうとも、三人は出来る限り急いでシルヴァザードへと向かっていた。


 前を行くアルクレアは途中で止まった。「気をつけな。崩れやすいところだ」

 リオンはその下を見た。今昇っている岩棚のすぐ下には、蛇やら蠍やらがうようよと蠢いていたのだ。もしここで足場が崩れ下に転げ落ちでもすれば、それで死なずともそこにいるものの猛毒によって、どうなるかは誰でもわかる。リオン自身は大丈夫でも、リオンの前に跨っているイリアスはそうはいかない。リオンは馬の首を撫で、手綱を引いた。


 その岩棚もじきに、岩壁に挟まれてはいるが、緩やかな砂丘へと変わっていった。猛毒を持つ生き物たちも、さすがにこの辺りまでは生息してはいない。獲物となるものすらいないからだ。そしてそれがシルヴァザードのすぐ近くまでたどり着いていることを示していた。リオンとイリアスはもはやただただ水を飲めれば今は最高の気分になれるだろう。冷たいハッカ水だったらどんなによいだろうかと思うほどだった。そんなことをリオンは繰り返し、数時間と考えていた。


 だがリオンがそんなことを考えているうちに、アルクレアが突然何かに気づいた。


「――変だな、何かがおかしい」

「何かって、何が?」


 イリアスが身を乗り出したが、アルクレアはまるで無反応で足元を注意深く見つめていた。リオンもイリアスもアルクレアが見ている方向を同じように見ていたが、特に何かがあるわけでもなく、別段異常のない砂丘が続くだけだった。気づいた点と言えば、霧が少し晴れてきたせいで、岩壁の間からちらちらとリオンの顔に浴びせかける陽の光が気に食わないということぐらいだった。


 しかし、一人アルクレアがその中に何かを見つけたようだ。

「これは……」アルクレアが馬を下りた。そしてそこに広がる砂をしばらく探り、そして確かめるように辺りを見回した。「もしかして」


 アルクレアが手に持っていたのはほんの小さな木の棒だった。そう――この地域に生えるはずのない木の棒だ。そしてそれに付着している小さな鉄の欠片。そこに落ちてからまだそれほど日は経っていないだろう。もしかなりの時間が経っているならばこの大量の砂のなかに埋もれてしまうはずだ。


「どうしたんだ?」

 アルクレアは考える間もなく急いで馬に戻った。リオンもすぐに走りだしたアルクレアを追った。アルクレアの考えは予想できたものではなかったが、その現実はすぐに目の辺りにすることとなった。


 ついに岩山を抜け、景色が一望できるところへでた三人の目に入ってきたものは、黒い煙をあちこちからあげているシルヴァザードの街の姿だった。


「そんな!」イリアスが手で口を覆った。

 もはや手遅れだっただろう。すべてが破壊されつくしていて、街は原型を留めてはいなかった。


「この街もオークというやつらにやられたのだろうな」アルクレアが持っていた木の棒を思い切り投げつけた。


「そんな……だってオークは私の国を。それにあなたがほとんど――」

イリアスが驚いてアルクレアを見た。あれだけの数が、急いで来た三人より早く来て、その上街一つを焼き尽くし、壊滅させたとなれば……物理的に到底出来るはずもない。それこそ三人の馬よりも数百倍速い乗り物でもない限り。


「それだけの数がいたということだ。先を読まれたんだ。俺たちがここを通るという事がな」

「先を……?」


「あんたの国に送り込まれたものとはまた違う軍隊でもいたのかも知れないな」

 アルクレアが静かに街の入り口へと向かった。もはやそれすらも原型を留めてはいないことが見えなくても分かるが、しかしそれ以上に他の所から街に入れるとは思わなかった。


「あれだけの数がまだいるというのか?」リオンがまさかと言いたげな口調で言った。

「――おそらくは。もっと悪ければ倍ではすまない程だろう」


 イリアスがそれを聞いて恐る恐る聞いた。「それで、その……訪ねる方は…」

 アルクレアが流暢に言い返した。「ああ…それなら安心しな」しばらく間を置いてから続けた。「あの女は殺しても死なないような奴だからよ」


「女?」リオンが不審を抱いた。

「ああ、女だ。もっとも……化け物のような女だがな」

 アルクレアは何故かそれ以上話したがらなかった。





これだけの間をあけてしまって、どれだけの読者がいらっしゃるのかわかりませんが、今回はほんの少しだけ体裁を変えてみました。見づらいかもしれないですが。

第七章のほんの少しのアップとなりますが、まだまだこれからです。頑張ります!

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