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第六章 ~魔の森~④

以前の投稿が先月の5日となっていました。

……計算してみたところ、

2'419'200秒程読者をお待たせしていたようです。はい。

第六章の続きを始めます。





 イリアスは後ろを向いた。

 リオンを捕え損ねたツルが今度は一直線にイリアス向けて飛んでいった。それに伴って四方八方からも何本かが同時にイリアスを狙う。


 全速力の馬よりも早く飛んでくる、怒り狂ったように襲い掛かってくるツルを、イリアスはかわしきれない。たたみかけるように全てのツルがイリアスを襲った。

 

 リオンは無意識のうちに、アルクレアの忠告など無視して剣を抜いた。

 赤く光るその剣を手に、そして馬にもその思いが伝わったのか、これでもかと今までで最速の力をだした。

 寸前までイリアスを取り巻いている何本ものツルに、リオンは無我夢中で斬りかかった。と言っても一振りでよかった。  


 リオンを最初に狙ったそのツルを切り落とすことに成功した時、なんとその切り口からツルが発火したのだ。

 その一閃の、ほとばしる剣圧から、まるで螺旋状に炎が走る。


 驚いたことにその炎は、イリアスとリオンを取り巻くツルを飲み込み、それらすべてを灰と化し、ツルはイリアスを捕える前に力尽き、そのまま地べたにポトリと落ちた。

 イリアスはすんでのところでなんとか振り切ることができたのだ。

 

 しかしイリアスが無事かどうか、その様子はリオンには見えていなかった。

 飲み込んだ炎がさらに辺りに飛び火し、リオンの目の前に広がる轟々と燃え盛るツルとその煙によって一瞬にして視界が遮られていたのだ。


 それ故イリアスの方に集中していたために、そしてその剣を振り切ったときに隙ができたために、リオンは左から飛んでくるツルに気付くのが遅くなってしまった。

 ハッとそのツルの気配に気づき手を引っ込めようとした時にはもうすでに遅く、目で捉えた時に、そのツルはリオンの左手を捕え、がっしりと腕に巻きついたのだ。


「ぐ……熱っ!」


 その瞬間左腕のその箇所に激痛が走り、あまりの痛みにリオンは唇を噛み、その熱さに目をつぶったが、それでもなんとか耐えてその腕をぐいと前に突き出した。


 後からからみついてくる何本ものツルもひきちぎり、リオンの馬は煙の舞いあがっている中、真っ直ぐに駆け抜けた。

 未だからみついている数本のツルをぶらさげたまま、腕からはあまりの熱さに皮膚が焼け溶けて痛み、意識が朦朧としてしまったせいで、リオンは馬から倒れてしまいそうになった。


 そしてその瞬間にも再びツルがリオンめがけて一斉に襲い掛かってきていた。


「馬鹿が、乗れ!」すぐそばでアルクレアの声がした。


 目がぼやけてあまり見えていなかったが、アルクレアがリオンの反対のうでをむんずと掴み、強引に引っ張って自分の馬の前に跨がせた。


 力いっぱい掴まれていたようだが、腕の痛みのあまり、それ以外の感触など到底感じられるはずもない。

 危うく手綱のにぎれなくなったリオンは馬から落ちてツルの餌食になっていたところだっただろう。


 主人を失った馬は、その一瞬の迷いに捕われて、後ろの方でリオンに向かってきていたツルに飲み込まれていったのがリオンに見えた。


 馬は巻きつけられた箇所からパキパキという音をたてながら、まるで石のように固まってしまい、森に飲み込まれた。


「小僧に構うな! 走れ!」


 自分を助けてくれたリオンを心配してか、イリアスがその様子を見ていたが、アルクレアの檄が飛んだ。


 イリアスはうなずく暇もなく、前を向き出口に向かった。

 もう数十メートルというところに森の終着が見える。その出口も蠢く木々によって、もはやわずかな隙間しか無くなっていた。


 出口に近づくにつれ、その隙間が狭まっていくスピードも速くなっていった。


 閉じ込められたが最後、行き場のなくなったところでうごめく森に一瞬で飲み込まれ、そして三人は永久にこの森の中であの馬と同じような状態になって動けなくなってしまう。


 森は三人を絶対に外に出さないつもりだ――間に合うか。

 

 先にイリアスがそこから飛び出した。アルクレアとリオンも、もう十数メートルというところに迫っている。


 あと少し……。

 しかし後ろからはこれ以上ないほどに何百というツルが二人を取り囲んでいる。森は最後にこの二人に制裁を与えるかの如く襲いかかった。


 このままでは――間に合わない。

 

 リオンは最後にあらん限りの力を振り絞って、無茶な体勢から剣を振った。

 意識が定かではないが、無理やりにもがいた手に掴まれたままだった剣からはまたさっきと同じように炎の一閃が飛び、迫りくるツルを退けた。


 それでもその炎をかいくぐり、ツルが飛び交ってきたが、二人を狙うツルを避けて、そして二人はギリギリのところで森の出口を飛び出した。

 

 飛び出した数秒後には、たった今脱出してきた出口が轟々という音とともに完全に閉じていた。


 それでも木々と葉の隙間から追ってくるツルから逃げて、三人は安全なところまで遠ざかった。


 森から飛び出してくる何百というツルは、標的を見失うと、出口の辺りでうろうろさまよい続けていたが、やがて森の中へと帰って行った。

 

 もう追ってこないことを確認すると、三人は足を止めた。


 まるで雰囲気の違う、広い広い平原がそこに広がっていた。かすかに朝靄が立ち込めているが、たった今、三人がどんなにひどい目に遭ったかなんてまるで関係ないというように朝日が目の前から昇ってきていている。


 皆ひどい息切れをしているが、とりわけひどいリオンは馬から地面に倒れこむように降りて手をついた。そしてもう一方の手に持っていた剣を落として腕の痛みに苦しんでいた。


「リオン! 大丈夫?」イリアスがその様子を見て、自身も酷く疲れていたが、急いで自分の馬から降りてリオンへと駆け寄った。


「触れるな!」アルクレアがイリアスの腕を掴んで止めた。見ればリオンの手から皮膚が焼け溶けている音と、そしてリオンの馬を飲み込んだ時と同じように、パキパキという音を上げながら、やがてその腕が固まっていったのだ。


 動かすまいとせずとも、もはやピクリとも動かなかった。

 

 イリアスが落ち着くのを待って、アルクレアもラックスから降りた。


「小僧、見せてみろ」

 アルクレアはリオンの腕に触れないように、慎重にその腕を調べた。


「馬鹿が……手を出すなと言っただろうに」小さく、しかしはっきりと舌打ちしながらリオンに向けて吐き捨てた。


「そんな、リオンは私を助けようとして――」


「それで自分がやられていたら何にもならないだろ。まああんたが捕まるよりは、小僧が捕まった方がマシだろうけどな。何より死ぬことがない…だが死ねないことがむしろ辛いということもあり得る。全身が石になっていたらそれこそ永遠に石のままだお前は。もっと自覚しろ」


 アルクレアはその場に立ちつくした。


「面倒なことになったな……まさか森にここまで襲われるとは。まあ正直に言えば予想しなかった訳でもない。貴様のことなんぞ放っておいて行きたいところだが――」


「そんな!」イリアスが信じられないという顔を見せた。リオンはあまりの痛みに顔を上げる余

裕すらなかった。


「まあまて、話しを聞け。とにかく予定通りこのまま道を進むぞ」


 アルクレアの言葉を聞いてイリアスはまるで悪魔がそこにいるかのように思った。


「このまま進む? まさか本気でそんなことを言っているの? リオンがこんなに苦しんでいるのに!」


「話を聞けと言っただろう。まだ俺が言いたいことが終わっていない。これだからどこぞのお嬢様とやらは嫌いだ。行きあたりばったりで適当にものを言うんじゃねえ。少しは考えてからものを言うもんだ。俺が何も考えていないと思っているのなら大間違いだ。それに言っておくが、俺は何度も説明をするのが嫌いだ。だから耳の穴かっぽじってよく聞けよ。まず小僧のその傷だが――俺の知る限りでその傷を治せるような奴は普通にはいないだろう」


「いないですって? そんな…ならどうしろと言うの?」


 アルクレアはもったいぶって言った。

「つまり、普通の奴に治せないならば、普通ではない奴を尋ねてみるのが一番だってことだ」

 アルクレアはそう言いながら無理やりにリオンを立たせた。


 イリアスがその隣で「それっていったいどういう意味…?」と言ったが、まるで無視された。


「ぐずぐずするな小僧。こんなことに時間をかけたくないのはそれでなくともお前の方だろうが。早くしないとドラゴンとやらを呼び出されてしまうのだろう? それに姫様、あんただってまた国を襲われたくはないはずだ。忘れるな、これは急ぎの旅だ」

 

 アルクレアは再び自分の馬に跨った。

 その様子を見て、リオンは腕の痛みを堪えながら落ちた自分の剣を拾い上げ鞘に納め、イリアスの方をちらりと見て、そしてイリアスの馬へと向かった。


「ちょっと待ってよ。まだどこに向かうかも聞いてないわ」


 イリアスも慌てて自分の馬の方へ向かうが、未だ納得のいかない顔をしてリオンの手をとった。


 仕方がなく二人で一頭の馬に乗るしかない。イリアスの言葉を聞いて、リオンも同じように思った。


「確かにその通りだ。これからどこに向かうんだ?」リオンはイリアスを自分の前に乗せると、片手で手綱を握った。じわりじわりと痛みが引くでもなく増してきていたが、そんな泣き言は言っていられない。


「目的と、不足の事態を天秤にかけた上で、最優先の道を行く。つまり……両方ということになるな」


 アルクレアは面倒臭そうに振り返ると、ぶっきらぼうに一言で答えた。

「砂漠の国、シルヴァザードだ」





シルヴァザード!この単語がどれだけ言いたかったことか。物書き、特にファンタジーを好む方には分かっていただけるのではないでしょうか。

え、そうでもないですか?

それでも一行はこの先の砂漠へと進みます。砂漠越えを長く書くつもりはありませんし、すぐに越えてしまいますが……さてさて、この先に待っている「普通でない奴」とはどんな奴なのでしょうか。

ぜひご一読くださいますよう、長く待っていただける方にはお詫びと感謝をこめて。

2011,2,2

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